冒険者始めました
ガシッ……
俺は片手で大兎の角を掴み、闘気を込めた拳でそいつの顔面を殴りつけた。
ゴッ、と打撃の衝撃音が響き、大兎はその場に倒れ伏す。
「こんな感じで倒せ。わかったか?」
俺は大兎の首筋と足の付け根を短剣で切り裂き、血抜きを施しながら振り返り、アカネルとモミジリとイルギットの三人に声をかける。
血抜きのやり方は、冒険者ギルドで聞いた通りにした。
農場でも見たことがあるし、これで問題はないだろう。
俺たちがいる場所は、サイザルの北西にある草原。
町からは三キロほど離れた場所で、低ランク冒険者の狩場だ。
俺たちは冒険者として、初めての狩りに来ている。
狙う獲物は、大兎。
毛皮と角に価値があり、肉も食用として流通している。
この辺りの魔物の中では、一番高値で買い取られる獲物だ。
そのため、ギルド貢献度も稼ぎやすい。
少ない損傷で仕留めた方が高値が付くらしいので、素手で倒した。
「こんな感じでっ、て言われても……」
「えっ? 何あんた、ビビッてんの?」
乗り気でないイルギットをアカネルが煽る。
「アカネちゃん、あれは無理だよ」
「そうよ、バカね。あんたアレ、持ち上げることできる? やってみなさいよ」
アカネルを嗜めるモミジリに、イルギットが同調する。
「んっ、……確かに、重いわね」
「そんなのが、あのスピードで向かってくるのよ。受け止めるなんて無理よ」
大兎を持とうとして断念するアカネルに、イルギットが畳みかける。
「アカネちゃん、焦って怪我でもしたら大変だよ」
「……それも、そうね。無理だわ!!」
俺も三人の会話を聞きながら、それもそうかと思い、考え直す。
そういえば俺も、最初の時は大兎の攻撃をかわして切りつけて倒していた。
一番金の稼げる倒し方を見せたが、これはあの三人には早い。
……無理だ。
最弱のスライムに苦戦するレベルで、大兎と戦わせるのは無謀だった。
「予定より早く終わったし、空き時間に剣の稽古でもつけてやろうか?」
「いいのッ? そうね、まずは練習からよね」
俺はついさっき仕留めたばかりの、血抜きの終った大兎を荷車に載せる。
この荷車は冒険者ギルドで、レンタルしたものだ。
冒険者ギルドというだけあって、冒険に必要な物は揃っている。
大兎に関する情報なんかも購入した。
生息場所の情報は移り変わるので大雑把なものだったが、モンスターの性質は詳しく聞けた。
大兎は臆病だが好戦的という、相反する性格だ。
人間が一人でいると積極的に襲ってくるが、複数人でいると逃げ出すことが多い。
そのため、大兎を狙って狩るには、一人が囮になっておびき寄せてから、仲間のいる方に誘導して倒すのがセオリーだ。
この辺の情報は、ベテラン冒険者チームの下働きをしていれば、自然と手に入るものだが、囮に使われた新人が大兎に殺されることは、結構あるらしい。
情報は金で買った方が安全だ。
俺は他のチームの下働きなんて、今更する気はないしな。
俺の広域探知を使えば獲物の場所は分かるので、狙いの大兎は効率よく狩れた。
朝から出発して今は昼前、これなら剣の稽古の時間は後で十分に取れるだろう。
俺たちは帰り道で薬草やハーブを採取しながら、サイザルの町へと帰還した。
ハーブや香草は、露天に売られている。
それを購入して魔力反応を登録すれば、広域探知で探すことが出来るようになる。
俺はメモ用の紙も複数購入して、ハーブや香草をスケッチして記録している。
その後で乾燥魔法で水分を取り除いて保管しておく。
半分趣味のようなものだが、どこで何が取れるのかをこうして、記録して周ろうと思っている。
冒険者ギルドの、モンスター解体作業用の建物にたどり着き、大兎一匹の買取査定を受ける。
提示された買い取り額は、一匹で金貨十五枚。
獲物の状態が良かったので、高額だった。
「一匹で金貨十五枚、日本円にすると15万ってところか――」
「これで十五万、凄い稼げるじゃない!!」
「これなら、生活には困らないね」
俺もなんか、結構簡単だなとか、そんなふうに思ったが――
それはちょっと、考えが甘いだろう。
俺が広域探知で、目当ての獲物を見つけることが出来た。
