初めての戦闘
農場の端にある柵まで徒歩で来た。
最近は体力をつけるために夜は走り回っていたが、これからモンスターと戦闘するのだから、なるべく体力は温存しておきたい。
農場の柵は簡単に乗り越えられる。
女神の加護がかかっている農場に、モンスターが侵入してくることはまずない。
外敵対策というよりは、家畜が逃げ出さない様に囲っているのだろう。
ここで暮らしていて感じたが、奴隷の逃亡とかは考慮して無さそうだ。
外に勝手に出る奴隷というのは、農場主にとって想定の範囲外だろう。
軽々と柵を乗り越えた俺は、平原を慎重に歩みを進める。
所々に木や草むらがあるが、見晴らしは良い。
予期せぬ敵に不意打ちを食らうことはないだろう。
この先をずっと行けば、川があるはずだ。
今日はそこまで行ってみるか――
そんなことを考えながら歩いていると突然、肌にピリッとした感覚が走った。
スキル『危険感知』が、前方にいる魔物に反応したようだ。
俺の前方の二百メートルくらいの茂みの辺りに、液体の塊がフヨフヨとしている。
おおっ、スライムか!
向こうも俺が見つけた瞬間に、こちらに気づいたようだ。
最初はぴょんぴょんと地面を跳ねながら、徐々にスピードを上げる。
そしてこちらへと、一直線に向かってくる。
意外と早いな――
スライムはどんどんスピードを増す。
スタート地点の助走から、十五秒ほどで俺を攻撃できる射程内に近づいてきた。
俺は装備している木の棒を構えて、迎え撃つ体制を整える。
俺は構えた木の棒で、スライムの突進を受け止める。
ズッッ!!
俺の構えた木の棒にぶつかったスライムは、真っ二つになり――
びしゃッ!!
体当たりの勢いのまま地面に激突した。
敵の突進の勢いを利用して、上手く切断できたようだ。
ほぼ自滅だったな。
これで倒したかと思ったが、スライムの半分の方はまだ形を維持している。
「まだ生きてるのか?」
それでも身体が半分になり、地面に激突したスライムの動きは鈍い。
俺はスライムに追撃を加えた。
木の棒で攻撃する。 ドッ! ドッ! ドッ!!
弾力があり中々形を崩せないが、それでも少しずつスライムの体積は小さくなり、最後は小さな石だけになった。
その石を拾ってみると、微かに魔力を感じる。
「これは、やっぱり『魔石』だよな」
倒したモンスターから魔石を回収する。
ファンタジー世界では定番だ。
回収した魔石に魔力を流して『鑑定』してみる。
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スライムの魔石 (水属性)
所有者 ユージ
魔石値 000030
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先ほど倒した水の塊のモンスターの名称は『スライム』で間違いないようだ。
魔石には属性もあるのか。
「しかし、これはどこに仕舞っておこう? アイテムボックスとかはないし……」
異空間とかに仕舞っておけたら便利だよなぁ。
なんて思っていると俺の手の中から魔石が消失した。
俺は慌ててステータスをチェックする。
所持品の項目の中に魔石値30と表示されていた。
取り敢えず安堵した。
しかし、魔石を取り出したいと念じても俺の手の中に魔石が現ることは無かった。
「えっ、取り出せないのか?」
どうする?
取り出せないとなると、収納しておくのは考えものか?
いや、魔石値という数値は増えている。
すぐに使い道があるわけでもないし、収納しておけば荷物が嵩張らない。
「保管する場所もないし……」
俺はこれからも、魔石を異空間に収納することにした。
「もう少し、探索を続けるか――」
俺は顔を上げて左右を見渡すと、危険感知が作動する。
斜め右前の方向の茂みが、かすかに揺れている。
目に魔力を込めて視力を上げると、半透明の液体が見える。
――スライムだ。
俺が慎重に近づいていくと、向こうも俺に気付いたようで、ゆっくりと近づいてくる。コイツはさっきの奴みたいに、飛び跳ねて近づいてこない。
間合いが近いと敵へのアプローチも違うのか。
俺はスライムに叩き付けるために、木の棒を振りかぶる。
その瞬間、スライムが俺の顔を目がけて飛びかかってきた。
ドボッ
予備動作無しの攻撃に対処できず、スライムの攻撃をまともに食らってしまった。
しかもスライムは、俺を窒息死させようとそのまま顔にまとわり付いている。
息が出来ないし、目も見えない。
焦りが生まれる。
それでも俺は無理やり心を落ち着かせ、スライムの魔石の反応を探る。
鑑定の要領で、自分の魔力でスライムの身体をスキャンする。
――ここか!!
俺はスライムの体内にある魔石を握り締めた。
そのまま魔石をスライム本体から引き離そうとするが、液体が動いて魔石にくっついてくる――切り離せない、困った。
このままじゃ死ぬ。
空間移動で離脱しようとしたが、その前に閃いたことがある。
握っているスライムの魔石に、自分の魔力を込めれるだけ込める。
そのまま数秒間、魔石に魔力を送り続ける。
するとスライムの俺に対する敵意が消えて、俺の顔からするりと離れた。
このスライムからは魔物特有の邪悪さや、人間への攻撃意思というものが完全に消失していた。
敵意が無くなったことを確認した俺は、魔石から手を離しスライムを解放する。
解放されたスライムは逃げるでもなく、俺の目の前でじっとこちらを見つめている。いや、スライムに目はないから、そんな気がするだけだが……。
「これは、ひょっとして―― 」
『仲間になりたそうに、こちらを見ている』
というやつなのではないだろうか?
「ああ、いいぞ。仲間にしてやる」
スライムは嬉しそうに、一度だけピョンと跳んだ。
先程の戦闘での俺は閃きは、『スライムの魔石』と『周りの液体』の魔力的な繋がりを一時的にでも切断すれば、スライムは身体を維持できなくなるのでは?
というものだった。
その発想で魔力を込めて魔石を握った。
俺の狙いは外れたが、魔石に魔力を流し込んだことで、意図せずにスライムを自分の『従魔』にしたようだ。
俺が仲間にしてやると言った直後に、俺とこのスライムとの間に魔力的な契約というか、繋がりが生まれた。
――と思う、確証はないが。
「一応ステータスを確認しておくか」
自己鑑定すると、職業に『魔物使い』などが追加されている。
さらに『従魔』の情報が増えていた。
そして――
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従魔 スライムLv01
名前 スラ太郎
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「レベル1のスライムに殺されかけたのか。てゆーか……お前、男なのかよ――」
――ハーレムパーティを目指す、俺の最初の仲間は男だった。