山賊を発見した
俺たちは、山の中の道を歩いている。
道には女神の加護がかかっているため、出現するモンスターは雑魚ばかりだ。
山道と言っても、舗装されているので歩きやすい。
ちょうどいい機会なので、隊列の先頭をアカネルとモミジリとイルギットの三人に交互に任せることにした。
生い茂る木々に太陽の光が遮られるせいで、山の中の道は、かなり薄暗くなるところもある。茂みに潜んで襲い掛かってくる敵もいる為、三人には緊張感を持って歩いてもらう。
この山歩きは、良い訓練になっている。
魔力探知を道に沿って、定期的に放っているので、予期せぬ強敵に遭遇するといった事態に、陥る危険はない。
一日歩いて日が落ちる前に、野宿の用意をする。
寝袋をサイザルの町で買って、持ってきている。
テントの購入は悩んだが、荷物が嵩張るし、準備に時間がかかりそうなので、止めておいた。このパーティで、荷物持ちを担当するのは、消去法でナーズになる。
……この子に大荷物を持たすのは、流石に気が引ける。
出来るだけ荷物を少なくして分散し、一人に労力をかけないようにした。
荷物持ち専門の人員も、欲しいところだ。
山道の横の、少し開けた場所をキャンプ地として、焚火を起こす。
薪はサイザルで買ってきたものを使い、火は俺の魔法でつける。
食事は麦を買い込んできたので、それを鍋で煮て、お粥にして食べる。
後は、冒険者ギルドの系列店で購入した、湯沸かしに水を入れ、沸騰させて茶葉を入れて飲む。
麦のお粥と、温かいお茶――
今回の旅の間の食事は、これでいくことになる。
夜は交替で、見張りをする。
イーステッドまでは、歩きで三日はかかる。
俺は回復薬を使って不眠不休でいくつもりだが、見張り役に油断されても困るので、俺が眠らずにいることは伏せておく。
山賊が出るという、情報があったのだ。
気を引き締めていく。
二日目までは大したトラブルもなく、順調に旅を進めたが――
その日の夕方に、異変は起きた。
俺たちが野営しようとした場所から、広域探知を放つと――
一キロほど北の道の先に、複数の人の反応があった。
魔力探知に引っかかったのは、全部で二十一人。
そのうちの十九人のステータスから、罪科ポイント超過の警告が表示された。
話に聞いていた、山賊の群れだろう。
「ちょっと行って、狩って来る」
「はっ? 何言ってんのよ!!」
「あ、危ないんじゃ……」
アカネルとモミジリは、相手の人数と無法者の山賊に警戒しているようだが、相手の戦闘ステータスは、一番高い奴が290で次が180、後は50前後しかない。
敵の中で、一番戦闘能力の高い奴は、恐らく魔法使いだ。
魔力探知を当てた時の、魔法抵抗が他の奴とは明らかに違った。
だが、俺の魔力探知に反応するだけの、魔法感知能力は無さそうだ。
俺が奇襲を掛ければ、楽勝だろう。
「大丈夫だって、お前らは一応、その辺に隠れてろよ。ああ、あんまり山の奥に行くと強い魔物が出るかもだから、気を付けろよ」
「いや、あんた……やっぱり頭、おかしいわ。山賊よ! わざわざ、戦いに行くなんて……」
「そ、そうだよ。一緒に隠れて、やり過ごそうよ――」
アカネルとモミジリだけではなく――
俺以外の五人の意見は、隠れてやり過ごすが多い。
二年間魔物と戦い続けた俺とは、まだ感覚が違うようだ。
五人は安全策を主張する。
まあ、言われてみれば、それもそうかと思う。
例えば前世で――
二十人規模の反社会的な人たちが、街を歩いているのを見たらどうする?
よし!
退治しよう!!
などという奴がいれば――
頭おかしいんじゃないの?