それ以外の、金にならない魔物との戦闘を回避できた。
そして、一撃で敵を仕留める強さがある。
これだけの条件が揃っているから、効率よく稼げたんだ。
二人にそのあたりを、ちゃんと説明する。
俺がパーティのリーダーなんだから、しっかりしないとな。
後で冒険者ギルドの職員に聞いたところ――
他の一般的な五人チームの冒険者だと、大兎一匹狩るのに平均で三日はかかる。
探すのが大変だし、囮役が大怪我を負いやすい。
――とのことだった。
簡単に金儲けできると、勘違いするのは良くない。
この後は、魔物の解体作業の補助をしていた二人と合流して、六人で解体作業の補助を行う。
さっき俺たちが狩って、持ってきた大兎の解体だ。
今までは自分で適当にやっていたが、皮のはぎ方や肉の旨い部位などを、解体専門の作業員の仕事を手伝いながら学習する。
解体補助が終了した後で、冒険者ギルドに依頼完了の報告に行く。
依頼の報告は受付にある魔道具に、ギルドカードを接触させるだけで終わる。
解体作業補助の報酬は、六人で銀貨十三枚だった。
一人分だと半日で、二千円くらいか?
いや、俺たち四人は後から入ったから、もう少し多いくらいだろう。
俺の冒険者パーティ『白銀の竜の翼』のギルド貢献度はモンスター討伐で17ポイント、解体作業の補助で3ポイント上がった。
1500ポイント溜めればアイアンランクに昇格できるので、とりあえずはそれを目標にしている。
昼過ぎから、剣の稽古を始める。
場所は町の中に適当な場所が無かったので、町を出て少しした平原で行った。
サリシアとナーズは、短剣で素振り。
アカネルとモミジリとイルギットは、大兎との実戦を想定した俺との模擬戦。
大兎役の俺が、槍を構えて突進する。
それをかわして、木の棒で俺を切りつける。
これをくり返した。
俺自身、独学で剣を振るっているので、訓練として正解かは判らない。
途中でゴブリンが三匹近づいてきたので、俺が剣で二匹を始末する。
アカネルとモミジリに、残った一匹と戦わせてみる。
二人は初めて人型の魔物と、剣を持って殺し合いをする。
転生者の二人は、怖気づくか冷静さを失ってしまうのでは、と懸念したが杞憂だった。
モミジリは若干尻込みしていたが、自分を殺そうと襲ってくる魔物に対して、適度な闘争心を持って戦えていた。
これなら、この先も問題ないだろう。
俺たちはゴブリンから魔石を取り出して、サイザルの町へと帰還する。
ゴブリンは冒険者ギルドに持っていっても、魔石以外に価値はなく、他は捨てるので大した値にはならない。持ち帰る意味はない。
解体依頼費用で、かえって赤字になることもある。
サイザルの町の冒険者ギルドで、ゴブリンの討伐報告を済ます。
各自のステータスに行動記録が残っているので、討伐証明はギルドカードを受付の魔道具に接触させるだけで済む。
ゴブリン一匹につきギルド貢献度を1貰えた。
討伐報酬金は無い。
魔石は売っても大した金額にはならないので、スキル習得の足しにする。
パーティメンバーで早めの夕食を食べてから、教会へと移動する。
スキルを習得しようと思う。
どんなスキルが手に入るか分からないギャンブルだが、試して損はないだろう。
さっき倒した、ゴブリンの魔石を持って教会に入る。
ついでに金も、下ろしておく。
俺は金貨一枚を支払って、スキルの習得を神父に依頼する。
「……この魔石量では、スキルの習得は難しいと思いますが――」
神父は何とも言えない顔でそう言ったが、たぶん大丈夫だ。
とにかく、金は払ったんだ。
儀式はして貰う。
女神をかたどった像の前に、魔石を供え神父が神への祈りを捧げる。
すると捧げた魔石が消失すると同時に、俺にスキルが発生した。
ステータスを確認すると、所持品欄の魔石値が一万近く減少している。
習得したスキルは、水を作り出す事のできる『ウォーター・クリエイト』――
水を生み出すことのできるスキルだ。
はっきり言って、最初はハズレスキルだと思った。
しかし、詳しくスキルの説明を聞くと、そうでもないことに気付く。
『ウォーター・クリエイト』
――魔力を消費して、『本物』の水を生み出すことのできるスキル。
