傀儡の魔術師
季節は夏の手前の雨期に入った。
西の森の探索は随分と進み、第一領域にいた植物型の強敵はあらかた倒してある。
今日からは天候次第で、第二領域の探索を開始しようと思う。
朝から降っていた雨は昼に上がっていて、その後の空は晴れたり曇ったりをくり返している。雨が降りそうで降らないくらいの雲だ。
「これなら行けそうかな――」
雨が激しい日には不測の事態を避けるために探索は休んでいるが、小雨程度なら問題なく戦闘できる。
俺は農場を出て西の森に入り、一キロ先の森の奥まで広域探知を行い、敵の数と位置を把握する。
探知範囲には戦闘能力100以下のモンスターしかいなかった。
しかし今日は余計な戦闘は避けて進みたい。
俺は隠密結界を張り、一キロ先の地点まで移動する。
「さて、ここからが未知の領域だ」
俺が西の森を探索しだしてから、二か月ほど経過している。
順調に強くなっている。
自信を持って行こう――
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名前 ユージ
HP 95/97 MP 88/91 FP 102/102
幸運力
058~-011×2
スキル
空間移動 危険感知
所持品
魔石値 0027329
回復薬 6個
性奴隷
アカネル モミジリ
借金 金貨74枚 銀貨4枚 銅貨50枚
才能
大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器
職業
労働奴隷Lv15(従順-13) 農夫Lv11 薬草採取者Lv11
戦士Lv17 剣士Lv15 武闘家Lv13 弓使いLv10 槍使いLv08
魔法使いLv15 魔物使いLv14
探索者Lv17 斥候Lv15 隠密Lv17 暗殺者Lv16
遊び人Lv21 ギャンブラーLv16 ハーレムマスターLv13
薬師Lv16 錬金術師Lv18 鍛冶師Lv17
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俺は森の西方向へ、五百メートルの範囲に探知用の魔力を飛ばす。
探知範囲にいた魔物は四匹で、戦闘能力は289、580、と269、372。
それぞれ二匹連れで一方は動かない。
恐らく植物タイプのモンスターだろう。
残りの二匹は、至近距離を移動している。
俺は移動している方を狙うことにする。
「植物型は仲間を呼ぶタイプもいるからな――」
鑑定も使い続けた結果か、魔法使いのレベルが上がったからかは分からないが、精度が向上している。
広域探知で、敵の戦闘能力だけでなく、名前も解るようになった。
鑑定で得た二匹のモンスターの名前は『ウッドマン』そして『傀儡の魔術師』。
傀儡の魔術師からは、強力な魔力を感じる。
ウッドマンはパワータイプ。
名前からしてウッドマンを、傀儡の魔術師が操っているのだろう。
俺は隠密結界を張って、慎重に敵へと近づていく。
森を歩き進めると、敵の姿を捉えることが出来た。
ウッドマンは身長三メートルくらいの、細長い木を人型にした魔物。
もう一匹は杖を持ちローブを纏った、身長七十センチほどの老人顔の魔物。
まずは魔術師を狙うべきだよな。
けど――
「できれば、魔法を使うところを見たいんだよな――」
油断している敵に、弓矢で奇襲が出来るのは最初だけだ。
一撃で殺さない様に魔術師の肩を狙うか――
ヤバくなればすぐに逃げる。
俺はこれからの戦闘方針を決めると、闘気を込めて弓で矢を放った。
ヒュォオオオオ!!
魔術師を狙った攻撃は、敵に当たる寸前でウッドマンに妨害される。
それでも闘気を込めた矢は、ウッドマンの腕を貫き傀儡の魔術師に刺さった。
「グッ? グガッ……ぅうオオッ、オノレ、ニンゲンメガ!!」
喋った。
なんだあいつ――
知能があるのか?
それとも口から、それっぽい音を発しているだけなのか?
まあどっちでもいいか、これから殺すことに変わりは無い。
「オモイ、シラセテクレル――」
傀儡の魔術師はそう言うと、自身の纏う半透明な魔力を赤色へと変化させる。
そして杖の先端に赤い魔力を集めると、こちらにかざし――
ごぉおおおぅぅう!!
燃え盛る球形の炎が俺に――
ドッ、ゴォオオオオオオオオ!!!
