魔物の群れが現れた
俺は戦利品の金属装備を束ねて担いでいたが、それを地面に置いて、後列の仲間に『その場で臨戦態勢』と指示を出してから、剣を装備して走り出した。
こっちは広域探知で、敵を事前に把握できたが――
敵の群れも、こちらをすでに補足して、向かって来ている。
探知の魔力に気付いたのではなく、嗅覚だろう。
敵はウォー・ウルフの群れだ。
鼻が利く。
隠密結界が無いと、この距離でも補足されるらしい。
敵は複数、地上に六匹と上空に一匹。
地上はウォー・ウルフ群れ。
上空の敵は、レッサー・コンドルと言う名前の鳥の魔物だ。。
レッサー・コンドルは今のところ、上空を旋回しているだけで、襲っては来ない。
こっちに向かってくる六匹は、ウォー・ウルフ。
戦闘能力は、1200が一匹と、300未満が5匹。
1200の強力な個体は、ひと際大きな体躯で魔法は火属性。
その体からは、魔法の火が噴き出している。
コイツが群れのボスで、他の個体に指示を出している。
上空を飛んでいるレッサー・コンドルの、戦闘能力は200。
ウォー・ウルフを警戒して、近づいては来ない。
山道には女神の加護があるが、町の結界よりも効果は薄い。
人間の死体が落ちていれば、食べにくる魔物もいるようだ。
ウォー・ウルフの群れの先頭を走ってくるのは、魔法の炎を纏った特殊個体。
ボスが先頭を走る……。
こっちを格下と見たか――
俺は水属性の魔法を選択して、迎え撃つことにする。
特殊個体は当然として、他の魔物も強力だ。
後ろの八人で、どの程度戦えるかは分からない。
少なくともボスだけは――
ここから先へ、通すわけにはいかない。
俺は攻撃用の大きめの水球を一つと、小さいのを五つ作り、敵にヒットするイメージで発射する。
大きい水球は、ボス用だ。
魔法の水の球は、発射とほぼ同時に敵に着弾した。
先頭を駆ける特殊個体は、俺が魔法を放つのと同じタイミングで炎の魔法を放つ。
こちらの魔法攻撃を、迎撃して直撃を回避する。
バシュウゥッゥゥウゥ~~~~!!!!
水と炎の魔法がぶつかり合い、辺り一面を水蒸気が覆う。
白い靄で、視界が塞がれる。
ボスは直撃を避けたが、他の五匹にはヒットしている。
俺は隠密結界を張る。
敵の位置と動きは、空間探知で把握する。
特殊個体は匂いで、俺を補足していた。
隠密結界を張ったことで、居場所を見失うだろう。
残りのウォー・ウルフは、水魔法の直撃で二匹は即死。
三匹は深手を負っている。
隠密結界で姿を隠した俺は、最初の一撃でボスの鼻を切りつける。
敵はその体に、炎を纏っている。
俺も対抗して、剣に魔法の水を纏わせた。
その後は、魔法で身体能力を強化。
スピードを上げて移動しながら、ウォー・ウルフの身体を切り裂き続ける。
周りの霧が晴れるまでの、四十秒間に――
一秒に一太刀のペースで、切りつける。
霧が晴れる頃には、ボスは瀕死になっていた。
最後に敵の心臓へと、全力で剣を突き刺した。
後ろではレイレルが、上空に向かって矢を射っている。
俺たちの隙を伺い、近づこうとしているレッサー・コンドルへの牽制だ。
名前にレッサーとついてはいるが、大きさは全長が2メートルくらい、広げた翼は5メートルを超えるだろう。
上空から攻撃しようとしていて、かなり厄介だ。
レイレルが押さえてくれているのは、正直助かる。
俺はボスの身体から剣を引き抜き、後ろの八人の様子を見る。
俺がボスと戦っていた間に――
三匹のウォーウルフは、後ろにいた八人をターゲットにしていた。
俺の水魔法を喰らって、重傷だったとはいえ、魔物の生命力は強い。
まだまだ、動き回ることが出来た。
アカネル、モミジリ、イルギットがそれぞれ剣を構え、一対一の形で敵と相対して、剣で牽制しながら相手を近づけない様にする。
敵が無理に攻めようとすれば、盾を構えたサリシアかナーズが防御を担当して、魔法で重傷を負った敵の消耗を待つ。
ラズとリズが敵の側面に素早く回り込んで、疲弊したウォーウルフを遊撃する。
俺が救援に入るまでもなく、三匹を仕留めていた。
残るは――
「まだ、狙って来てるな――」
「弓で牽制は出来るけど、攻撃は当たらないわ。どうする?」
「引き付けてから、始末する」
俺は近くの木に登り、枝の上に立って弓を装備。
敵に矢を放つ。
当たらなくてもいい――
挑発して、俺を狙わせるためだ。
レッサー・コンドルは俺の思惑通りに、空を旋回しながら向かってくる。
挑発に乗ってくれたようだ。
そこに向かって矢を放つが、難なく弾かれる。
飛行タイプの魔物は、風の魔法を飛行の補助にしていることが多い。
弓の攻撃は弾かれやすい。
旋回しているレッサー・コンドルは、俺に狙いを定めている。
上空からの落下してきた運動エネルギーを、翼と風の魔法に乗せて、猛スピードで近づいてくる。
レッサー・コンドルの爪が届く瞬間、俺は巨大な水風船をイメージして、目の前に水魔法を展開する。
大きさ重視、速度ゼロの水の塊。
それを空中に出現させた。
巨大な水の塊は、レッサー・コンドルを飲み込んだ。
飛行能力を失ったレッサー・コンドルは、そのまま水の塊と共に、重力に引っ張られて地面に激突した。
俺は木の枝から飛び降りながら、装備したこん棒を敵の頭に叩きつけた。
周囲にレッサー・コンドルの、血と肉片が飛び散った。
――この戦いの、勝敗は決した。




