気の合う仲間1
「わざわざおこしいただいてありがとうございます、セス・フォードさま。わたしがアイシャーナ・ウィステリアです。私のことはアイシャーナとよんでください。これからよろしくおねがいします」
私はそう言って、先生に教えてもらった淑女のお辞儀をし、外向き用の笑みを浮かべた。
「……」
けれど相手は、黄緑色の瞳を見開いて黙ってしまった。
あれ?黙っちゃった…私何か間違えちゃったかな?
うーん、よくわからないけど、続けちゃっていいよね?
「そして、こちらがわたしのあにです。きょうのじゅぎょうにだけつきそってもらうことになりました」
「……」
あ、あれ?レイ兄様?挨拶は?
よく見てみると、レイ兄様がセス・フォード様を睨みつけていた。
2人共、どうしたのだろう。
セス・フォード様とは初対面だからよく知らないけど、
少なくともレイ兄様は、公爵令息としていつも最低限の礼儀は守っていたはず。
それに、レイ兄様は優しいのだ。滅多に怒らないし、怒っていても顔には出さない。
うーん…と、私が考え込んでいると、黙ってしまっていたセス・フォード様が口を開いた。
「黙ってしまい申し訳ありません。既に御存知の通り、僕はセス・フォードと申します。三歳でこんなにご立派だったので、感心していたのです」
「まあ、ありがとうございます」
わあ!初対面の方に褒められたわ!
そんなふうに私が喜んでいると、
「アイシャなのだから当然でしょう」
と、レイ兄様が皮肉げに言うものだから、完全に場の雰囲気は最悪だ。
本当に、レイ兄様はどうしてしまったのだろう。
「…あはは、すみません。ふだんのあにはこんなふうではないのですが…どうやらつかれているようです」
私はそうレイ兄様を庇って、セス・フォード様を公爵邸の中へ案内した。
場は最悪な雰囲気だ。でも、私の心中は物凄くご機嫌だから、いいのである。
やった、やったー!やっと人から魔法が学べる!
公爵邸にある魔法についての本は全部読み尽くしたけど、人から学ぶのとは天と地との差だもの!
必殺の顔で毎日お父様にお願いした甲斐があったわ!
それに、あのセス・フォード様に魔法を教えてもらえるなんて!なんて私は恵まれているの!?
私が今住んでいる国、ライオール王国には、2つの魔術師団がある。
1つの魔術師団は貴族派で、もう1つの魔術師団は平民派だ。
平民派の魔術師団とはいっても、没落した貴族や、貴族派の魔術師団に受け入れてもらえなかった貴族の魔術師なども入ることもある。
そして平民派の魔術師団、フォード魔術師団の団長が、これから私に魔法を教えてくれるセス・フォード様なのだ。
セス・フォード様は元平民で、その優れた魔法の才能で魔術師団団長まで上り詰めて、今は伯爵位を持っている。
それが貴族を団に受け入れてるのにも関わらず、フォード魔術師団が平民派と言われている理由だ。
有名な話だけれどセス・フォード様は、滅多に魔法を人に教えないらしく、女性にも全く興味がないらしい。
だから、私はそのセス・フォード様に教えてもらえるのだから、物凄くラッキーガールなのだ。
私はセス・フォード様を邸の書庫まで案内して、書庫内にあるソファに座ってもらった。
「こちらはこうしゃくていのしょこです。
まほうのじゅぎょうをするのなら、しりょうがたくさんあったほうがやりやすいとおもったので」
「はい。ご配慮いただき感謝します。それでは、授業を始めましょうか」
少しぎこちない気がする。よし、こういう時は積極的に接するのが一番だ。
「よろしくおねがいします。ところで、フォードせんせーとよんでもいいですか?」
私がそう言うと、彼は少し驚いた顔をしたけれど、少ししたらまた無表情に戻ってしまった。今日会ったときからずっと、彼は無表情だ。
「大丈夫です。それと、僕は元平民ですが、今からはあなたの教師。僕はあなたを公爵令嬢としではなく、生徒として扱うつもりなので、そのつもりでいてください」
「はい!このアイシャーナ・ウィステリア、しょうちいたしました、フォードせんせー!」
はっ、しまった!フォード先生と少し距離が縮んだ気がして嬉しくなって、公爵令嬢としての品格を忘れていたわ!
あ!でも、フォード先生も私を生徒として扱うって言ってたのだし、私も生徒として振る舞ったのだから、理にかなってる!
「…アイシャ、それでは生徒と教師じゃなくて、部下と上司に見えるよ」
と、私の思考を読むようにレイ兄様が言うから、
もう!また雰囲気を壊すようなことを言うんだから!
と言いたくなったけれど、フォード先生も同じ意見だというように頷いていたから、もしかしたら雰囲気を壊すようなことを言ったのは私なのかもしれない。そう思い至った私は、言わないことにした。
…どっちだって良いじゃないか。
少し不満はあるけれど、とりあえずフォード先生の前では大人しくしていることにする。
私は教師思いの生徒なのだ。