因縁の決着
「さて、やるか――」
俺の前方、二百メートル先に巨大な岩がある。
その岩にのしかかる様な形で、高さ十メートルくらいの大きさの蜂の巣がそびえ立っている。
その巣の周りを、常時十五、六匹のキラー・ビーが飛び回っている。
ここからだと魔法を放つには少し遠いが、弓なら十分射程圏内という距離。
俺は魔術師の杖を取り出して、腰に差しておく。
その後で弓を装備して、狙いを定めてキラービーに攻撃を開始した。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ……
立て続けに放った俺の矢は、着実にキラー・ビーに突き刺さっていく。
キラー・ビー達は風の魔法を纏って飛行しているため、狙った場所に正確に当てることは出来ないが、羽のどこかを突き破れば飛行を阻害できる。
群れが襲撃されていることに気付いたキラー・ビー達は迎撃態勢に入り、一斉にこちらに向かって飛んでくる。
風魔法を使っているだけあって、かなりの速さがある。
俺は先頭を飛ぶ三匹に矢を放って牽制してから、隠密結界を張って敵から姿を隠して移動する。
迎撃に出たキラー・ビーたちは、俺の姿を見失って見当はずれの所を探している。
その隙に左から、回り込むように巣へと近づく。
巣までの距離が、五十メートルの所まで接近した。
羽を矢で射抜かれたキラー・ビーは、地面を這いずっている。
飛行可能な敵の数は、巣の中にいる十六匹と外で俺を探している十匹になった。
巣の中から異常を察知して、新たに五匹が外に出てきた。
「まとめて攻撃したかったが……」
理想は分散した敵を各個撃破することだが、ここは魔物の徘徊する山の中だ。
周囲にキラー・ビー以外の敵がいないことは確認してあるが、悠長に長期戦を行うのはリスクが大きい。
俺は弓を仕舞って、腰に差しておいた魔術師の杖を取り出す。
そして魔力の属性を、火に変化させた。
杖の先端に集めた魔力で炎を作り出して、圧縮していく。
炎を作っては圧縮をくり返し――
限界まで圧縮した炎の球体を、キラー・ビーの巣に向かって撃ち込んだ。
ドゴォおおぉおぉ!!!
俺の放った火魔法は巣を直撃して、爆発するように燃え広がった。
キラー・ビーの巣から炎が溢れて、火柱が天へと延びている。
巣の中から十一匹の蜂の魔物が、一斉に外へと飛び出してきた。
巣から出てきた魔物で一番目を引くのが、この巣のボスのクイーン・ビー。
二メートルを優に超える大きさで、空中にホバリングしている。
巣の中にいた十匹は、それぞれ炎で焼かれて瀕死のダメージを受けている。
巣の周りを飛んでいた奴らも、炎に巻き込まれている。
チリチリと焼け焦げていて、そのうち勝手に死にそうだ。
群れのボスのクイーンは、ダメージを負っているが健在だ。
敵が風属性だから火で攻撃したが、クイーンは火に耐性があるのか?
それとも、魔法耐性自体が高いのか――?
グゥギュアアアああッ……、ギッチ、ギチッ、ギチ、ギチッ――
巣を攻撃されたことで怒りに身を震わせ、大声で叫ぶような音を立てた後、巨大な牙で歯ぎしりしたような、不快な音を響かせている。
迎撃に出ていた十匹が、慌てて巣の防衛に戻ってきた。
これで敵の数は十一匹。
巣の周囲に女王を中心に固まっている。
俺は魔術師の杖に魔力を込めて、敵の群れに向かって炎の魔法を解き放つ。
圧縮する時間が無いので、魔法のイメージは火炎放射器で放たれるような炎。
広範囲に広がる炎は、魔物の群れをすべて覆い尽くす。
魔法で放った炎は、辺り一帯を焼き尽くす勢いで燃え盛る。
ぼと、ぼと、ぼと、ぼと……
空中にいたキラー・ビー達が、丸焼けなって地面へと落下してくる。
だが集団のボス、クイーン・ビーだけは――
ギィッィィイイッ ぎちッぎちギッチギチッ――
俺の魔法を喰らっても、五体満足で生きていた。
身体のあちこちから火を噴きだしながらも、怒りと闘志を全身に漲らせている。
俺は魔術師の杖に魔力を込めて、火炎球を放つ。
高速で飛行しているクイーン・ビーに狙って当てるのは、流石に無理だが――
俺の魔法は、相手に当たるイメージで撃っている。
魔法は軌道を自動修正して、敵を追尾して着弾した。
自分でやっておいて流石にそれは卑怯だろと思いながらも、俺は杖を装備から外して、はがねの槍に切り替える。
ここまでで魔力をかなり消耗したので、武器を入れ替えた。
槍を装備し終えたタイミングで――
俺の目の前に、クイーン・ビーが接近していた。
こちらの隙を逃さずに、攻撃にしてくる。
俺は敵に向かって、槍を構え迎撃する。
ガッ、ギィイイイインッ!!
