漁夫の利
性奴隷を所有したことで、対象の抱える借金ごと自分の物になった。
ただし奴隷が働いて得た対価も自分の物になるらしく、借金の減額スピードは上昇した。俺たち三人は、金銭面でも一蓮托生になったらしい。
この世界の労働奴隷と性奴隷の違いは――
労働奴隷は雇用と扶養の契約。
奴隷側は労働を提供して、雇用主は仕事と生活環境を提供する。
性奴隷は所有と愛人の契約。
奴隷は性奉仕を行い、主人は奴隷を所有する。
自分なりに考察してみたが、合っているかどうかは判らない。
大体はこんな所だと思う。
ちなみに性奴隷二人のステータスは――
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名前 アカネル (所有者ユージ)
HP 16/16 MP 08/08 FP 15/15
職業 労働奴隷Lv06(従順26) 性奴隷Lv02
平均戦闘ステータス 025
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名前 モミジリ (所有者ユージ)
HP 14/14 MP 10/10 FP 11/11
職業 労働奴隷Lv06(従順28) 性奴隷Lv02
平均戦闘ステータス 023
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ここ三か月ほどは、農場周辺の北と東の平原で雑魚狩りをしてきた。
地道に頑張った甲斐もあり、モンスター素材の在庫も充実してきた。
そろそろ、戦う相手のランクを上げようと思う。
とはいえ、山や森はまだ不安がある。
上位モンスターの狩りは、東の平原の第二領域の入り口で行う。
俺とスラ太郎は、連れ立って草原を進む。
途中でスライムに遭遇したが、敵の体当たりを待ち構えて、こん棒で迎撃し何事もなく倒した。
農場から一キロ離れた場所に来た。
前方に大きななめくじの魔物を発見する。
探知で測った戦闘能力は280くらい、戦うと手こずりそうだ。
「あれは――、スルーだな」
今回は手あたり次第に遭遇したモンスターと戦うのではなく、相手を選別する。
今までの経験上、人型のモンスターしかアイテムをドロップしない。
そろそろ、短剣以外の武器を手に入れたい俺としては、人型を狙って狩っていきたい。
「弱い奴は短剣とこん棒以外は落とさないからなぁ」
俺は周囲一キロくらいを目安に広域探知を発動する。
この辺りのモンスターは、広域探知に気付かない。
ある程度は安心して使える。
探知した範囲に、ちょうどゴブリンの集団を見つける。
北西の方角に五匹が群れている。
平均戦闘能力180前後の奴らだ――
俺はスラ太郎に、そいつらを挑発して釣って来いと命令する。
命令を受けても、スラ太郎は行きたくなさそうに渋っている。
敵が集団だから、ビビっているようだ。
なんとか『お前そういうの得意だろ? あんな奴ら楽勝だって――』とおだててその気にさせ、作戦を伝えて任務に向かわせる。
手間のかかる奴だ。
スラ太郎はゴブリンの集団にそっと近づく。
そして、自身の体内で作成した酸を噴射した。
「グっ、グギャギャ、ギッ、ぎゃァーー」
突然、霧状の酸を吹きかけられたゴブリンたちはパニックに陥る。
その隙にスラ太郎は、大ナメクジがいた方角へと一目散に逃げだした。
不意打ちを受けて混乱していた、ゴブリンの群れが落ち着きを取り戻し、スラ太郎への反撃に移る。
ゴブリンの群れの装備は――
剣2、槍1、弓2、で編成されている。
近接武器を持った三匹のゴブリンが、スラ太郎を走って追いかける。
その間に弓を装備した二匹が、スラ太郎へと弓を射る。
夜間で視界が悪く、距離も離れている。
弓はスラ太郎に当たらない。
夜の暗闇もこちらに味方している。
単にゴブリンの弓の腕が悪いだけかもしれないが――。
ゴブリンから逃げるスラ太郎は、途中で遭遇した大ナメクジの後ろに、素早く回り込んで身を潜める。
二匹のゴブリンの放った矢は、小柄で素早く動き回るスラ太郎を捉えることは出来なかったが、大柄で動きの遅い大ナメクジには命中した。
矢で攻撃されて殺気立っている大ナメクジの方向へと、三匹のゴブリンがスラ太郎を追って走り込んでいく。
大ナメクジは自分がゴブリンの群れに襲撃されたと勘違いして、その巨体でゴブリンにのしかかった。
一匹のゴブリンが大ナメクジの下敷きになる。
仲間を救出しようと、槍と剣を装備したゴブリンが大ナメクジを攻撃するが、大ナメクジの身体は、柔らかく滑っていて攻撃が通りづらい。
その上、傷が塞がるのも早かった。
