森の魔物
季節は春。
日中は暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ冷える。
俺は農場の、西の森の入り口に来た。
これから、森の探索に入る。
俺は『はがねの剣』を、事前に装備して森を進む。
まずは広域探知を一キロほどの範囲に設定して、森の中へ放つ。
情報収集してから、隠密結界を張り移動を開始する。
森の中に、モンスター反応は二十三あった。
平原に比べるとかなり多い。
その中の十七の反応は、まったく動くことなくその場にとどまっている。
動きのない反応は、女神の結界のある農場周辺の割に強い。
戦闘能力が200前後と、総じて高い。
俺は一番近くの強力な反応を目指して、歩き出した。
「ん? う~ん木だよな、あれ――」
モンスターの魔力反応がある地点には、木が生えているだけだった。
木の後ろに、何かがいる気配もない。
ひょっとして定番の木の魔物、『トレント』かもしれない。
俺は装備しているはがねの剣を腰の鞘に納めて、弓に装備を変更する。
弓はモンスターからドロップした時は普通の弓だったが、モンスター素材との錬成をくり返していると、射程と破壊力が増加した複合弓になった。
俺は装備した弓に矢をつがえて――
「とりあえず、攻撃してみるか」
俺は複合弓で、前方の木に攻撃を加える。
ドッ、ドッ、ドッ、と矢を三回当てたところで――
木に人面が浮かび上る。
やはり木のモンスターだったか。
木に擬態していたのは、知らずに近づいた獲物を奇襲する為だろう。
この手の魔物に対して、探知は有用だ。
魔力反応で、擬態を見破ることが出来る。
攻撃を受けた木の魔物は、怒り狂い――
ぐぉっぉおぉおおお!!
と雄たけびを上げてこっちに向かって走ってきた。
「走れんのかよ!!」
至近距離まで接近してきたトレントは、枝を振り下ろして攻撃してくる。
上からの攻撃を、俺は素早く横に移動して避ける。
移動先に、今度は横から薙ぎ払いの追撃が迫る。
俺は弓を異空間に仕舞い、腰に差している剣を抜く。
唸りを上げて迫りくる枝を、はがねの剣で受け止め――
切り裂いた。
剣を振るう時は、余計な力を籠めず剣の重さで攻撃するようにしている。
敵が枝を振り回してきたので、その重さと移動エネルギーを利用した。
しかし、分厚い木の枝を簡単に切断できるとは――
流石は、はがねの剣だ。
トレントは残る五本の枝を、振り回し、叩き下ろし、突き出して攻撃してくる。
トレントの攻撃は予備動作が大きい。
手数は多いがこっちは一撃で枝を切断できる。
冷静に対処すれば切断するたびに、敵の体積はどんどん小さくなる。
振り回される枝に付随する小枝や葉を、全て捌くことは出来ない。
細かいダメージは喰らってしまうが、防御装備も充実しているので、致命傷以外は無視して戦う。
トレントは攻撃を繰り返すうちに、枝がどんどん短くなり丸裸状態になっている。
俺は止めを刺そうとトレント本体に近づく、危険感知が警鐘を鳴らしてくる。
俺はそれを無視して、敵に接近する。
トレントは浮かび上がっている顔の口部分から、樹液を飛ばしてくるが、それは革の盾で受け止める。
革の盾は籠手の上に装着でき、剣を振るうのに邪魔にならないサイズにしてある。
樹液攻撃で革の盾の耐久値は減少したが、俺はノーダメージだ。
トレントが接近する俺に斬を取られているうちに、後ろに回り込んだスラ太郎が体当たりで攻撃する。
スラ太郎の体当たりはトレントにとって想定外だった。
一瞬だが混乱状態に陥る。
俺はその隙にトレントの本体の幹に向かって、剣で攻撃を加えていく。
枝のように一撃では切断できないが、何度も攻撃を加えるとトレントの生命反応は消えた。
トレントの魔石を取り出して確認する。
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トレントの魔石 (土属性)
所有者 ユージ
魔石値 000204
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今日はまだ、魔力にも闘気にも余力がある。
俺はさらに探索を進めるために、西へと移動する。
魔力反応のあったポイントを、視力を強化して確認する。
そこにいたのは二メートルを超える、巨大な茎に巨大な赤い花。
その周りに無数のツタと、その先端に食虫植物のような頭が付いている。
本体の赤い花には大きな口があり、鋭い牙が並んでいる。
敵がツタを伸ばして、俺を捕獲しようとする。
そのつたを咄嗟に手で掴む。
ついでに魔力を込めて、詳しく敵を鑑定しておく。
魔物の名前はラフレシアン。
戦闘能力は257。
周りに迫ってきたツタを剣で切り裂き、しばらく敵の出方を伺が動きが無い。
トレントのように、走ってこないのか?
