西の森の魔法戦
西の森を一キロメートルまっすぐに進み、標的の火属性の魔物とその周囲の状況を確認するために広域探知を発動する。
ここまで来る途中で遭遇した魔物は、いずれも戦闘能力60未満だった。
全てを危なげなく、一撃で始末する。
鑑定で得た標的モンスターの名前はマンドレイク(根、花)、戦闘能力は289、580。
位置は以前と同じところにいる。
俺は敵の姿を、視認できるところまで接近する。
魔物の形状は植物型で、地表に露出している巨大な根の中央に皺くちゃの老人の顔が付いている。
その根の上部に赤色の大きな花が付いていて、花の上に赤を基調としたドレスを着た少女のような人形の、上半身が生えている。
老人の顔の付いた巨大な根から、無数の細い根が分岐して地面の中に伸びている。
隠密結界を張ったまま、魔法の有効射程内の百メートルまで近づく。
敵の魔法もこちらに届くだろうが、不意打ちが出来る俺の方が有利だ。
俺は隠密結界の中で、自分の魔力を水属性に変化させる。
マンドレイクの魔力は、それぞれ二種類を感知できた。
一つは老人の顔が付いている方の土属性の魔力。
もう一つは赤いドレスの方の、火属性の魔力だ。
敵の二種類の魔力から考えると――
水魔法よりも土魔法で攻撃した方が良いだろうか……。
いや、明確に火属性の魔力に対する弱点になるであろう、水魔法を主軸に攻撃した方が良い。
あの赤いドレスの人形の方が、根よりも強い。
以前から試してみてはいたが、二種類の魔力属性を一度に使いこなすことは、まだ成功していない。
魔力の性質変化も、時間と集中力がいる。
戦闘中にその時間は取れないだろう。
どの属性で戦うのが正解なのか――
「まあ、やってみなきゃ分かんないしな、とりあえずひと当てするか――」
俺は自分の周囲に魔法で作った直径三十センチほどの水の球体を三つ浮かべ,そのうちの一つを赤い花の上の人形目掛けて打ち込んだ。
魔力は節約しながら戦う必要がある。
これでどのくらいダメージを与えられるか、見ておこう。
ドシュウウウウッ!!!
「くそっ……」
俺の奇襲攻撃を察知したマンドレイクの根が、地中から瞬時に根を大量に出現させて巨大な盾を構築し、花をガードした。
俺の放った水球はガードを突き破ったものの軌道をずらされて、上空へと消えた。
「グッ、グギャアアアッ――」
マンドレイクの苦悶の叫びが森にこだまする。
ガードに使った根の痛みは、本体にも伝わっているらしい。
まったくの無駄にはならなかったが、奇襲は失敗した。
老人の顔の根が攻撃されたのを見て、花の上の赤い少女が、火の魔力を自分の周囲に集中させる。
そして自分の周囲に、巨大な炎の塊を作り出す。
それと――
ほぼ同時に、炎の塊は俺の目の前まで迫っていた。
回避は不可能。
バシュアッァァアァ――
俺はとっさに、周囲に展開しておいた水の魔法で敵の攻撃を相殺した。
炎と水の球がぶつかり合って、俺の周囲に水蒸気が立ち込め、視界を閉ざす――
残った水球をマンドレイクの魔力反応がある方へと飛ばし牽制しながら、隠密結界を展開してその場から十メートル先の右前方の木の陰へと移動した。
敵の攻撃魔法は、飛ばしたと思った次の瞬間に目の前にまで来ていた。
俺の魔法とは、速度が違い過ぎる。
「あいつの魔法の方が俺のよりも速い――撃った瞬間、俺に当たるような……」
魔法というのはイメージが重要だ。
魔法を覚えてから今日までの訓練で、魔法を飛ばすことには慣れてきたが、さらに速度を上げるには――
相手に直撃しているイメージで、魔法を使ってみるか……。
俺は自分の周囲に、先程と同じように三つの水の球体を作る。
標的は花の上の人形型のマンドレイク。
敵に直撃するイメージで水球を二つ飛ばす。
ドシュウウウゥゥウウ!!
魔力で作った水球は放った瞬間に、二発とも人形型の敵の身体の、右肩から顔と左足の付けのから、胴を吹き飛ばした。
とどめに最後の水球を、人形に向けて打ち込む。
根の盾によるガードは間に合わない。
合計三発の魔法攻撃を食らったマンドレイクの人型は、完全に沈黙した。
マンドレイク(花)を倒したので、魔力を水から土へと性質変化させる。
風属性はまだ習得していない。
ここからは敵と同じ、土属性で攻撃した方がいいだろう。
ここまでで、魔力をかなり消費してしまっている。
強力な魔法は、あと一発撃てるかどうかだ。
手に持っている魔術師の杖は異空間に仕舞って、はがねの剣を装備する。
「うおっ!!」
気付いた時には――
いつのまにかマンドレイクの根が、俺の周囲を包囲している。
俺を捕らえようと、襲い来るマンドレイクの根を切断していく。
数が多すぎて全てを防ぐことは出来ない。
いくつかの根が身体に絡みつかれた。
しまった。
こうなるのであれば、魔法属性は火にしておけばよかった。
属性の相性をだけを考えて、想像力が足りなかった。
空間移動を使って離脱するかと思案したが、止めておく。
あれは最後の手段。
奥の手に、すぐに頼る癖を付けたくない。
俺は魔力で、自身の力を強化する。
普段使っている身体強化よりも、さらに力を引き上げる。
力を上げすぎると、自分の身体も壊れるので耐えられるギリギリを狙う。
俺は上昇した筋力で、絡まり付いていたマンドレイクの根を強引に引き千切っていく。自分の身体も悲鳴を上げるが、今は無視だ。
身体の自由を取り戻した俺は、マンドレイクに向かってまっすぐに走る。
魔力の残りもあと僅か――
魔法攻撃も、敵に近いほど威力は強くなる。
次で勝負を決めるために、接近して高威力の魔法を叩き込む。
高速で接近する俺を、捕縛しようとマンドレイクは根を伸ばしてくる。
散発的な妨害を切断しつつ、俺は止まらずに走る。
スピードに乗ったままマンドレイクの十メートル手前まで近づくことに成功した。
その位置から、魔法で作った直径三十センチくらいの、魔法で作った岩石をマンドレイクに向かって打ち込む。
マンドレイクは自分の周囲の根をすべて、防御に回して備えるが――
ドオッゴッッォオオオオオオ!!!
俺の放った岩石はツタの防御をものともせずに、マンドレイク本体の太い根を貫通して大きな風穴を開ける。
「グゴオオオォオオォ……」
マンドレイクは断末魔の叫びをあげる。
俺は止めを刺すために、装備を槍に切り替えて闘気を込める。
マンドレイクに俺を攻撃する余力は、もうないようだ。
俺は敵の魔石の正確な位置を魔力探知で確認して、それを槍で貫いた。
ここまで隠れていたスラ太郎が、俺のそばに寄ってきた。
魔石を二つ回収してから、俺は農場へと帰った。
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マンドレイク(根)の魔石 (土属性)
所有者 ユージ
魔石値 000325
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マンドレイク(花)の魔石 (火属性)
所有者 ユージ
魔石値 000566
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