五十メートル後方で、その様子を見ていた弓装備の二匹のゴブリンは、スラ太郎のことを後回しにして、仲間を援護するために大ナメクジを狙い攻撃し出す。
俺は隠密結界を張ったまま、弓使いのゴブリンの後ろに回り込んだ。
「さて、いくか――」
いや。
――少し早いか。
もう少しゴブリンに、大ナメクジを攻撃させておきたい。
しかし敵が分散しているこのタイミングで、確実に奇襲しておくのも魅力的だ。
欲張りすぎて、敵が合流するのは一番避けたいからな。
俺は二匹いるゴブリンの、左側の真後ろに陣取る。
そして、はがねの短剣に闘気を込める。
闘気なしでも行けるとは思うが、ゴブリンは革の胸当てを装備している。
確実に一撃で心臓を貫きたい。
二匹のゴブリンが同時に弓を放ったタイミングで、俺は短剣をゴブリンの心臓に突き刺した。
「ガッ!! グッ、ぐぇ……ッ」
ゴブリンの発した断末魔のうめき声を聞き、もう一匹がこちらを振り向く。
俺は心臓を貫いたゴブリンの死体を、もう一匹の方へと突き飛ばす。
とっさに仲間の身体を受け止めたゴブリンの首筋を――
俺は、はがねの短剣で切り裂いた。
首を斬られたゴブリンは、血を盛大に噴き出してやがて死んだ。
「おっ! ――」
片方のゴブリンが弓をドロップしたようだ。
大ナメクジと戦っている最中のゴブリンは、こちらの異変に気付いていない。
今のうちに装備しておこう。
弓と五十本の弓矢と、矢を入れておく筒状の入れ物がセットで手に入った。
専用装備にすると、装備時に矢筒を背中に背負うか、矢を異空間から一本ずつ取り出すかを選択できるようだ。
弓は今まで使ったことも練習したこともないが、戦士の職業補正で多少は使いこなせるようだ。敵との距離も五十メートル程ある。
ちょっと練習がてらに使ってみるか。
大ナメクジVSゴブリンの戦いは、大ナメクジの方が優勢のようだ。
大ナメクジを的にするか。
目標までの距離は五十メートル。
直線でも行けると思うが確実に届かせるために、俺は少し山なりに弓を射る。
俺の放った矢はしかっりと大ナメクジに突き刺さった。
「今度は直線でいってみるか――」
それから俺は連続で弓を射続ける。
大ナメクジの手前にいるゴブリン二匹は、弓の射線上にいるので当たるかもしれないが、別に構わない。
「フレンドじゃないから、フレンドリーファイヤーにはならない」
大ナメクジは遠くからくり出される弓攻撃が煩わしいのか、攻撃のターゲットを俺に変更して、こちらに来ようとする。
しかし目の前のゴブリンが邪魔で、その場から動けずにいる。
このまま、大ナメクジを始末できるか――?
ただ大ナメクジを倒すと、その後でゴブリンの相手をしなきゃいけなくなる。
……共倒れしてくれないだろうか。
その時に俺は、ふと思いついた。
弓に闘気を込めれば強力な攻撃が出来るんじゃないか?
それで敵を、貫ければ――
よし、やってみよう。
俺は弓と番えた矢に、闘気を込めて弦を引き絞る。
「――これはかなりの威力が出そうだ」
俺は狙いをゴブリンに定めて矢を放った。
ヒュオッ!! 放たれた矢はゴブリンを貫き、ズボォォン!!!
大ナメクジの身体にも、深々と突き刺さってダメージを与える。
「もう一発――」
俺は最後のゴブリンと大ナメクジを射線に入れて、闘気を込めた矢を放つ。
矢は一直線に飛んでゴブリンの身体を貫き、大ナメクジの身体を抉る。
一石二鳥。
これでゴブリン二匹は倒せた。
もう一匹は大ナメクジの下敷きで、虫の息だろう。
大ナメクジだけは、まだ生きている。
邪魔なゴブリンがいなくなったので、俺への殺意を全身に漲らせて、こっちに向かって這い寄ってくる。
地べたを這っているのに意外と早い、。
俺は大ナメクジの頭を狙って、闘気を込めた矢を放つ。
矢は大ナメクジの頭の半分を吹き飛ばした。
しかし、それでも大ナメクジは死なずに、こちらに向かって這い寄り続ける。
「タフすぎるだろ。あいつ――」
俺は装備を、弓からこん棒に切り替えて構える。
大ナメクジの突進を避けながら、その巨体をこん棒で攻撃し続ける。
二十数回殴りつけた辺りで、大ナメクジは力尽きて息絶えた。
大ナメクジから取り出した魔石を鑑定する。
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大ナメクジの魔石 (無属性)
所有者 ユージ
魔石値 000187
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魔石値は187、ゴブリンの方はどれも120前後だった。