誰の声?
『アイ…ナ、あなたは…の力を…に知られてはいけません…があなたを消しに…でしょう」
…はっ!誰!?
私は勢いよく起き上がって周りを見回してみるけれど、ここは私の部屋で、誰もいなかった。
…夢?でも、聞き覚えのある声だった…
えーっと、確か…って、あああああ!何で忘れてたんだろう!?
前世で私がまだ幼い頃、よくこの声が夢に出てきていた。私はあまり夢を見ないから印象に残っていたのだけど…
そういえば、佐藤さんが亡くなった後に食堂に押しかけたのって、この声に言われたからだったわ…
まあそれもあるけれど、図書館が近いっていうほうが私にとって魅力的だったのは認めなくもない。
あれ?もしかしてあの自己紹介の時に私が皆に呆れられたのって、私が本が好きだからというだけで押しかけたと思われていたからじゃ…?
うっ、あまり否定できないから悔しい。
いや、この話は置いておいて、あの声の正体は一体誰なの?
もしかしてあの手紙を書いた人と同一人物?
ああでも、問題はそこじゃない。あの声の言うことは、確実に現実になる。
私が誘拐される前日の夜もこの声がして、知らない人について行くなとその声に言われたのだけど、私がちょーっとばかり思い違いをして誘拐されたのよね。
じゃあ、今回の声は?この声は、私に力を隠せと言っていた。
というかこの声って、神の声なんじゃないだろうか?あの声は、地球に存在するものじゃない。地球上のすべての言語を把握している私が言うのだから、間違いない。
なのに不思議と、私はその言葉が最初から理解できた。それにあの声を聞くと、なんだか落ち着くような感じがするのよね。
私って一度聞いただけで初めての言語でもわかる天才だった…?それが力?
…神の力で理解できたって考えるのが妥当だったわ。だって私は平凡な女の子だもの!
それなら力って?魔力、神聖力、属性、腕力(?)、前世の記憶、魅力、権力…この中のどれかかな?
まあとりあえず、力を隠せってことだよね!
ふふっ、神もどき様!見ててくださいね!ちゃーんと隠し通してみせますよ!
そう心のなかで、どこかで見ているかもしれない声の主に宣言したのだけど、なぜだか大きなため息が聞こえた気がした。…きっと気のせいだわ。
コンコン
「お嬢様、お目覚めでしょうか。朝食のお時間でございます」
そうノックをして声をかけてきたのは、メイドのエリーだった。
「うん、いまおきたわ。はいってきて」
「失礼します」
そう言ってエリーは私の部屋の中に入ると、すぐさまこちらへ来て私の身支度を始める。
最初はお世話されることに慣れなかったけど、今ではすっかり馴染んでいた。
私は身動きが楽なドレスを着て、家族のいる食堂へ向かった。
そういえば今日は、王太子殿下に会うために王城へ行くのだった。
あぁ、またあの窮屈なドレスを着なきゃいけないの…?別にいいじゃない、着なくたって。
どうせ誰も気にしないわ。
けどそのことで家のことを悪く言われるのは嫌だから、大人しくしていることにする。
正直に言って、私は既に家族大好きっ子になっている。
そりゃあ、あんなに毎日可愛がられてしまっては、ならない可能性のほうが少ないと思う。
家族といえばお父様の母親、つまり私のお祖母様は前国王の妹だ。
だから王太子殿下と私ははとこで、今日会う理由は王太子殿下と私との縁談の話がでているのだろう。
そうでなくても、私との親交があって損はないと考えたのだろうけど。
父親は国王の従兄弟で王国唯一の公爵、母親は隣国のアルテス帝国の王女、そして公爵家は以前よりも力を持ちはじめた。
縁談の話がでないほうがおかしい。
でも、私はこの縁談を今すぐにでも断ってしまいたい。王妃になるなんて、絶対に大変だ。
けれどここで公爵家が縁談の話を断ってしまうと体裁が悪い。家族には迷惑をかけたくない。
まあ、あのお父様なら簡単には私を手放そうとしないんじゃないかしら。
そのことが嬉しくて、少し頬が緩んでしまった。
この話を嬉しく思えるなんて、私は本当に家族に心酔してしまったわね。
それも悪くないと思えるのは、私が心酔しているという確実な証拠なのではないだろうか。