気の合う仲間2
魔力とは、この世界の人間が必ず生まれながらに持つエネルギーのようなもの。この世界の人は、魔力を使って魔法を操る。
生まれながらに持つ魔力の量は違っても、魔力で魔法を使えば使うほど、一度に保有出来る魔力は増える。
保有する魔力を使い切っても目眩がするくらいで、休んだら回復するらしい。
けれど一度に保有できる量が増えるとしても、人それぞれに限度がある。
その魔力を保有できる限度を、人は魔力保有限度値と呼び、人それぞれの魔力保有量と魔力保有限度値は、とある道具で鑑定することが出来る。
この世界には「土」、「風」、「水」、「火」の4つの魔法属性があり、人はそれぞれ生まれつきの使える属性しか使えない。
この世界の人間の殆どが1属性しか使えないけれど、4つの属性が使える人も200年に一度は生まれるらしい。
これらが私の知っている魔力についての情報。
私は公爵邸の書庫の本をもとに、ある程度の魔法は使えるようになっている。
そして気づいたのだけど、どうやら私はその200年に一度は生まれる4つの属性が使える一人だそう。
ほとんどの人はこのことを「チートだ!」と、喜んでいたかもしれないけれど、残念ながら私はその部類に入らない。
私の目標は、楽しく自由に生きることなのだ。
それなのに私が4つの属性を使えることが知られれば、楽しく自由に生きる目標は叶わなくなる。
しかも悲しいことに、この王国の全国民が5歳になれば魔力保有量、魔力保有限度値、属性を鑑定しなければいけない義務があり、侯爵家以上の家柄を持つ子供は公の場で鑑定しないといけない決まりなのだ。
…理不尽な決まりだわ。
そのことがわかっていても、私は5歳まで「風」属性と「水」属性しか使えないフリをすることにする。
これは理不尽な決まりへの私の意地だ。
…あっ、いけない!最初の授業はちゃんと集中すると決めていたのに!
今私は、フォード先生から授業についての説明を受けていたのだった。
「公爵様から、あなたは既に魔法が使えると聞いています。見せてもらえますか?」
あ、危なかった…いつの間にか授業についての説明は終わっていたみたい。後少し我に返るのが遅かったら、フォード先生からの質問を無視することになっていたかも。
フォード先生、ごめんなさい…せっかく説明してくれいていたのに、全く聞いていなかったわ。
内心冷や汗をかきながらも、私は頷いて、今私が使える最大限の魔法、水属性を使う幻影を見せてみた。
水の反射の摂理を使って、ないものをあるように見せる魔法だ。逆に、あるものをないように見せることも出来る。
私は幻影で、森の風景を周囲に映し出した。
そこで少し魔が差した私は、水を動物の形にしたものも加えてみる。
「フォードせんせー、どうですか?」
「………」
あれ、聞こえなかったのかな?フォード先生、見た目の割に年をとっているのね。年齢は聞かないようにしておかないと。
って、ん?フォード先生、お化けでもを見たような顔をしているわ。よく見たらレイ兄様も同じ顔をしているじゃない。
この魔法、レベルが低すぎたのかな…でも私、これ以上難しい魔法は知らないのよね。
6歳になるまで公爵邸から出ちゃいけないから、この書庫にある本しか読めないもの…
…
あぁぁぁ!私、今の自分が3歳なのを完っ全に忘れていたわ!
本の説明文にこの魔法には繊細な技術がいるって書いてあったから、この魔法が大人にとっては簡単でも、3歳の子供が魔法を使っているのだから驚いて当然だわ!しかも無詠唱で!
魔法を発動するにはまず、自分の魔力を使いたい魔法の属性に変えなければいけない。そして使いたい魔法の属性に変えた魔力を、具現化して形にしたものが魔法だ。
けれど魔力を具現化し形にするのは、結構難しいのだ。そこで、詠唱は魔力の具現化を補助してくれる。だから習っていなくても魔法が使える人が多いのだけど、私の場合は無詠唱。
私の精神年齢が18歳だからなのだけど、誰にも言ったことはないし、言うつもりもないから説明できない。
ああ、面倒なことになってしまったわ…
元から私は神童とか天才とか天使だとかの噂が広がってるのに、このことが知られたらさらに噂が…
で、でも
「十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人」
って言うじゃない?
「ふぉ、フォードせんせー、わたし、とーってもきようだから、なんかいかれんしゅうしたら、できるようになったのよ…」
「…な、何回かの練習だけでこの魔法を!?
これは器用だという理由で説明できることじゃないですよ!
こんな完璧な幻影魔法は初めて見ました!これが幻影だと見破れる人なんて絶対に現れないです!」
わあ、フォード先生ってこんなに喋るんですね。
って、そうじゃなかったわ。うーん、どうにかして誤魔化せるかな…?
最悪の場合、脅…いや、口止めしなければいけなくなる。
「…えっと、こまかいいろにちゅーいをはらっていてですね、なによりじゅーよーなのが…」
「「いかに早くできるか」なんです…え?」
私の言葉が誰かの言葉と被った気がして、無意識にうつむいていた顔をあげると、目をキラキラと輝かせているフォード先生がいた。
正直に言おう。大人のフォード先生がそんな顔をしていると、ちょっと気持ち悪い。
うん、ほんとごめんなさい。
だけど口には出してないから大丈夫なはずだ。
「やっと、やっと僕の気持ちを理解してくれる人が現れた!まさか三歳の女の子だとは思っていませんでしたけど!」
と言って、フォード先生がソファーから立ち上がり、向かい側に座る私に近づき両手で私の手を握ってきた。
う、うーん?とりあえず、フォード先生と仲良くなるのには成功したみたい…?
そして今度はようやく我に返ったのか、レイ兄様がハッとして私の手からフォード先生の手を振り払った。
「勝手にアイシャに触らないでください」
と、レイ兄様がまたもやフォード先生を睨んだけれど、フォード先生は己の世界に入ってしまったのか、全く気づいていない。
「あぁ、今までこの考えを知り合い全員に熱弁したにも関わらず!誰にも理解してくれなかったのに!やっと気の合う仲間が出来ました!」
「…えーと?フォードせんせーのまわりには、かわったひとしかいなかったんですね!」
「…2人がおかしいだけだと思うよ」
「前言撤回させてください!アイシャーナ様、どうか私と教師としてではなく魔法仲間になってくれませんか!」
と、フォード先生が告白をするような勢いで私の前に跪いて、己の手を差し出してきたので、私には手を取らないという選択肢が残っていなかった。
こんなカオスな状況にはなったけれど、今日の授業では気の合う魔法仲間が出来たのだった。
フォード先生、教えることに向いてないですね。