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 モラトリアムの終焉

 クイーン・ビーと大蜘蛛アラクネを討伐してから三か月ほど経過し、季節は肌寒い日々から、体の芯から冷える日々へと変わっていった。


 魔物狩りは、東の平原や北の第二領域にいるゴブリンやコボルトの部隊を中心に狙って、ドロップアイテム集めに力を入れた。従来の装備品の他に、指輪や腕輪、首飾りや耳飾りなどの装飾品も増えた。



 自分の奴隷部屋から下へと穴を掘り進めて、地下室を作った。

 穴を掘ったのはスラ太郎だ。

 地下室は、立ってギリギリ歩けるくらい。


 たたみ一畳分くらいのスペースを確保した。

 余った装備品の保管庫にしている。



 装備の詳しい鑑定もやってみた。

 魔物素材と合成したことで、武器に毒や麻痺の効果が付与されていた。

 その他にも、大蜘蛛の素材と合成した旅人のマントには、隠密強化が付与されていたりした。

 

 防具のカスタマイズも行っている。

 鋼のインゴットを変形させ形状を整えて、防具に取りつけたりしていく。


 実際に使って動きの邪魔にならないか、実戦でテストをくり返す。

 スピード重視で戦いたいので、あまり重くならない様に改造する。





 ここ最近の変化で、もっとも喜ばしいことは――


 俺達の借金が、ゼロになった。


 借金が無くなると、ステータスに預金が表示されるようになった。





 どこにお金が預けられているのかというと、預け先は『女神メルドリアス』になる。この世界で銀行などの、金融機関の役割を果たしているのは女神様だ。


 お金を引き出したい時は、教会に行けばいいそうだ。


 備え付けられている魔道具から、支払われるらしい。

 お金を預け入れたい時も、同様に魔道具を介して貯金することが出来る。



 どの国でも同様に、魔道具から貨幣を引き出すことが出来るし、預け入れることもできる。預金を女神が保証して、金貨や銀貨、銅貨を提供してくれるそうだ。


 そのため通貨は、世界共通だ。



 通貨というのは、信用で成り立っている。

 金や銀を通貨に使うのは、それそのものの価値が信用になるからだ。

 紙幣の場合は、発行する国が価値を保証している。


 この世界の場合、貨幣価値は女神が保証している。

 さらに金銀銅の材質の価値もある。


 最強の信用通貨だ。

 




 ともあれ、借金は無くなった。

 俺を縛るものは、もうない。


「さて、これからどうするかな?」


 俺もクサンゴさんのように、ここから北西のにあるイーステッドを目指したい。


 冒険者志望の若者が目指す最初の目的地。

 この国の中心にある都市で、別名『冒険者の町』と呼ばれている。

 三番目に規模の大きな都市。


 なぜそこを目指すのかというと――

 自分の力を試したい、という欲求があるからだ。

 前世の記憶を思い出してから、培ってきた力を人に見せびらかしたいのだ。




 冒険者の町に行くのなら、アカネルとモミジリは当然連れていきたいが、問題はイルギットだ――

 駆け落ちとなれば、追手がかかったりするのだろうか?

 

 農場主の所に行って、『お父さん娘さんを下さい』と言ってもぶん殴られるだけだろう。しかも『性奴隷』にしてしまっている。


 許されるわけない。

 というか、許容される要素が一ミリもない。


 かといって、イルギットを置いていくのは論外だ。

 唐突に無理心中を図るような女だ。


 黙って俺が出ていけば、何をしでかすか分からない。

 

 


 ――まあ、上手く四人で逃げるしかないか。




 冬の寒い時期だ。

 奴隷小屋で眠る前は、魔法で火を出して暖を取る。

 手のひらを炎に向けて温めながら、ふと考える。


 炎の反対の――

「氷魔法とかあるのかな? 水の発展系か――?」


 攻撃魔法は、火水風土の四種類を使えるようになったが、もっと種類を増やしていきたい。魔力の色を変化させれば出来るだろうが、当てずっぽうでやっても時間がかかり過ぎる。


「冷気を作るには……炎の逆――でどうだ?」


 それなら火属性の色を真逆にしてみたら、行けるんじゃないか、と閃いた。



 もうすでに、日は沈み夜になっている。


 俺は部屋の外に出て、魔法の練習を行う。



 魔力の性質はその色で変わっていく。

 魔力の視認は、かなりレアな能力のようで、この農場の奴隷の中では俺しか出来ない。おそらくは『大魔導士の卵』という才能があるおかげだろう。


 魔力の色を見ることが出来るおかげで、魔力の性質変化をイメージしやすい。


 俺はまず、自分の魔力を火の魔力に変化させる。

 そしてその魔力の色調を、反対の色へとイメージして変化させる。



 俺は性質変化させた青白い色の魔力を、冷気をイメージして具現化してみる。


「よしっ――!!」


 狙い通りに魔力は熱を奪う冷気となって、俺の体から体温を奪っていく。


「やばい、寒い!!」


 ただでさえ、季節は冬だ。

 俺は慌てて魔法で炎を作り、体を温めた。





 既存の魔力を反転させて、それぞれの効果を検証してみた。

 

