山賊が現れた 3
空間移動で移動した俺の目の前に、山賊の背中があった。
山賊は三人とも、俺が現れたことに気付かない。
気付かれる、前に――
俺は一番手前にいた、山賊の首を斬り飛ばす。
辺りに血が、撒き散らされる。
まずは、一人。
異変を察知して、こちらを振り向いた山賊の胸に、剣を突き刺す。
これで、二人。
最後に残った山賊は、俺に向かってシミターを振りかぶり、切りかかろうとしている所だった。
山賊に刺した剣を、引き抜く時間はない。
俺は剣から手を放し、後ろへと下がり敵の攻撃を躱す。
俺の目の前を、シミターが振り下ろされる。
俺は武器を振り下ろした状態の敵へと、自分から距離を詰めて――
山賊の手首と胸ぐらを両手で掴み、足を引っかけ――
柔道の足技の要領で、敵の重心を後ろへと、無理やり崩す。
山賊は盛大にバランスを崩して、地面に倒れ込んだ。
倒れ込んだ敵の腹を、闘気を込めた足で蹴る。
山賊はそれを、左腕でガードする。
ゴキっ、という骨の折れる音がした。
「グギャああぁあァアァァッァッ!!」
左腕が、折れ曲がっている。
痛みのあまり、山賊は――
武器を手放して、呻きながら蹲っている。
俺は地面に落ちていた敵の武器を拾い上げて、それでそいつの首を切り落とす。
これで、三人目。
周囲にまだ敵がいないかを、一応確認してから――
アカネルとモミジリの様子を見る。
二人は怯えていたが、怪我はないようだ。
一先ずは、ホッとする。
この二人が襲われているのを見た時は、焦りと不安を覚えた。
驚かせやがって。
残りの三人は、少し離れたところにいる。
「いったい、何があった?」
俺は二人から、事情を聴くことにした。
「べ、別に、何でもないわよ。そっ、それより、あんたこそ、突然現れて――」
俺の問いかけにアカネルは焦りながら、話題を逸らそうとする。
「――ん?」
血とは違う刺激臭……
俺は視線を、二人の足元に移す。
そこには暗闇で見えにくいが、大きめの水たまりが出来ていた。
「言いにくいかもしれんが、状況と経緯を説明してくれ。山賊がまだいるかもしれない。情報が欲しい――」
俺の説得に、二人は渋々と経緯を話し始めた。
「あんたが山賊退治に行って、暫く経ってから……その、私達、催して……きちゃって――」
「我慢できないほどじゃ――なかったけど、近くに山賊がいるって言うし……いつ何が起きるか――分からないから――」
「今のうちに出しておこう、ってなって……しゃがんだところで、そっちから――」
「山賊が現れて、剣を抜いて『お前たち、そこで何してるって』――剣を突き付けられて……」
「そ、それから――その時にっ、あんたがなんか、突然やって来たのよ!!」
なるほど――
春になったとはいえ、日が落ちれば、まだ冷える。
それに加えて、近くに山賊がいるという恐怖と緊張感もあって、尿意を催して――
いざ、放出しようとしたところに、山賊がやって来たわけだ。
二人は、言いよどんでいたが――
二人とも山賊にシミターを突き付けられて、漏らしてしまったようだ。
ズボンを脱いだ状態で洩れたのは、むしろ運が良かった。
最初に見つけたあの一団以外にも、山賊はまだいるようだ。
俺は先ほど倒した、三人の山賊が来たという方向を見る。
よく見ると山の中に、草木の生えていない道がある。
人が頻繁に歩いて、出来た道だろう。
恐らくその奥に、山賊達の根城があるはずだ。
「ユージ、いるか?」
山賊から救出した小鬼族の、ラズとリズがやって来た。
俺は地面に落ちていた山賊の松明を拾って、アカネルに手渡す。
「――ああ、こっちだ」
俺は仲間五人に、ラズとリズのことを紹介した。
そして、山賊達の動向を共有して整理することにする。
辺りはもう真っ暗だし、山の中で障害物も多い。
この辺りは山賊の通り道の可能性が高いので、山道の少し外れたところに移動して話をすることにした。
ラズとリズの暮らしていた小鬼族の村が、人間の山賊達に襲撃された。
小鬼族は交戦して抵抗したが、山賊には敵わなかった。
戦闘が数日間続き、自分達では山賊に勝てない――
そう村人たちが思い知ったタイミングで、山賊達から提案があった。
「大人しく生贄を差し出すなら、この村から手を引いてやる」
山賊の要求は、小鬼族の子供二人――
村人の間では、賛否両論あった。
従うか、戦うか――
大人たちの話し合いを聞いていたラズとリズの二人が――
このまま全滅するよりはと、生贄に志願したのだそうだ。
二人の親は山賊との戦闘で戦死していて、この先、自分たちは村のお荷物になる。
そう考えて、決断したそうだ。
村の中で話がまとまり、山賊に白旗を上げて、要求を受け入れると知らせて――
馬車に乗せられ、移動していたところを、俺に助けられた。
――という流れのようだ。
「山賊は後、何人いるか分かるか?」
「正確には解らない。けれど山賊の親分は、まだ死んでない――」
ラズとリズによると山賊の中で、特に強かったのは親分だ。
その次に厄介だったのは、魔法使い。
それ以外にも何人か手練れがいたが、そいつらは敵わない程ではなかったそうだ。
話を整理してみると、このままラズとリズを村へ送り届けて――
『めでたしめでたし』、とは行かないようだ。
山賊の数はかなり削ったが、親分とやらがまだ残っている。
そいつを始末しなければ、この事件は解決とはならない。
首を突っ込んだ以上は、そこまでするのが筋だろう。
俺は山賊の、残党狩りをすると決めた。