敵が動けないのなら――
俺はラフレシアンから五十メートルほど距離を取り、闘気を込めた弓で攻撃する。
相手と距離を取りすぎると弓の威力が落ちてしまうが、近すぎると反撃される危険が増える。
このくらいの距離での攻撃がベストだと判断した。
一方的に攻撃してやる。
弓での攻撃に対してラフレシアンは、自身のツタを使って防御を試みるが闘気を込めた矢はその防御を貫いて、本体の幹や花に突き刺さっていく。
ブフォオオ~~~!!
ラフレシアンは花の中心にある口から大量の吐息を周囲にまき散らした。
かなり距離を取っている俺のところまで、微かに甘い匂いが漂ってきた。
「なんだ? 毒か――?」
俺は警戒して息を止め、後ろに下がる。
広域探知で魔物の位置を把握していた俺は、すぐに異変に気付く。
マークしていたいくつかの魔物が、こちらに向かって近づいて来ている。
「匂いで他の魔物を、おびき寄せているのか――」
俺は素早く隠密結界を張って、木の陰に隠れる。
おびき寄せられたモンスターは、巨大な太った蝙蝠が二匹に、動き回るキノコが一匹、ゴブリン三匹が群れで匂いに引き寄せられるように現れた。
ラフレシアンはモンスターを匂いで操れるようで、集めたモンスターを俺の隠れている場所にけしかけてきた。
敵の戦闘能力は、高くない。
俺は隠れるのを止めて、対応を迎撃に切り替えた。
まずは宙を飛んでいる、蝙蝠二匹に弓で攻撃する。
倒せなくてもいい、動きを止めるために羽を狙って二発ずつ矢を射った。
蝙蝠は狙い通りに、地に落ちる。
俺はそこで弓をしまい、はがねの剣を鞘から抜き放つ。
弓で攻撃していた隙に、ゴブリンやキノコが至近距離に迫ってきている。
ゴブリンは三匹とも、こん棒を装備している。
得物のリーチは俺の方が長い。
俺は焦らずにゴブリンの手首、首、肩を順番に斬っていく。
少し遅れて迫ってきたキノコのモンスターは、真上から一刀両断にする。
キノコの戦闘能力は50前後で弱いが、特殊攻撃があった。
キノコ型のモンスターは切断した瞬間に、胞子のようなものをまき散らして死んだ。
「これは毒――か……」
今更息を止めても遅い……。
吸い込んでしまったが、弱い毒だ。
今は気にせずに、モンスターを殲滅しよう。
俺は致命傷を与え放置していたゴブリンに、止めを刺そうと振り返る。
そこで危険察知が発動した。
空間感知を使い背後からの攻撃を把握。
俺は振り返りざまに、背後から接近してきたものを切り捨てる。
攻撃はラフレシアンのツタだった。
ここまで伸ばせるのか。
ツタの先端には口がついていて、中には鋭い牙が見える。
俺は近くで様子を見ていたスラ太郎に、ゴブリンの始末を任せてラフレシアンの本体へ向かって走り出す。
この距離でもツタが届くのなら、接近して倒した方がいいだろう。
すでにラフレシアンには、かなり手傷を負わせている。
俺は途中に倒れていた巨大な蝙蝠を、ついでに剣で切りつけて走る。
死角から不意打ちを仕掛けてくるラフレシアンのツタの攻撃を剣で捌きながら、本体の側まで近づいた。
ラフレシアンの本体は直径三メートルはあり、ずっしりとしている。
その本体の周りを、ツタが守るように取り巻いている。
俺はツタの攻撃を、切り裂き躱し捌いていく。
ツタに巻き付かれると動きを封じられて、一気に形勢は傾く。
そんな緊張感の中で、俺はラフレシアンを削り続ける。
俺の身のこなしは訓練をくり返し、かなり上達していた。
気が付けばラフレシアンはツタをすべて失い、本体が丸裸になっている。
俺は遠慮なくラフレシアンの本体を切り刻んでいく。
ギぎゃァウウウ――
断末魔のような叫びをあげながら、ラフレシアンは身体を折り曲げて巨大な口で、俺に噛みつこうと試みる。
俺は剣に闘気を纏わせて、ラフレシアンの巨大な花ごと口を切り裂いた。
モンスターの群れを全滅させた。
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ラフレシアンの魔石 (土属性)
所有者 ユージ
魔石値 000271
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ゴブリンの魔石 (無属性)
所有者 ユージ
魔石値 000012
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化け物キノコの魔石 (土属性)
所有者 ユージ
魔石値 000051
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巨大蝙蝠の魔石 (風属性)
所有者 ユージ
魔石値 000037
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回復薬で毒を治療し魔石を回収して、農場へと帰還した。