木の棒
オオカミの魔物の毛はがちがちに固まっていて、防御力が高そうに見える。
俺は確実にダメージを与えるために、装備した鉄の短剣に闘気を込めた。
力を温存するとか、出し惜しみは無しだ。
――全力で行かなければ勝てないだろう。
隠密結界を展開したままオオカミ向かって走り込み、無防備な腹に短剣を突き立てて、一気に引き裂いてやった。
ついでに足の付け根も切り付けておく、出血を増やしてなるべく弱らせたい。
その後はスラ太郎に、切り裂いた腹を中心に攻撃するように命じておく。
敵から気付かれずに、先制で奇襲できるのはここまでだ。
一連の攻撃の後、俺はコボルトの様子を気配で伺う。
オオカミの巨体のせいで、あいつからは俺の最初の不意打ちは見えていない。
腹を切り裂いた際のオオカミの呻き声で、何らかの異変は察知しているようだが、まだ完全に事態を把握していない。
いける!
俺はオオカミに攻撃を加えた勢いのまま、コボルトに向かって走り込む。
コボルトは食いかけのゴブリンの手足を両手に持ったまま、驚愕の表情で俺を見た。――敵と目が合った瞬間、俺の鉄の短剣はコボルトの右目を突き刺していた。
「ぐぎゃあぁああああッ!!!」
コボルトは目を潰された激痛で、顔を押さえて大声で悲鳴を上げる。
悲鳴を上げながらも後ろに倒れて短剣から逃れ、そのまま地面を転がって俺から距離を取る。
俺はこのままの勢いで押し切ろうと、鉄の短剣で斬りかかる。
コボルトは残った左目で俺の姿を捉える。
短剣の攻撃を手に持ったゴブリンの手足で受け止め、俺の腹に蹴りを入れてその反動で距離を取る。
その際に近くに置いていた自分の武器を回収、装備して身構える。
コボルトの武器は鉄の鉤爪――籠手にナックルが取り付けられ、さらにその先端に爪が付いている武器だ。
暫らく睨み合ってから、お互いに攻撃を繰り出す。
こちらの鉄の短剣での攻撃は、鉄の鉤爪で受け止められる。
さらにコボルトは、空いている片方の手で俺に攻撃してきた。
コボルトは素手でも鋭い爪が生えていて攻撃力が高い、そちらにも注意が必要だ。
やり辛いな――
両腕で攻撃できるうえ、リーチも違って対応しずらい。
さらに接近すれば、鋭い牙での噛みつきもあるだろう。
思い切って、踏み込むのは危険だ。
リーチの短い、短剣じゃ不利だな。
俺は短剣を装備から外して収納すると、腰に差していた木の棒を抜き出し構える。
それを見たコボルトは嘲りの表情を浮かべる。
――言いたいことは解る。
「木の棒って、お前(笑)」
とか言って、突っ込みたそうな顔だ。
コボルトは背を低く屈めて、俺の周囲を不規則に回り始める。
正面からではなく俺の死角から、攻撃するつもりのようだ。
スピードもかなり速い、目で追うのがやっとだ。
次で決着がつく――
俺はコボルトを迎え撃つことに、全神経を集中する。
闘気を込めれるだけ、木の棒に込めて構える。
コボルトの動きに合わせて、こちらも構えを微調整する。
だが一瞬だけコボルトのフェイントに付いて行けず、敵の動きからこちらの迎撃の構えがズレてしまった。
その隙を見逃がさず、コボルトは雄たけびを上げて俺に向かって突っ込んでくる。
コボルトの雄たけびで、俺のFPが削られる。
マズいな――
焦りが生まれる。
集中しなければ――
死ぬ。
俺は戦いに集中すると――
頭が冷静になり、敵の動きがゆっくりとなって良く見えるときがある。
俺は半歩だけ後ろに足をずらし、体の向きを調整する。
コボルトの構えと動きを観察する。
コボルトの狙いは、鉄の鉤爪で俺の木の棒を切断し、無防備になった俺をかみ殺すつもりだろう。
しかし俺の木の棒には、闘気を込めてある。
強度は鉄製の武器に引けを取らない――
これを奴は知らない。
後は迎撃のタイミングさえ間違わなければ――
木の棒を切り裂こうとしたコボルトの鉄の鉤爪を、闘気を込めた木の棒で弾く。
予想外の展開に、コボルトは大きくバランスを崩して――
大きく開けたままのコボルトの口の中に、俺は自分の拳を突き刺した。
最後にコボルトは爪で俺の背中を切り裂いたが、俺の拳は闘気を纏ってコボルトの喉の奥を突き破り風穴を開けている。
俺の勝ちだ。
コボルトの口から腕を抜く。
コボルトは痛みで地面を転がりまわっている。
まだ死んでないのか――
魔物は生命力が強い。
俺は短剣に装備を切り替えて、コボルトの頭を足で押さえ首の欠陥を切り裂き、しっかりと止めを刺した。
あっちはどうなったかな?
