こん棒
二か月後――
夏の暑さも消え去り、少し肌寒さを感じる日が出始める。
季節は秋になった。
今日から農場の外に出て、冒険を再開する。
二か月間の訓練の成果。
ステータスを確認しておくか――
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名前 ユージ
HP 72/72 MP 70/73 FP 64/64
幸運力
058~-011×2
スキル
空間移動 危険感知
所持品
魔石値 0000192
回復薬 6個
借金 金貨42枚 銀貨3枚 銅貨12枚
才能
大魔導士の卵 戦神の欠片 強欲な器
職業
労働奴隷Lv10(従順-5) 農夫Lv08 薬草採取者Lv06 薬師Lv07
戦士Lv10 剣士Lv06 武闘家Lv05
魔法使いLv08 魔物使いLv04
探索者Lv07 斥候Lv06 隠密Lv09 暗殺者Lv06
遊び人Lv10 ギャンブラーLv06
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いつものように日が沈み、周囲が寝静まるのを待つ。
部屋を出ると、夜の暗闇が世界を覆っていた。
今日は月も出ていない。
これから向かうのは東の平原だ。
流石に惨敗した南の山に、今からリベンジする気はない。
スラ太郎に付いてくるように命じて、東へと移動する。
農場の柵を超えて、東の平原に出た。
「まずは索敵――」
前方一キロくらいに、魔力が広がるように放った。
前回の探索では、自分の放てる最大限で魔力を放っていたが、もう少し範囲を絞った方がいいだろうと考えて、使い方を改良した。
俺の『広域探知』は少量の魔力を全方位に広げて放つ。
大抵の人間や魔物には気付かれないが、警戒心の強い相手や魔力に敏感なタイプの魔物には気付かれるリスクがあった。
魔力感知能力の優れた魔物から見れば、俺の広域探知は人間が大声で叫んでいるようなものだろう。
使い方をもっと工夫するべきだった。
俺の探知した一キロ圏内にいた魔物は、全部で七匹。
いずれも戦闘能力100未満だ。
魔法はイメージ次第でアレンジできるし、精密機械のように正確に作動する。
魔力を少しぶつけただけでもその手応えで、相手の大まかな強さはわかる。
俺の感じ取った相手の戦闘能力を自動で数値化して、ウィンドウ表示するように設定した。正確ではないが、大雑把な強さが解った方が対応しやすい。
広域探知で得た魔物の位置も、一緒にウィンドウ表示されるようにしてある。
敵の位置と強さを把握した俺は、次に自分の周囲一メートルに『隠密結界』を展開する。これで俺の存在は、魔物から把握できなくなった。
俺は自分のHP、MP、FP、を常にチェックできるようにウィンドウ表示しておく――これで探索の準備が出来た。
近くにいる魔物から、順番に狩るか――
農場付近の魔物の反応は単独行動か、多くても2匹で連れ立っているくらいなので、数の暴力で押される心配はない。
俺の一番近くに居たのは、一匹のこん棒を装備したゴブリン。
俺から少し距離を取って先行しているスラ太郎に、ゴブリンの注意を引くように命じる。
スラ太郎はゴブリンの前に移動すると、ピョンピョンと跳ねだした。
その挑発に苛立ったゴブリンは、スラ太郎を攻撃しようと身構える。
俺はスラ太郎に意識を向けているゴブリンの後ろに回り込み、装備している木の棒に闘気を纏わせる。
一息で攻撃できる間合いまで近づき、ゴブリンの脳天めがけて振り下ろした。
グシャッと鈍い音がして、木の棒はゴブリンの頭部の半分まで凹ませた。
一撃で即死だったようだ。
地面に横たわったゴブリンはもう、ピクリとも動かない。
その時、半透明のウインドウが現れて
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ユージはゴブリンを倒した。
ゴブリンは『こん棒』を落としていった。
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モンスターがアイテムをドロップしたことを知らせてくれた。
鑑定でスキャンできる個人情報には、行動履歴もある。
モンスターがアイテムをドロップした時に、自動で発動するように条件付けして調整しておいたのだが、自分の意図した通りに発動したようだ。
しかし、こん棒か――
微妙な武器だけど、今は手持ちも少ない……とりあえず専用武器にして収納しておくことにした。
広域探知でマークした獲物の位置は、その後もしばらく把握し続けることが出来る。相手に付着した魔力が残っているうちは追跡が可能だ。
これで獲物を探し回ることなく、効率的に倒して回れる。
次のターゲットのスライムはフヨフヨとしながら、草むらの中で佇んでいる。
せっかくなので、こん棒を試してみることにする。
俺はこん棒を装備して、スライムの動きを観察する。
以前はまったく分からなかったスライムの初動のタイミングを、掴めるようになっている。飛びかかってきたスライムに合わせて、装備したこん棒を叩きつける。
闘気や魔力を使わなかったが、一撃で粉砕できた。
スライムのような液体生物には、打撃武器が結構有効なようだ。
耐久値も高いし、意外と使い勝手が良いかもしれない。
見くびり過ぎていた。
すまん、こん棒。