山賊が現れた 5
おいおい、マジかよ。
山賊くらいは、なんとでもなるだろうと、思っていたが――
こいつの強さは、想定外だ。
魔力探知で測った戦闘能力は730で、俺が苦戦するほどではないのだが、人間にはモンスターとは違った強さがある。
――何か。
強力なスキルでも、使っているのだろう。
山賊の親分の足元には、盾の残骸がある。
残骸は焼け焦げていて、大部分は炎で溶けて無くなっている。
…………。
俺の作った炎の壁は、盾だけで突破できるような代物ではない。
生身で飛び込めば、普通に焼け死ぬ。
こいつ自身の魔力抵抗が高いのか――?
それとも、魔法攻撃を軽減できるような、そんなスキル持ちなのか――
いずれにせよ――
コイツ相手に、魔法は決め手にはならない。
その前提で、戦う必要がありそうだ。
洞窟の入り口には、山賊の死体が転がっている。
洞窟内の山賊は、――
俺の奇襲で全員死んでいる。
親分以外に、生き残りはいない。
俺は、剣を装備して構えた。
「お前は、何者だ? まだ仲間がいるだろ? さっき魔法を打ち込んできた……。もう逃げたか――?」
山賊が、話しかけてくる。
情報収集のつもりだろうが、逆にこちらに情報を提供することになった。
どうやら――
こちらに魔法使いがまだいると、思い込んでいるようだ。
山賊の親分は、辺りを警戒しながら、俺に近づいてくる。
俺はこちらの間合いに入った、山賊の親分に剣を振り下ろす。
キィィイイン!!
俺の攻撃は、山賊の籠手に防がれた。
山賊の装備は、かなり上等なものだ。
防具は両腕に籠手、武器はメリケンサック――
素早さ重視の、武道家スタイル。
俺は小刻みに移動し――
敵に距離を詰められない様に牽制しながら、とにかく攻撃の手数を増やす。
俺の攻撃は、ことごとく防がれている。
たまに浅い傷を付けることはあるが、致命傷には程遠い。
それでも、攻撃し続ける。
相手に攻撃の手番を渡したくないのもあるが、敵の意表を突くために、剣での攻撃に意識を向けさせておきたい。
俺は切り札の一つである空間移動を、すでに使ってしまっている。
他の手で、敵の意表と隙をつく。
まずは、これだ――
火炎を魔法で作り出し、山賊の顔を目がけて放射する。
山賊の親分は、魔法使いが別にいると考えている。
この攻撃は、想定外のはずだ。
魔法抵抗が高かろうが、喰らえば無傷では済まない。
決め手にはならなくても――
ダメージは入るし、隙を作り出せる。
俺の火炎魔法は、山賊の顔面を直撃するが――
敵は、死ななかった。
普通の人間なら、消し炭になる攻撃を耐える。
完全に不意を突いたが、防がれた?
山賊の、顔は焦げている。
ノーダメージではない。
オートガードか?
俺の思考は加速するが、考察している時間はない。
敵との戦闘に集中する。
魔法では倒せなかったが、隙を作ることは出来た。
その隙をついて、俺は剣を山賊の脇腹に突き刺した。
剣は深く、山賊の腹を抉っている。
俺は刺した剣を引き抜いて、もう一度突き刺そうとする。
ここで勝負を、決める!!
勝負を焦った、俺の頭を――
山賊が掴んだ。
――ッ!!
そのまま山賊は、俺を片腕で持ち上げ走り出す。
マズイッ!!――
闘気を、頭に纏わせる。
山賊は崖まで最高速度で走り、俺の頭を岩壁に押し込む勢いで――
ドゴォオッッ!!!
叩きつけた。
闘気を纏って頭部の強度を上げていたので、死ぬことは無かったが――
それでも、岩にぶつけられた瞬間、目に火花が飛んだ。
剣を、手放してしまっている。
俺のHPは、半分を切った。
山賊は俺の頭を、二度三度と岩壁に叩きつける。
俺は短剣を装備して、山賊の手首を切りつける。
握力が緩んで、山賊は俺の頭を手放す。
「まだ……隠し持っていやがったか――フンっ」
山賊が気合を込めると、傷口がみるみる塞がっていく。
それに伴いはぁはぁ、と息切れしだした。
おそらく体力を消費して、傷を治すようなスキルだろう。
「手こずらせやがって、このチビがッ!!」
奴が傷を治している隙に、俺の方も回復薬を取り出して治療を行う。
俺の傷と体力が、回復する。
手放してしまった剣とは、距離がある。
拾う隙は、無い。
武器は、このまま短剣でいく。
山賊は積極的に攻勢をかけてくる。
俺は敵の攻撃を、短剣で受けながら後退していく。
一撃、二撃、三撃と攻撃を受けた後で――
短剣に闘気を、ありったけ込る。
四撃目は後退せずに、踏ん張って受けた。
「ぐっ、……ぎゃあああっぁぁああ!!!!」
山賊の悲鳴が、山の中にこだまする。
俺の短剣は山賊の拳を、メリケンサックごと真っ二つに切り裂いていた。
俺はそのまま、短剣を山賊の腹に突き刺した。
俺は跳躍して、山賊の肩の上に飛び乗り、頭を掴んで魔法で炎を作り出す。
山賊の頭は、炎で包まれる。
闘気はもう――
使い切っている。
俺に残っている余力は、この魔法だけだ。
これで仕留められなければ、俺はこいつに殺される。
そんな危機感が、俺を必死にさせている。
魔法で身体能力を強化。
渾身の力を込めて、山賊の顔をグリップして、魔法の炎を維持する。
魔法耐性が強くても、酸素が無ければ死ぬだろう。
山賊は無事な方の手で、俺の手首を掴む。
――そして
二分後……、
焼け焦げた山賊の死体が、地面に転がっていた。
俺は少し離れた場所で待機させている、アカネル達と合流するべく歩き始める。
その時、キャッー-!!
という、甲高い女の悲鳴が響いた。
あの声は――
モミジリか?
俺は声の場所へと走り出した。




