武器の進化
コボルト・ライダーを倒してから、十日ほど過ぎた。
手に入れた旅人の服は、農場の外に探索に出るときに着用している。
服のサイズは装備時に、自動で調整される。
地味だが便利なアイテム――
この世界では人の作る物よりも、魔物のドロップ品の方が高性能だ。
俺も魔法を使ってアイテムの錬成をしたりしているから、ドロップ品が高度な魔法技術で作られたものであることが朧気ながらにも理解できる。
その技術が伝説の武器とかではなくて、人間でも作れる装備に使われている。
いかにも女神が趣味で作った世界、という感じがする。
強敵と戦うとFPがゴリゴリ削られて、すぐにガス欠になってしまう。
FPを節約して戦うためにも、装備を強化していきたい。
魔物素材作成にも魔力を消費するようになったので、無理をせずに雑魚狩りに徹している。そのため経験値はあまり稼げなかったが、ドロップ品は新たに革の靴と鉄の短剣が手に入った。
手に入った短剣を専用にしてみようと試したが、二本目は無理だった。
短剣よりも長剣が欲しいんだけどなぁ、などと贅沢なことを考えながらも、手に入れた短剣を使って試してみたいこともできた。
素材と装備品の合成の為に、今日から討伐は休んで合成に集中しようと思う。
錬成の経験も積んでおきたい。
まずは、旅人の服と毛皮系の魔物素材を錬成する。
それが終わると革の靴と皮の魔物素材の錬成を開始する。
錬成に成功すると、低下していた耐久値が回復する。
一本余っている鉄の短剣を、魔法で素材にしてみようと思う。
「魔法で形状を変化させる。鍛冶師という職業もあるしいけるだろう」
鉄の短剣に魔力を流して、回復薬や魔物素材の要領で圧縮する。
小さく丸い、鉄の塊になった。
鑑定してみる。
*************************
鉄のインゴット (所有者ユージ)
品質A
*************************
さらにこの鉄のインゴットを、鉄の短剣と魔法で融合させる。
形を大きくするのではなく、刀鍛冶が鉄を叩いて鍛えるイメージで――
合成は上手くいき、短剣は心なしか合成前よりも立派になった気がする。
鑑定してみると、見事に強度と耐久値が上昇している。
『鉄の短剣』が『はがねの短剣』へと進化した。
*************************
はがねの短剣 (所有者ユージ)
強度 670
耐久値930/930
品質A
*************************
ここまでの作業で魔力が、半分以下に低下した。
あとは薬草を回復薬に錬成して、今日はもう寝よう。
モンスターの討伐と素材集め、装備品の錬成を進めて三か月が経過した。
モンスター討伐は雑魚狩り中心で、戦闘系のレベルはあまり上がっていないが、錬金術や鍛冶師は上昇している。
*************************
名前 ユージ
HP 74/74 MP 79/79 FP 69/69
幸運力
058~-011×2
スキル
空間移動 危険感知
所持品
魔石値 0001091
回復薬 6個
借金 金貨30枚 銀貨5枚 銅貨11枚
才能
大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器
職業
労働奴隷Lv10(従順-5) 農夫Lv09 薬草採取者Lv07
戦士Lv12 剣士Lv10 武闘家Lv09
魔法使いLv10 魔物使いLv08
探索者Lv10 斥候Lv10 隠密Lv10 暗殺者Lv09
遊び人Lv12 ギャンブラーLv08
薬師Lv10 錬金術師Lv11 鍛冶師Lv10
*************************
季節は真冬になり、体が芯から冷えるようになった。
だが俺には、旅人の服がある――。
夜の間だけでも、それを着る。
少しでも寒さを凌げるようになったのは大きい。
この辺りの冬の寒さは、たまに雪が降るくらいで豪雪地帯というわけではない。
冬の間でも働ける奴隷は開墾作業や畑の整備、家畜の世話など、それぞれが出来ることをする。
しかし今年の冬は、異変が生じている。
毎年この時期は風邪が流行るので、病気になって休む者が出るのだが、今年は病欠がいつもより多い。
さらに症状も重くなるようで、高齢の奴隷が一人と子供の奴隷が一人、すでに死んでいる。
かく言う俺も、風邪の病状が出た。
回復薬を飲んだらすぐに治ったので事なきを得たが――
病気にまで効くのか、これ。
風邪という病気は確か――
六種類くらいのウイルスのどれかによって引き起こされる似たような病状を、一まとめにしてそう呼んでいるんだったか。
人間の身体はウイルスと自然免疫が、常に戦っている。
体内の自然免疫が、ウイルスとの戦いで押し負けると病気になる。
病気の状態から回復薬で回復できたということは――
『回復薬』が減少した自然免疫を回復させたのだろう。
あくまで俺の推測だが、的を得た仮説ではないかと思う。
便利な道具を考え無しに使うよりは、仕組みを把握して使いたい。
この農場では、冬の寒い時期や夏の暑い時期には薬草を混ぜた食事が提供される。
善意からではなく、労働奴隷の働きが農場の収益に直結するからだ。
それでも病気や疲労などの被害は出るが、回復薬が支給されることはない。
回復薬はかなり高価らしいから、奴隷に使用されることは無いだろう。
俺には回復薬があるし、風邪にかかってもすぐに直せる。
だが回復薬を、他の奴隷に使ってやる気はない。
奴隷の体調管理は農場主のやるべきことだし、回復薬を錬成できることは他人に知られたくはない。
最近の俺の仕事は休耕地に生えた木の切り取りと、その後の馬を使って畑を耕す作業をしている。
朝飯を食べてから作業開始だ。
「さて、今日の朝飯は何かな?」
どうせ野菜のスープだろうが、たまに解体した肉の残りが入っていることもあるからな、そんな淡い期待を胸に食事を取りに行くと、ちょっとした違和感を感じた。
「――ん?」
モンスター退治をするようになって、僅かでも異変を感じると慎重に原因を探る癖がついた。俺は周囲の気配を探る。
違和感の正体は――
俺と同じ転生者の二人組。
一緒にいるはずが、今日は一人でいるのだ。
あの二人は料理の補助の仕事をしているので、この時間にいないはずはない。
姿が見えるのは大人しい性格の方で、もう一人はいない。
ちらっと見ると、少し青い顔をして元気がなさそうにしている。
となると、状況的に流行り病にでもかかったのだろう。
これは――
まともに話をするチャンスだ。