山賊が現れた 2
「グッ、ぐぎゃああぁっぁぁあ!!!」
俺が突き刺した槍は、土下座した状態の山賊の脇腹に突き刺さっている。
腹を槍で貫かれていた山賊は、ゴキブリのように藻掻いている。
コイツは『自分は転生者だ』と言っていた。
どうみても、三十~四十代の中年の男だ。
この世界の転生者は、全員が俺と同じ年齢のはずだ。
見た目や年齢が、何らかのスキルの影響で変化しているのか?
それとも転生者の情報を、どこからか入手したのか?
それは解らないが、聞いても無駄だろう。
コイツの言葉を、信用する気はない。
広域探知で山賊連中を簡易鑑定した時に、罪科ポイントはチェックしている。
鑑定で得られる個人情報の中でも、罪科ポイントはチェックしやすい。
盗賊の類は、判別しやすいように出来ている。
そういう仕様なのだろう。
広域探知で得られたコイツの罪科ポイントは、一万を超えていた。
他の山賊の五倍以上の罪科を、ため込んでいる。
こんな奴と、交渉しても無意味だ。
だが、情報収集として――
一度くらいは、なにか聞いてみるか。
――それにしても、しぶといなコイツ。
まだ、生きている。
「お前、この馬車に乗せている二人は、攫ってきたのか?」
「…………ち、違うッ、こいつら病気だって言うから、医者に連れてくところなんだ。小鬼族の、村の奴らに頼まれて――がギャアあぁ……」
俺は槍を山賊の首筋に刺して、動脈を切断する。
血が勢いよく噴き出して、山賊から生命力が失われていく。
こいつから情報収集しようとするのは、時間の無駄だったようだ。
なんか、胡散臭いんだよな、コイツは……。
だが、まあ――
山賊達に捕まっているのは、『小鬼族』だということは解ったか――
俺は山賊達が腰に下げていた、荷物袋を漁り金目の物を物色する。
回収できたのは、銀貨二十八枚と銅貨四十枚。
人数は多かったが、持ち歩いている現金はこんなものだった。
ここから逃げて、隠れていた奴らの分は、漁っていない。
わざわざ、回収しに行くのは面倒だ。
どうせたいして、金を持ってないだろう。
他にも携帯食のようなものが入っていたが、それはいらない。
辺りは暗くなってきていたので、山賊が持っていた松明に魔法で火をつける。
俺は夜目が効くが、これから助ける二人が、暗闇だと不安だろう。
俺は馬車の外から――
「これから、お前たちをそこから出してやる。危害を加える気はない!!」
大きめの声で、中の二人に聴かせるようにそう言うと、荷台の幌を開ける。
そこに居たのは、猿ぐつわを噛まされ、身体を縛られた少女二人。
二人の背丈は人間の子供ほどで、頭には角が生えている。
あの山賊が小鬼族と言っていたが、そのままの見た目だった。
二人は少し怯えて、警戒するように俺を見ている。
しかし、二人から敵意は感じないし、暴れる様子もない。
俺は二人の縄を、解いてやることにした。
山賊から助け出した少女二人を連れて、山道を引き返している。
五人と合流するため、移動しながら小鬼族の二人から、事情を聞いている。
小鬼族というのは、モンスターとは違う。
人間に近い亜人種で、言葉も通じる。
山の中に住んでいて、村を作って生活しているらしい。
人とも、交易がある。
人と違うのは、見た目が少しと――
『モンスターから、積極的に襲われない』という特性がある。
後は、――
闘気の扱いに、長けた者が多いそうだ。
小鬼族は山賊達に村を襲撃されて、交戦したが力及ばず降伏。
戦利品として、この二人が差し出されたのだという。
小鬼族は闘気を扱える者が多いんだから、結構強いんじゃないのか?
あの盗賊連中に、後れを取るとは思えないが……。
連中の中に、魔法使いがいたからか?
その辺の話を聞きたかったが、村を襲われたばかりのこの二人に、これ以上聞くのは気が引けた。
村に送り届けた時にでも、大人の小鬼族に詳しく聞こう。
二人は姉妹で、名前はラズとリズ。
ラズが姉でリズが妹、特徴は小さい角が生えていることと、肌の色。
ラズが青で、リズが赤。
せっかく助けてやったのだ。
ついでに小鬼族の村まで、送り届けてやろうと思う。
辺りはすっかり、闇で覆われている。
みんな心配しているかなと、五人がいる辺りに目を向ける。
――んっ?
その辺りに、松明のものであろう、明かりが灯っている。
おかしい。
俺たちは、松明など持っていない。
俺は視力強化の魔法と、魔力探知で状況を確かめる。
アカネルとモミジリが、ズボンを下ろした状態で座り込んでいて――
三人の山賊と思しき男が、二人に向かってシミターを突き付けている。
どういう状況だ?
とりあえず――
隣に居たリズに持っていた松明を渡し、先方の明かりを指さして――
『先に行く』と言ってから、剣を装備する。
空間移動のスキルを使って、山賊達の背後へと移動した。




