[短編]笑ってはいけない中学最初のホームルーム
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今日は始業式が終わり、中学最初のホームルームだ。しかしながら、どうせこのクラスも来年には解散するのだし、特別親しくしようとは思わなかった。先生も怖そうだしハズレっぽい。
「皆さんね、中学になったばかりで緊張してると思うけど、そんなに心配しなくていいからね。」
担任の口山先生が頭を下げたと同時に、彼の頭から黒い物体が床に滑り落ちた。窓から差す光が彼の広過ぎる額に乱反射し、ミラーボールのように輝いた。
「ーえ?」
1人の男子生徒が光の速度で異変に気がついた。先生と目が合うと同時に、目を逸らす。
「大原君、目、合いましたねぇ」
「…」
初日から先生のデリカシーを無視して、笑ってしまうのは誰であれ良くないと気づくだろう。口山先生は、何故か張り詰めているこのクラスの雰囲気を和ませるために、ある秘策を思いつく。長年の経験から、直感的に最善策を思いついたのだ。
「キンチョーしてる皆さんに、私から笑いのプレゼントを差し上げます」
生徒一同は、内心ホッとした。先生のギャグで堂々と笑えることを。多くの生徒達には、もう笑いを堪えるのは限界だったのだ。すると先生は小さな定規を手に取り、その手を高く上げた。
「わた〜しのひラたい額に〜飛コウ体が〜飛来ッ!」
ペチンっと音を立てて、定規が先生の額に着陸した。正直面白い。普通の状況なら多少は笑っていただろう。だが今は普通の状況ではないのだ。笑いを解放する準備が整いまくっていた生徒達は、突然また笑ってはいけない空間にさらされた。遂に、あまりにも広過ぎる着陸路が、先生の右手をつたい、先生の脳へと伝わってしまった。
「…」
先生の視線が床へ落ち、あの黒い物体を認知する。
「ぐふっ!」
大原に視線が集まる。大原の肩が揺れている。先生はまだこの状況を受け止め切れていない様子だ。しかし、生徒達の心拍数は上がる。同時に、呼吸が乱れてきた。私もだ。もう耐えられない。ふと、思う。いつも笑いには犠牲がつきものだということを。いくら善意があろうとも、我が身を削らない限り素人には大爆笑は取れないのだ。そうだ、自虐ネタや他虐ネタが多いのはその理にかなっているからなんだ。笑うなら、中途半端は失礼だ。笑おう。笑いまくろう。
その場にいた先生以外の人間は、無邪気にも笑い、共に見つめ合った。
ー私達のクラスは受験が終わった今でも仲がいい。
それはきっと、
口山先生のおかげだ。ー
完
ありがとうございました