出発
「ね、ねえ、その……ご、『ご主人様』……こ、これで良いんでしょ?」
そういうとアカネルは目を閉じて、唇を僅かにこちらに突き出してくる。
いきなり何言ってんだ……コイツは?
「あっ、えっと――その、わ、私も……お願い、します。『ご主人様』……」
隣に居たモミジリも、同じことをやり出した。
ああ、そうか――
そういえば『性奴隷』を検証した時に、ご主人様と言えればキスしてやるとかなんとか言ってたっけ……。
それで、キスして欲しくなってこんなことを言い出したのか。
まあ、なんだ。
可愛いじゃないか。
俺はアカネルの肩に手を置くと、彼女の願い通りに唇を合わせてやった。
その次に、モミジリにも同じことをしてやる。
二人は顔を赤くして、モジモジしながら――
「ねえ、もう一回。いいでしょ? ご主人様――」
「わ、私もです。ご主人様……」
一度では足りなかったらしく、おねだりしてくる。
――やれやれだぜ。
俺は性奴隷の願いに応えて、二人にもう一度キスをする。
今度のキスは舌を絡めたディープな奴だ。
二人は最初は驚いていたが、気持ちが良かったのかすぐに受け入れる。
たっぷりキスをした後で、三人で横になって眠りについた。
昨日の夜、というか明け方か……
農場がゴブリンの群れに襲撃されて、壊滅状態に陥った。
あまりにも呆気なく、俺たちの奴隷生活は終わりを告げた。
朝になってから、生き残った六人で遺体を集めて埋葬した。
農場主の屋敷の方にも行って、ゴブリンの食べ残しや、惨殺された遺体を埋葬する。ちなみに、この世界では遺体を焼いてから埋葬するのが一般的だ。
焼かずに埋めると魔物を引き付けてしまうし、食い荒らされてしまうからな。
屋敷の惨状を見たイルギットは、気落ちして一人で塞ぎ込んでいる。
今は俺達の、隣の部屋で寝ている。
半端に慰めの言葉をかけるより、今は一人にしておいた方がいい。
明日も落ち込んでいるようなら、何とか元気づけることも考えよう。
俺に上手くできるかは分からないが――。
アカネルとモミジリが、俺と一緒に寝ると言って聞かなかったので、少し狭いがモミジリの部屋に三人で眠ることになった。
俺たちは一晩で、生活基盤を失ってしまった。
一緒に暮らしていた奴隷仲間も、仕事も、俺たちの雇用主も――
二人がキスをせがんできたのはこの不安な気持ちに、圧し潰されそうになっていたからかもしれない。
俺が、昨日助けた女二人。
一人は年上の女性で、名前はサリシア。
アカネルとモミジリがサリシア姉さんと呼んで慕っている。
もう一人はナーズという年下の少女で、この子はアカネル達のことを姉さんと言ってなついている。
正直言ってついでに助けた二人だが、アカネル達と仲が良い様子を見ると、助けてよかったと思う。
スラ太郎にはゴブリンの死体の処理と、魔石とドロップアイテムの回収を命じておいた。戦闘に参加せず隠れていた分、一日中働けと命じたおいた。
ドロップ品と言えば、ゴブリングレートが大剣を落としていた。
刃渡り三メートル、柄の部分が一メートルのロマン武器だ。
このグレートソードは早速、専用武器に加えておいた。
時間を見つけて訓練して、使いこなせるようにしたい。
「屋敷周りの、魔石の回収はどうするかな?」
農場主とその戦士団は、一方的に虐殺されたわけではなく、戦って死んでいる。
当然討ち取ったゴブリンの死体もあったので、そこから魔石を取り出せる。
できれば回収しておきたいが、問題は所有権がどうなっているかだ。
所有者がいなければ貰っても問題ないし、娘のイルギットが相続しているのなら所有権は自動的に、主人の俺になっているはずだ。
明日にでも行って、確かめてみよう。
翌朝早起きした俺は、とりあえず朝飯前に屋敷周りのゴブリンの死体の処理をすることにした。
料理班と処理班に分かれて、作業を開始する。
気落ちしていたイルギットは、いつもの調子に戻っていた。
俺とスラ太郎と一緒に、ゴブリンの処理をすることになった。
取り出したゴブリンの魔石は、俺の所有物になっていた。
予想通りイルギットが相続していたのだろう。
そうだ。
いい機会なので、イルギットに聞いておこう。
魔石に関してだ。
魔石はこの世界で、どのように利用されているんだ?