スラ太郎の方の様子を見る。
スラ太郎はオオカミの魔物と対峙して、睨み合いを続けていた。
まだ攻撃してなかったのか――
奇襲で結構な重傷を与えていたんだが……
まあ、動きを止めていてくれたと考えれば、よくやったというべきか。
オオカミの魔物は腹に致命傷の傷があり、足の付け根も切り裂いている。
かなりの出血だ。
放っておいても死にそうだが、死ぬまで待っていると他の魔物がやってくる危険がある。積極的に二人がかりで止めを刺しにいこう。
俺とスラ太郎は、敵を挟んで対角線上の位置に移動する。
敵が顔を向けていない方が、敵を後ろから攻撃できる。
オオカミは俺を視界から外すのを嫌がり、こちらに身体を向ける。
スラ太郎は、敵の後ろから攻撃を開始した。
スラ太郎の攻撃に気を取られたところで、間合いを詰めて牽制する。
瀕死の敵をそのまま二対一で攻撃し続けて、殺すことが出来た。
二匹の魔物の魔石の回収と、素材の剥ぎ取りを行う。
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ウォー・ウルフの魔石 (無属性)
所有者 ユージ
魔石値 000163
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コボルト・ライダーの魔石 (無属性)
所有者 ユージ
魔石値 000189
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オオカミの方はウォー・ウルフという名前で、犬面の方はやっぱりコボルトだった。ライダーとか付いているから上位種だったのだろう。
アイテムもドロップした
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旅人の服 所有者 ユージ
強度 10
耐久値300/300
品質A
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上下セットの服で、かなり良いものだ。
地味に嬉しい。
早速、専用装備にした。
「品質はどれもAなんだよな」
モンスターのドロップ品は人の作ったものではない。
女神が魔法で作ったものなのだろうか?
ゴブリンの死体からも、忘れずに魔石を回収する。
ウォー・ウルフの魔物素材の圧縮も済ませる。
かなり手傷も負っていたので、回復薬も使用する。
ステータスのチェックもしておこう。
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名前 ユージ
HP 74/74 MP 18/75 FP 11/67
幸運力
058~-011×2
スキル
空間移動 危険感知
所持品
魔石値 0000591
回復薬 5個
借金 金貨42枚 銀貨1枚 銅貨9枚
才能
大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器
職業
労働奴隷Lv10(従順-5) 農夫Lv08 薬草採取者Lv06
戦士Lv12 剣士Lv09 武闘家Lv08
魔法使いLv09 魔物使いLv06
探索者Lv09 斥候Lv09 隠密Lv10 暗殺者Lv08
遊び人Lv11 ギャンブラーLv08
薬師Lv08 錬金術師Lv04 鍛冶師Lv03
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「今日はもう農場に帰って寝よう」