襲撃
性奴隷とは何かを考える。
前世での定義では無く、この世界で俺が創ったと思わしき制度についてだ。
結論から言うと、一番近いのは結婚だと思う。
この世界で俺は、ハーレム王を目指していた。
多くの妻を娶ろうとしていたわけだ。
前世で好きだった奴隷ハーレムものの小説の影響で『性奴隷』という名称になったと思うが、アカネル、モミジリ、イルギットとは、結婚という契約を交わしていると捉えるのが一番しっくりくる。
試しに、アカネルとモミジリに命令してみた。
「俺のことはこれから、『ご主人様』と言え」
「は? 何言ってんのあんた。バカじゃないの?」
「……?」
「ご主人様と言えれば、キスしてやる」
「は? なによ、それ……そんなの言わなくても、ああッ、もうッ! バカッ!」
「えっと、その、キスしたいなら、その……ロマンチックな雰囲気をですね、その」
こんな感じになった。
そこにイルギットがやってきて――
「ちょっと、なに私抜きで楽しそうにいちゃついてるのよ。私も混ぜなさいよ。えっ、なに? ご主人様? 私は農場主の娘なのよ。そしてあんたは奴隷なの。あんたが私にそう言いなさいよ。そしたらキスして、えっ、別にいいって、ちょ、待ちなさい、言わなくてもいいから、ねえ、ちょっと……」
この日は何だか知らんが、イルギットが俺の所に泊まると言い出して、夜に屋敷を抜け出して来た。
そして、俺の横で眠っている。
三人には『性奴隷』のことは話していない。
性奴隷にする前と後とで、何かが変わったわけでもない。
話して何かが変わるわけでもない。
教会で鑑定することがあれば、知られるかもしれないが――
それまでは、このまま自然に付き合っていけばいい。
子供が出来るようなことを、するつもりもない。
そういうのは、ちゃんと子育てできる環境を整えてからだろう。
今の俺にとって、女と寝るのはコミュニケーションの一環という意味合いが強い。
やってるうちに愛情も湧いてくる。
…………。
ともかく今日はもう寝て、明日に備えよう。
――んっ?
もう朝か?
…………いや、朝というには暗すぎる。
明け方か? 春とはいえ、朝はまだ冷える。
いや、それよりも――
危険察知が警鐘を鳴らしている。
農場の中に居て、危険察知がここまで働くのは初めてだ。
俺は飛び上がるように上体を起こすと、隣で寝ているイルギットの乳首を力一杯、摘まんで抓る。
「おい、急いでここを出るぞ」
「ギャッ、……いっ……た。 ええっ??」
熟睡していたイルギットは、突然の俺の行動に戸惑っていたが、それに構わずに俺は奴隷の服を脱いで、戦闘用の装備で身を固める。
そしてイルギットの手を引いて、強引に外へと連れだした。
魔力で聴力を強化して、異変が無いかを探る。
ひょっとして地震でも起こるのかと思ったが――
異変は北の門のある辺りから発生した。
どっごぉおおおおおおお!!
「なんだ? 門が破られたのか?」
この農場の門は木製だが、頑丈にできている。
自然と倒壊するようなものではない。
「えっ? 何、今の……遠くで――」
イルギットにも音が聞こえたようで、警戒しながら不思議がっている。
「アカネルとモミジリも起こすぞ、なんかヤバそうだ」
北の方角の音を、聴力強化で引き続き拾う。
複数の人型の魔物の雄たけびや、武装して進軍する魔物の集団の物音。
農場主の屋敷に向かって、進んでいく。
屋敷は小高い丘の上にあり、そこから三百メートルほど離れた場所に、この奴隷小屋がある。
この農場には、女神の加護がある。
しかし、魔物が入れないわけではない――
こんな事態は初めてだが、可能性はゼロではない。
だが魔物の狙いは何だ?
――ただ人間を食べに来ただけか?