このスキルは、生活魔法と呼ばれる種類のスキルだ。
俺は魔法で水を作り出せるが、それは飲料水としては使用できない。
魔法で作り上げた現象は、不安定であやふやな物だ。
魔力が無くなれば、自然と消滅してしまう。
とても、飲む気にはならない。
しかしこのスキルで作り出す水は、魔法の水ではなく本物の水だ。
これから旅をすることを考えると――
意外と当たりだったのではないだろうか。
神父は少量の魔石で、スキルを授かった俺に驚いていた。
女神の寵愛を受けているのでは、とか興奮して言い出したので、めんどくさいことになる前に急いで教会を出た。
他のパーティメンバーにも試してみたかったが、ここでは止めておこう。
教会から出ると、日が落ちてきて町が茜色に染まってきている。
俺たちは宿に帰ることにした。
帰る途中に露店をいくつか見かけたので、布を複数と石鹸を購入しておいた。
布切れが5枚で銅貨20枚、石鹸が一つ銅貨30枚だった。
宿屋に帰り、受付で桶を三つレンタルする。
水を作り出せるスキルを習得したことだし、部屋で体を洗うことにした。
桶の中に水を溜めて、火属性の魔法で温度を上昇させる。
俺は全員の身体を洗いながら、ついでにステータスの確認しておいた。
ステータスの表記はカスタマイズできるので、少し変更しておく。
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冒険者パーティ 白銀の竜の翼
名前 ユージ
HP 215/217 MP 270/278 FP 204/209
幸運力
058~-011×2
スキル
空間移動 危険感知 ウォータークリエイト
所持品
魔石値 0066612
回復薬 6個
性奴隷
アカネル モミジリ イルギット サリシア ナーズ
預金 金貨100枚 パーティ資産 金貨18枚
所持金 金貨88 銀貨30 銅貨170
才能
大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器
職業
勇者Lv08 戦士Lv32 剣士Lv31 武闘家Lv28 弓使いLv25 槍使いLv29
教官Lv03
魔法使いLv35 魔術師Lv37 魔物使いLv20
冒険者Lv04 旅人Lv02 探索者Lv27 斥候Lv27
隠密Lv30 暗殺者Lv33
遊び人Lv39 ギャンブラーLv35 ハーレムマスターLv38
薬師Lv25 錬金術師Lv30 鍛冶師Lv31
農夫Lv15 薬草採取者Lv18
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名前 アカネル
職業 剣士Lv08 冒険者Lv01 放浪者Lv01 性奴隷Lv06
HP 36/47 MP 17/17 FP 43/50
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名前 モミジリ
職業 剣士Lv07 冒険者Lv01 放浪者Lv01 性奴隷Lv07
HP 30/40 MP 20/20 FP 30/36
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名前 イルギット
職業 剣士Lv09 冒険者Lv02 放浪者Lv01 性奴隷Lv05
HP 41/51 MP 12/12 FP 42/49
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名前 サリシア
職業 剣士Lv01 冒険者Lv01 料理人Lv21 性奴隷Lv01
HP 19/29 MP 05/05 FP 11/12
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名前 ナーズ
職業 剣士Lv01 冒険者Lv01 性奴隷Lv01
HP 16/23 MP 07/07 FP 10/16
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