俺の構えた槍は、クイーン・ビーの針攻撃を受け止めて弾く。
だがクイーン・ビーは攻撃が弾かれることを予期していたように、反動を利用して俺の側面へと移動する。
クイーン・ビーの顎から生えている牙が、俺の左腕を抉るように切り裂いた。
敵の移動スピードの方が速い。
槍だと接近されると対処できない。
俺は槍を手放して、はがねの短剣を装備する。
クイーン・ビーは一撃を加えると同時に、その場から離脱している。
獲物が元気なうちは、ヒット&アウェイをくり返して削る気なんだろう。
予想を超える移動速度と硬い外殻、牙や針も攻撃力は高いだろう。
俺は全身に、闘気を漲らせる。
この戦闘スタイルの時は、短剣装備が一番しっくりくる。
全身を闘気で覆うため魔法を扱いづらく、空間探知を使えないのが欠点だが――
どのみちスピードが俺よりも速い相手だ。
俺は集中力を高めて、敵の攻撃に備える。
敵の移動能力は高いが、隠密性は無い。
冷静になれば、捉えきれない攻撃ではない。
クイーン・ビーは風魔法を操り、スピードを上げて針攻撃を繰り出してきた。
集中力が限界まで高まる――
俺は敵の渾身の一撃を紙一重で避けながら、カウンターで敵の腹部をはがねの短剣でえぐり取る。
攻撃を喰らったクイーン・ビーは、驚いて俺から距離を取る。
今度は真後ろに回り込んで、顎に生えている牙で攻撃しようとする。
俺を嚙み切るつもりだ。
目と気配で敵の動きはギリギリ捉えている。
移動先の敵の位置に見当を付ける。
そこから攻撃するなら――
ここにいるだろう。
その場所へむかって振り向きざまに、短剣を斜め下から上へと突き上げて――
クイーン・ビーの顔面を抉った。
ギェィィヒキィぃいいいい――
クイーン・ビーは痛みに耐えられずに、甲高い耳障りな叫びを上げて、俺から再び距離を取る。
そして、俺の周りを遠巻きに旋回する。
迂闊に近づいてこなくなった。
「……弓に切り替えるか? いや隙を見せると、一気に詰めてくる――」
距離を取る敵に対して、こちらは遠距離攻撃が可能な魔法と弓、両方の使用が躊躇われる。
戦いは膠着状態に入った。
「思い切って、魔法を打つか――」
俺がこの状況を打破するため、温存しておいた最後のMPで魔法を使うか思案していると、クイーン・ビーの様子が少しおかしいことに気付いた。
飛行がフラフラと不安定になり、苦みだしたのだ。
ダメージを負った体で飛行するのがきつくなったのか? とも思ったが、あの様子はまるで、殺虫剤を吹きかけられた虫のようだ。
「ああ、ひょっとして――」
そういえば、俺の武器にはキラー・ビーの針が錬成してあった。
毒か麻痺の効果が付与されていたのか?
ちゃんと鑑定していなかったが――
魔力を多めに込めてじっくり鑑定すれば、追加効果の有無は分かるかもしれない。
「それが効いてきた――とか?」
装備品は手当たり次第に、魔物素材と錬成している。
可能性は高い。
だとしても、キラー・ビーの毒が、クイーンに効くのかという疑問もあるが、……まあ効いたんだったらそれでいいか――
そういえば毒を持った生物で、自分の毒で死ぬ奴もいるんだったか?