魔物の目的はわからない。
しかし、大量の魔物が――
恐らく数百が、農場に入り込んで来ている。
自衛する為に、行動するべきだ。
「おい、起きろ。緊急事態だ!」
俺はアカネルの部屋に入り、上体を抱き上げて無理やり起こす。
「ん、んん? えっ? なに? キャッ、ちょっと何よ、んっンンッ!!」
アカネルの口を手で塞いで状況を説明する。
「大声を出すな、魔物が入り込んで来てるんだ」
俺はアカネルを部屋から連れ出して、モミジリと合流する。
モミジリも叩き起こして、光魔法で僅かな明かりを作る。
「キャッ……えっと、その――えっ……?」
この奴隷部屋に、四人で入ると手狭だが仕方がない。
状況説明の前に、やるべきことをやる。
広域探知で、敵の数と強さを調べる。
向こうに魔力に敏感な敵がいれば、気付かれる恐れもあるが――
情報収集が最優先だ。
探知で得た情報は――
敵軍の親玉は、ゴブリンキング。
戦闘能力は6400。
農場に入り込んでいるので、なにかしらのデバフはかかっているだろうが……到底勝てる相手ではない。
その他にもゴブリンクイーンやゴブリンジェネラルといったキングよりも落ちるが戦闘能力の強い敵が五匹いる。
どうやら敵はゴブリンの集団のようだ。
しかし、敵軍の中に一つだけ――
ゴブリンキングの傍らに人間の反応があった。
この状況的は――
魔物使いの人間がゴブリンの集団を操って、この農場に襲撃をかけた。
と考えるのが妥当だろう。
俺もスラ太郎を、この農場に入り込ませている。
同じようなことを出来る奴がいても、不思議ではない。
しかし、女神の加護で守られた領域は安全だと思っていたが、魔物使いが人間の集落に攻撃を仕掛けるという事態もあり得るのか――
俺の広域探知に反応する奴や、魔力障壁で探知を妨害する敵はいない。
さて、ここからどう動くか――
敵のゴブリン集団の主力部隊は、もう農場の屋敷に襲撃をかけている。
異変に気付いた屋敷の主アレット・ブトゥーンが、お抱えの戦士団を率いて迎撃を開始している。
アレットの戦闘能力は約550で、部下の戦士十二人は300前後、そこに装備の補正が付く。
農場を任される貴族だけあって、闘いの心得はあるようだ。
屋敷を防衛拠点にして有利に戦っている。
しかし、敵の主力が強すぎるし、その他のゴブリンも雑魚とはいえ数が多い――
敗北は時間の問題だろう。
屋敷周辺の状況は、イルギットに伝えないでおく。
これは俺の我儘だが、イルギットを死ぬと分っている戦場に送り出したくはない。
向こうはにもう、勝ち目はない。
それにゴブリン軍団は、完全に統率されているわけではない。
人間の匂いに誘われて、部隊の半数がこちらに向かってきている。
幸いこっちに来るのは、戦闘能力の低い奴しかいないが――
「ね、ねえ、なんか――聞こえない?」
「う、うん……喧嘩かな?」
「ね、ねえ、私――屋敷の方に……」
ここからでも屋敷方面の、人間の大声や魔物の咆哮、破壊と戦闘音は微かに聞こえる。三人も緊急事態だということが理解できたようだ。
俺は屋敷へ行こうとするイルギットを押し留める。
「ゴブリンの群れが襲ってきている。こっちにも来ている。俺が迎撃に出るから、お前らはここにいろ」
俺は強い口調でそう言うと、三人を残して部屋から出る。
この場面で一番賢い選択肢は、スキル『空間移動』を使って三人を抱えて飛ぶ。
なのだろうけれど――
俺はこの襲撃者たちから、逃げたくはなかった。
とりあえずこちらに向かってくる敵は、雑魚しかいない。
俺が迎撃に当たれば、ここに住んでる奴隷たちも、ある程度は生き残るだろう。




