山賊が現れた 4
問題はどうやって、山賊討伐を進めるかだ。
山賊の根城は恐らく、アカネルとモミジリのオシッコポイントの先の、けもの道の奥だろう。
そちらに向けて魔力探知を打てば、所在ははっきり掴める。
しかし、それと同時に、敵がこちらの存在に気付く恐れもある。
魔力感知能力の、高い奴がいればだが――
敵の下っ端に魔法使いがいたので、俺も慎重になっている。
山賊達は寄せ集めの集団らしく、練度はバラバラだった。
――先ほど倒した三人は、結構強かった。
親分がどの程度の強さなのかは、判らない。
やはり、気になるのは――
魔法使いを、配下に従えていた点だ。
山賊の親分は、それが出来るだけの強さがあるのだろう。
俺はけもの道から、外れて――
草木の生い茂る、山の中を歩いている。
隠密結界を張って、魔力探知を短く飛ばしながら、慎重に進む。
俺の左斜め後方には、松明の明かりが見える。
アカネル、モミジリ、イルギット、サリシア、ナーズ、ラズ、リズの七人が、けもの道を通って進んでいる。
俺の左前方に、魔力反応があった。
罪科ポイントの多さから、山賊の一味だと思う。
松明を持ってけもの道の先の、アカネル達のいる方向へと進んでいる。
俺は山賊の後ろへと、回り込むように移動する。
山賊は立ち止まり、前方の松明の明かりに向かって、小さく口笛を吹く。
山族同士が、仲間かどうかを確かめるための符丁だろう。
前方の明かりからは、何のリアクションもない。
山賊は警戒して、腰に差しているシミターを抜き放つ。
俺はそのタイミングで、後ろから山賊の首を、剣で切断して刎ね飛ばした。
山賊が大声を上げる前に、始末することが出来た。
――順調だ。
このまま、こちらの存在を敵に気付かれることなく、アジトに接近することが出来れば、有利に討伐を進められる。
ラズとリズは、馬車に乗せられていた。
――馬車で、けもの道は通れない。
山賊は二人を山の奥のアジトではなく、サイザルの壁外地区に運ぼうとしていたのではないか――
ひょっとすると、そこにも山賊のアジトがあるかもしれない。
アカネルとモミジリにシミターを突き付けた三人組の役割は、小鬼族の捕虜の確認とアジトへの報告だろう。
報告係の三人がいつまでも帰ってこないので、様子見の人員を手配した。
それが、さっき殺した奴だ。
――推測だが、大きく外れてはいないだろう。
俺の推測が正しければ――
アジトにいる山賊達も、何かしらの異変は察知しているかもしれない。
様子見の斥候がいつまでも帰ってこなければ、警戒を強めるはずだ。
俺は確実に奇襲をかける為に、足早に山の中を進んだ。
茂みに潜んで、前方を見る。
森が開けた場所に崖と、崖を抉る洞窟があった。
アカネルたち七人には、俺のさらに後方で、待機するように言ってある。
山賊のアジトだと思うが、見張りは立っていない。
不用心すぎる。
――というか、魔物が入っていかないのだろうか?
何かの罠の、可能性もあるが――
いつまでも洞窟の様子を見ていても、埒が明かない。
俺は悩んだ末に、広域探知を使うことにした。
敵に気付かれるリスクはあるが、洞窟の中には山賊以外にも、ラズやリズのように攫われた人間がいるかもしれない。
いきなり、無差別攻撃は出来ない。
俺は魔力探知を洞窟方向へと放ち、中の様子を探る。
洞窟内には、罪科ポイントの高い人間が十六人いた。
ひと際、戦闘能力の高い奴もいる。
こいつが親分だろうか?
山賊のアジトで、間違いないようだ。
囚われている様な、普通の奴はいない。
しかし、こいつらは総じて、罪科ポイントが高いな。
チームとして行動した場合は、連帯責任なのかもしれない。
俺はそんなことを考えながら、自身の魔力を火属性へと変化させる。
今の探知に気付いた奴がいれば、隠密行動に意味はなくなる。
なるべく早く、奇襲攻撃すべきだ。
俺は両手に一つずつ、炎の球を作る。
一発ずつ時間差で、洞窟の中へと投げ込んでやった。
炎の球は、俺のイメージ通りに――
着弾と同時に、爆発するように燃え広がった。
洞窟の中が、赤く光る。
中にいる山賊たちの、悲鳴と怒声が聞こえる。
俺は少し思いついたことがあり、洞窟の入り口の前まで移動する。
魔法で作った炎の壁で、洞窟の入り口を塞いでみた。
魔力探知で、大雑把ではあるが内部構造が解る。
洞窟内は入り口から一本道で、奥の方でいくつか道が別れて、その先に、部屋があったりするが――
外に繋がる出入口は、ここ以外にない。
魔法で作った炎も、空気中の酸素を消費している。
ここでこうして、出入り口を炎で塞いでいれば、山賊の残党を完封できるはず――
暫くそうしていると、奥の方から山賊がこちらに向かって走ってきた。
しかし、炎の壁に気付くと立ち止まり、右往左往し酸欠で倒れだす。
これで決着がついてくれれば、楽なんだが――
しかし、そう上手くはいかなかった。
一人の巨漢の男が、大きめの盾を構え――
炎の壁を突き破り、俺に向かって突進してきた。
――早いッ!!
山賊の親分の、タックルが迫る。
ドガッ!!!
俺は躱すのは無理と判断し――
衝突の瞬間に、自分で後ろへ飛んで衝撃を逃がした。
しかし、それでもHPの三分の一が、一気に削られた。