クイーン・ビーは、状態異常で上手く飛べないようだ。
地面をもがきながら、不規則に這いずり回っている。
だが、いつ状態異常が治るか分からない。
俺は短剣を仕舞うと、落ちているはがねの槍を拾う。
クイーン・ビーがもがいている所まで近づく。
動きが不規則で、かえって攻撃が当てにくい。
自分から攻撃を当てに行くのではなく、槍を構えておいて近づいてきたところを槍で突く。それをしばらく繰り返すうちに、クイーン・ビーは動きを完全に止めた。
「倒した――か……」
スラ太郎は、焼け焦げた瀕死のキラー・ビーに止めを刺して回っている。
ついでに魔石の回収も、命令しておく。
俺は強敵を倒した直後で脱力しそうになるが――
『危険感知』が、警鐘を鳴らす。
ああ――
そういえば前も、蜂を倒した後だったな。
俺は背後からの攻撃を、体を捻って躱した。
躱すと同時に、襲撃者に向かって槍を繰り出す。
しかし――
俺の攻撃も、敵を捉えることは出来ずに空を裂いた。
「たしかに、そこに居たんだけどな。一瞬であそこまで退いたか……」
俺の二十メートル前方で――
巨大な白い蜘蛛の魔物が五匹、こちらの様子を伺っていた。
「あのクモは、ハチを獲物にしていたのか――」
蜂の巣の周囲は広域探知で調査済みだったが、キラー・ビー以外は違和感を捉えられなかった。
俺の探知では違和感を感じ取れないレベルの、高性能な隠密結界なのだろう。
俺は残り少ない魔力で、小さい石を沢山作り、当てずっぽうで敵の周囲に向かって放つ。当てるためではなく、隠密結界を破壊する為だ。
魔力で、探知を行う。
目の前の敵を鑑定する為と、自分の状態を確認する為に――
「やっぱりか――」
まず俺の状況だが……
思った通り、敵の魔法で幻影を見せられている。
魔力の流れを探ると、外部から俺の身体の中に微量な魔力が流れてきている。
俺の身体に、蜘蛛の糸が付いていた。
後ろからの奇襲時に、付けられたのだろう。
この糸を通じて、視界を変化させる魔力を送り込まれ――
幻を見せられている。
それが奴の魔法の、カラクリだった。
魔力探知で得た敵の情報は――
敵の名前は大蜘蛛、戦闘能力は790と502。
背中の上にくっついている人型の奴も、独立した魔石を持っている。
蜘蛛の魔物の、特殊進化タイプ。
「敵の本当の数は一匹。他の四つは幻……俺の方は強力な攻撃魔法はもう打てない。少ない魔力で戦うには――」
俺は槍で糸を切って、敵の幻影から抜け出す。
手品の種の割れた、支援タイプだ。
力でごり押しして、始末する。
俺は装備している槍に闘気を込める。
そして魔力で自身の『ちから』と『すばやさ』を増強。
敵の位置を再度確認する。
俺は手に持った槍を、大蜘蛛に向かって投擲した。
ゴッォおおォォォオオオオオオオ!!
ズボッッァァアアン!!!!
渾身の一撃。
俺の投げつけた槍は、大蜘蛛の頭部を吹き飛ばして胴体に深々と突き刺さった。
大蜘蛛は脊髄反射なのか、ピクピクと痙攣している。
これで死んだだろう。
次は――
俺はアラクネに慎重に近づきながら、はがねの剣を装備する。
大蜘蛛は頭部と胴の半分を失い横たわっていたが、胴体に寄生している不気味な人型は健在で――
『タスケテ、タスケ……テ』
と、うわ言をくり返している。
俺ははがねの剣で人型の首を跳ねてから、こん棒で脳を叩き潰し、体を切り裂いて分解していく。
ある程度バラバラになったところで満足すると、スラ太郎を呼び寄せて、魔石の回収と魔物素材の剥ぎ取りを開始した。
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クイーン・ビーの魔石 (風属性)
所有者 ユージ
魔石値 000634
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大蜘蛛の魔石 (土属性)
所有者 ユージ
魔石値 000820
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大蜘蛛の魔石 (光属性)
所有者 ユージ
魔石値 000525
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名前 ユージ
HP 77/120 MP 006/131 FP 039/119
幸運力
058~-011×2
スキル
空間移動 危険感知
所持品
魔石値 0044328
回復薬 6個
性奴隷
アカネル モミジリ イルギット
借金 金貨19枚 銀貨9枚 銅貨13枚
才能
大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器
職業
労働奴隷Lv16(従順-56) 農夫Lv13 薬草採取者Lv12
戦士Lv22 剣士Lv20 武闘家Lv18 弓使いLv16 槍使いLv17
魔法使いLv21 魔術師Lv22 魔物使いLv16
探索者Lv23 斥候Lv22 隠密Lv21 暗殺者Lv20
遊び人Lv27 ギャンブラーLv27 ハーレムマスターLv19
薬師Lv18 錬金術師Lv20 鍛冶師Lv20
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俺はかつて敗北した強敵に、打ち勝った。
魔物素材はこの量だと、一度に全部は持って帰れない。
キラー・ビーは魔石だけ回収して、残りは破棄で良い。
クイーン・ビーと大蜘蛛は、スラ太郎に肉を食べさせる。
他の魔物が寄り付かない様にしておき、素材は後日回収することにした。