「えっ、魔石? そうね、一番は魔道具を動かす事かしら――属性に応じて動かせる魔道具も違ってくるわ。それと、冒険者だったらスキルの付与ね。教会に持って行って女神様に捧げると、自分に合ったスキルが与えられるのよ」
ということは、俺のステータスに表示されている魔石値を消費して、スキルを獲得できるということか――
教会に行ったら試してみるか。
俺とイルギットがゴブリンの死体を処理し終えると、アカネルとモミジリが朝食の用意が出来たと知らせに来てくれた。
今日は自然と生き残り六人で、一緒に朝食を取ることになった。
食事をしながら、今後のことを話し合う。
「俺は冒険者の町に行く。一緒に来い」
「ふんっ、いいわよ、付いて行ってあげるわ」
「……は、はい。一緒に行きます」
「なんであんたに、付いて行かなきゃいけないのよ。あんたが私についてきなさい」
「えっと、はい……」
「姉さんたちが行くなら、私も行きます」
アカネル、モミジリ、イルギットの他にサリシアとナーズも同行することになった。まあ、ここに置いていくわけにもいかない。
ただこの農場の備品や、食料品なんかは持って行くわけにはいかない。
農場主のアレット・ブトゥーンが死んで、農場の所有権がこの国の第一王子『ランザリグル』という人物に移っているからだ。
この農場は元々第一王子ランザリグルが所有者であり、自分の部下で功績のあったアレット・ブトゥーンに男爵位を与えて、経営を任せていたらしい。
今食べている朝食は、すでに奴隷用に支給されている物だからなのか、俺達が食べても窃盗には当たらないようだ。
危険感知に引っかからないなら、問題ないだろう。
所有権ということで言うと、労働奴隷の雇用主である農場主が死んことで、俺たち五人は労働奴隷ではなくなった。
ステータスを確認したら、職業から労働奴隷が消えていた。
そして、俺の性奴隷にサリシアとナーズが追加されている。
確か……。
この二人を助けた時に、俺は――
「いいか、死にたくなかったら俺の言うことを聞け、言うとおりにしろ」
といった。
二人も了承して頷いていた。
そして、この二人がまだ労働奴隷か調べる目的で、魔力を流し込んで鑑定もした。
相手に魔力を送り込み、本人の了承を得ている。
これが性奴隷化の条件ではないかと考えていたが――
だからと言って、この二人のケースでも性奴隷になるのか?
ガバガバすぎるだろう。
どういった条件で性奴隷となるのか、詳しく把握する必要がある。
まあこの二人に関しては、もうすでに性奴隷にしてしまっている以上は、ちゃんと面倒を見ようと思う。
そういえばステータスを確認した時に、職業と預金に大きな変化があった。
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名前 ユージ
HP 217/217 MP 278/278 FP 209/209
幸運力
058~-011×2
スキル
空間移動 危険感知
所持品
魔石値 0076550
回復薬 4個
性奴隷
アカネル モミジリ イルギット サリシア ナーズ
預金 金貨215枚 銀貨7枚 銅貨09枚
才能
大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器
職業
勇者Lv08 戦士Lv32 剣士Lv31 武闘家Lv28 弓使いLv25 槍使いLv29
魔法使いLv35 魔術師Lv37 魔物使いLv20
探索者Lv27 斥候Lv27 隠密Lv30 暗殺者Lv33
遊び人Lv39 ギャンブラーLv35 ハーレムマスターLv38
薬師Lv25 錬金術師Lv30 鍛冶師Lv31
農夫Lv15 薬草採取者Lv18
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専用装備
はがねの短剣 はがねの剣 はがねの槍 グレートソード
はがねのこん棒 複合弓
魔導士の杖
旅人の服 旅人のマント
革の兜 革の籠手 革の胸当て 革の腰当 革の膝当て 革の靴
革の盾
腕輪 指輪×3 耳飾り×2 首飾り
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預け金が、金貨二百枚以上ある。
日本円にして、二百万以上。
おそらく農場を襲ったゴブリンと、戦った報酬なのだと思う。
そして、職業に『勇者』が増えた。
「勇者か――作品によっては扱いが酷かったりするけど……大丈夫かな?」
俺達は農場の整理をした後、冒険者の町を目指すことになった。
今まで溜めた装備と、農場を襲撃したゴブリンのドロップアイテムがある。
旅人の服とマントが、人数分揃ったのはありがたい。
新米冒険者にしては、立派な装備だとイルギットが言っていた。
俺が集めた魔物素材なんかも持って行きたい、小さいが量が多いと嵩張る。
余っているマントを紐で縛って、即席で巾着袋もどきを作って入れていく。
どこかでちゃんとした、旅行グッズを買う必要があるな。
サリシアとナーズにスラ太郎を従魔として紹介して、準備は完了した。
最初の目的地は、この農場の北にあるサイザルという町だ。
準備を整えた俺たちは、農場を出発する。
最初の目的地、サイザルはここから歩いて二時間ほどで着く人口三千人くらいの町で、この辺り一帯の農場から収穫される農作物の集積地になっている。
そこまでの道のりで出現した魔物は、全部でスライムが五匹。
戦闘能力は50未満。
街道には女神の加護があるので街道で、強いモンスターが現れることはない。
俺にとって、この程度のモンスターは敵ではない。
アカネルとイルギットが自分も戦ってみたいと言い出したので、モミジリと一緒に戦わせてみた。武器は三人ともはがねの剣だ。
一人ずつ戦いを挑み、数回攻撃を加えて倒すことが出来た。
スライムを倒し終えたアカネルが、俺の方を見て呟く。
「あんた凄いわね。簡単に倒して……」
「まあ、ずっと鍛えてきたからな」
どうやら強くなって、モンスターを倒すことに興味が芽生えたようだ。
最初の目的地、サイザルの町が見えてきた。
イルギットが振り返り、訪ねてくる。
「ねえ、あのゴブリンの群れに、人間がいたのよね?」
「ああ、恐らくは魔物使いだろう……」
イルギットの父親は、第一王子の派閥に属していた。
今回の襲撃は、権力闘争の一環として行われた可能性が高い。
「そいつと……そいつの雇い主は、私が殺すわ」
「ああ、サポートは任せろ」
そして、鑑定で得た襲撃者の名前は『トモヤン』……。
恐らくは転生者だろう。
春先の冷たい風が、身体を通り抜ける。
女神歴1012年。
転生して前世記憶を思い出してから、二年が経過して――
俺はようやく、旅立ちの日を迎えた。