 火の反転は冷気、土の反転は風化、水の反転は乾燥、風の反転は停滞。俺の感覚でやっているので、これが正解かは解らないが――



 反転の風魔法は停滞と静止、空気を動かないようにする効果があり、透明な盾や足場として使える。


 反転の土魔法の風化は、硬い物質を脆くして破壊しやすく出来る。


 冷気と乾燥は、文字通りの効果だ。



 魔法の効果を一つ一つ、確認することが出来た。






 さらに魔力の色を白と黒にして具現化してみる。


 白の魔力は、光を放つ魔法だった。

 ただ光るだけで攻撃には使えない。


 目くらましや視覚を歪ませるなどの使い方が出来る。

 今まで使ってきた隠密結界も自分で意識していなかったが、無属性から光属性の魔力に変換して使っていたようだ。


 光の反転は闇の魔力、効果は光を遮る黒い靄のようなものを作れる。





 魔法を使えることをアカネルとモミジリに話して、実際に使って見せた。


 自分達にも教えて欲しいと頼まれたので教えてみたが、最初の『魔力を感じる』ところから苦戦している。


 才能が無いと難しいのだろうか――


 イルギットに話してみたら、やはり魔法はレア能力で貴重らしい。

 あまり人に話さない方がいいと忠告された。


 安心しろ。

 お前たち以外に話す気はない。





 イルギットも交えて、魔法の練習をする。

 まずは魔力を感じ取れなければ話にならない。


 俺は三人の胸をさわりながら、相手の魔力を操作したりこちらの魔力を流し込んだりして、魔力を感じ取れないか試してみる。




 魔法を使えるようになるのは、まだまだ先のことになるだろうと思っていたが、三人とも少しずつ、魔力を知覚出来るようになってきた。


 ひょっとしたら――

 俺の性奴隷になったことで、才能もある程度は共有されているのかもしれない。




 冬が終わり、春になり、日差しが少し暑く感じるようになった。


 魔物退治は西の森で行うことが増えた。

 職業のレベルが上がってきて、冒険者としてやっていくうえで十分なステータスになったと思う。



*************************

名前  ユージ


HP 189/189  MP 230/230  FP 185/185


幸運力 

058~-011×2


スキル

空間移動 危険感知


所持品

魔石値   0062388

回復薬     6個


性奴隷

アカネル モミジリ イルギット


預金 金貨15枚 銀貨8枚 銅貨89枚


才能

大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器


職業  

労働奴隷Lv17(従順-86) 農夫Lv15 薬草採取者Lv16

戦士Lv29 剣士Lv28 武闘家Lv24 弓使いLv22 槍使いLv25

魔法使いLv32 魔術師Lv34 魔物使いLv18

探索者Lv27 斥候Lv26 隠密Lv29 暗殺者Lv30

遊び人Lv34 ギャンブラーLv30 ハーレムマスターLv33

薬師Lv22 錬金術師Lv29 鍛冶師Lv30

*************************



*************************


専用装備


はがねの短剣 はがねの剣 はがねの槍 はがねのこん棒 複合弓 

魔導士の杖

旅人の服 旅人のマント

革の兜 革の籠手 革の胸当て 革の腰当 革の膝当て 革の靴 

革の盾


腕輪 指輪 耳飾り 首飾り


*************************


 専用にしていない装備も――

 はがねの鉤爪、はがねのメイス、はがねの斧、などがある。





 女神歴1012年――

 この世界で前世の記憶を思い出して、二年が経過した。



 漠然とした目標として、農場を出て冒険者の町へ行こうというのはあるが、一緒に連れていきたいアカネルは渋っていて、モミジリも尻込みしている。

 安全に生活できているこの環境から、わざわざ飛び出すのはぬるま湯から出るようなものだ。

 すぐに踏ん切りがつくものでもない。



 俺のように差し迫った必要もないのに、魔物退治をしている方が異端なのである。


 俺も最初の頃は蛮勇を振り絞って行動していたところもあったが、繰り返すうちに慣れてしまっていた。

 二人とは感覚がずいぶん離れているのだ。




 だが、人の多く集まる町には、魅力があるはずだ。

 おいしい食事があるかもしれないし、女の子なんだからオシャレもしたいだろう。

 風呂で身体を洗えたり出来るだろうか?

 出来たらとても魅力を感じるだろう。

 

 よし――

 何とか説得してみよう。



 そう思っていた春の日に――

 この農場での生活は、唐突に終ることになった。




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