――と、十中八九言うだろう。
だが、ここは異世界で、俺は今回補足した山賊を、軽く蹴散らすくらいの強さを手にしている。
山賊は俺にとって、獲物でしかない。
俺は大丈夫だからと言って、隠密結界を張り、山賊のいる方へと走り出した。
倒せる獲物が近くに居るんだから、狩っておく。
それだけだ。
敵との距離は、まだ開いている。
気付かれる恐れは、ないだろう。
俺は山道を走って、敵に近づく。
そろそろ相手から視認されるかなというところで、道を外れて木の上に上る。
魔力を土属性に、変化させて敵を待つ。
じっと息を潜めて、敵が目の前を通り過ぎるのを待つ。
山賊たちは、荷馬車で何かを運んでいる。
山賊の荷車の中を、空間探知で調べる。
中には人……?
――が、二人がいる。
人と言って良いのか解らないのは、二人の少女には角が生えているからだ。
直接魔力を流して鑑定すれば、もっと詳しい情報が手に入るのだが――
二人とも縛られているし、状況的に山賊に捕まったのだろう。
助け出してから、詳しく話を聞いてみよう。
山賊の集団は――
俺から見て、右方向から左へと通り過ぎた。
最後尾の奴の、後ろ姿が見える。
この辺で良いだろう。
俺は魔法で石つぶてを、三十個ほど作り上げて発射する。
山賊たちの進行方向の、右側にいる奴らを狙った。
山賊が馬車を盾に、立ち回ると面倒だ。
それに、右側には魔法使いと思わしき奴もいる。
最初の奇襲で、潰しておきたい。
俺の放った石つぶてを喰らった山賊たちは、悲鳴を上げながらその場に倒れ伏す。
この近距離から放った石は、山賊の身体を貫通している。
革の鎧を着ている奴もいるが、それも難なく貫いている。
攻撃を受けた山賊の、阿鼻叫喚の悲鳴があたりに響いている。
攻撃された奴以外は、まだ何が起きたのか把握できていない。
俺は木の上からさらに、土魔法で石つぶてを三十個作り、敵に向けて放つ。
全部で十一人が、地面に倒れ込んでいる。
ようやく残りの山賊たちも、襲撃を受けていることを理解したようだ。
六人が悲鳴を上げながら、散り散りに逃げていく。
まだ戦意を失っていない残りの二人は、手に武器を構え戦闘態勢で、キョロキョロと周囲を警戒する。
「どこに居やがる。出てこい卑怯者っ!!」
構えている武器は、シミターと呼ばれる三日月状の刃の刀だ。
俺は装備した弓を引き、山賊に向かって矢を放った。
辺りは夕暮れから、夜に入りかけている。
暗闇が、山を包みだす。
俺は山賊を弓で攻撃し続けて、二人を行動不能に追い込む。
これで全部で、十三人の山賊を無力化した。
石つぶての攻撃を喰らって、まだ動ける奴もいる。
当たり所が、良かったのだろう。
きっちり追加で矢を当てて、無力化しておく。
後は、逃げ出した六人だ。
魔力探知の効果はまだ残っているので、場所は把握できている。
山の奥に入りすぎると、強い魔物に出くわす恐れがある。
あまりここから離れずに、身を潜めている。
俺は短剣を装備すると、木から降りて残党狩りに向かう。
隠れている敵に、見つからない様に近づいて――
後ろから、急所に短剣を突き刺す。
逃げ出したやつらの、戦闘能力は高くない。
俺はその作業を、数分で終了させた。
さて、後は馬車周りの敵だ。
止めを刺して回る――
装備を槍に切り替えて、まだ息のある山賊から、順番に殺して回る。
意外と、呆気なかったな。
そう思い最後の一人に、止めを刺そうとしたとき――
そいつは俺の、予想外の行動に出た。
そいつは、地面に頭と両手をつける。
身を縮こませながら、こう言った。
「た、助けてくれ、お、俺は転生者なんだ!!」
「そうか――」
「お前もだろう、なあ、見逃してくれよ。た、頼むッ!!」
「――断る」
俺は静かに、槍を構え――
土下座スタイルで、許しを請うそいつに、突き刺した。