敵が杖を振りかざすと同時に、炎は俺に着弾していた。
避ける暇はない――
魔法攻撃が来ると予想はしていた。
対抗策として、自身の魔力を防壁として周囲に展開していた。
それによって敵の魔法を軽減できてはいるが、それでもHPが一気に51/97まで減っている。
服や装備は焼け焦げていて、左肩を中心に火傷がひどい――
あと二発、さっきのを喰らうと死ぬだろう。
傀儡の魔術師は、また杖に炎の魔力を集め出した。
「……ああ、これは詰みだな」
奥の手を使う。
俺は弓を異空間に仕舞うと、はがねの剣を装備。
そして――
スキル『空間移動』を発動した。
次の瞬間。
目の前にある傀儡の魔術師の頭へと、剣を振り下ろす――
ズシャッ。
俺の剣は、傀儡の魔術師の頭から胴体の真ん中までを両断した。
しかし、戦闘はこれで終わりではない。
ドゴッ……ォオオン!!
「グアッ……」
傀儡の魔術師の護衛として控えていたウッドマンの攻撃が、剣を振り下ろした直後の俺の身体に叩きつけられた。
重量のある敵の攻撃が直撃し、数メートル吹っ飛ばされる。
右腕から胸にかけて、衝撃が突き抜ける。
飛ばされたことで衝突ダメージは上手く抜けてくれたが、それでもHPが三分の一以下まで削られている。
俺は右手が動くか確かめてから、はがねの槍に装備を切り替えた。
敵の長い手足に対抗するために槍を選択。
これでリーチの差を埋める。
ウッドマンの攻撃力は高い。
まだ余力があるFPで身体の強度を上げて、防御力を補う。
敵の様子を伺うと、不意打ちで削った身体の傷が塞がっている。
再生能力があるのか、それとも身体を圧縮して傷を塞いでいるのか――
槍で連続攻撃を繰り出し、敵の身体を削っていく。
傷が塞がる様子を見ると再生ではなく、穴の開いた個所に周りの身を寄せて塞いでいるように見える。
このまま攻撃し続ければ敵を無力化できるだろうが、ウッドマンの膨大な体積を槍で削り切るのは現実的ではない。
俺にとって救いなのは――
ウッドマンの操り主であった傀儡の魔術師が死んだことで、敵の動きが鈍くなっている。傀儡の魔術師の護衛時のような、素早さで動かない。
威力はあっても大振りでスローな攻撃を避けるのは難しくないし、闘気で身体の強度を上げれば耐えることも可能だ。
こちらの攻撃は命中するが、敵の攻撃は当たらない。
優勢に戦えているが、決定打が無い。
できれば――
一撃で勝負を決めたい。
「魔石を狙うか……」
モンスターはその体内の魔石を破壊すれば、倒すことが出来る。
ウッドマンの魔石の位置は、空間探知で確認できる。
ウッドマンはこちらに顔を向け、ゆっくりと腕を大きく振り上げる。
顔には目が付いてないのに、こちらを見る動きに意味はあるのだろうか?
まあいい、俺は槍に闘気を込めて、体には魔力を巡らせる。
ウッドマンは振り上げた腕を俺に向かって振り下ろす。
俺は魔力で身体能力を向上させ、敵の攻撃を回避して――
ウッドマンの魔石に狙いを定めて、槍を繰り出した。
俺の槍がウッドマンの身体を貫き魔石を砕く。
ウッドマンは急速に力を失い、地面へと倒れ込んだ。
どぉおおおおおおんん!!
勝負はついた。
離れた場所でずっと様子を伺っていたスラ太郎は、ウッドマンが倒れた様子を見てこちらへと近づいてくる。
俺はウッドマンの半分に割れた魔石と、傀儡の魔術師の魔石を回収する。
戦闘中で確認できていなかったが――
傀儡の魔術師が『魔術師の杖』をドロップしていた。
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魔術師の杖 (所有者ユージ)
強度 115
魔力増幅 五十パーセント
品質A
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ウッドマンの魔石 (土属性)
所有者 ユージ
魔石値 000225
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傀儡の魔術師の魔石 (土属性)
所有者 ユージ
魔石値 000336
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俺は回復薬で体力と傷を癒してから、農場へと帰還した。




