お父様と私の秘密・若さは舐めちゃダメ。絶対。
「ふふふっ、おー花がいちりんっ、ちょーちょが二匹、おーそらのくもさんはゼーロっ♪」
私がルンルンにはしゃいで自慢の自作曲を歌いながら庭を駆け回っていると、少し前から私の様子を見ていたレイ兄様が話しかけてきた。
「ごきげんだね、アイシャ」
「あっ、レイにーさま!」
私は声がしたほうに振り向いてレイ兄様を見つけると、ご機嫌な私は満面の笑みを浮かべてみせた。
すると、レイ兄様は何故かぴしり、と一瞬固まって、すぐに顔をこわばらせた。
そして
「…アイシャ、絶対にその笑顔を僕たち以外の人に見せたらダメだからね」
と、神妙な顔をしたレイ兄様に釘を差された。
ああ!
なるほど、理解したわ。つまりレイ兄様は、私の淑女あるまじき表情を見て、私の淑女教育が進んでいないことに不安を抱いたのね!
「だいじょーぶよ、レイにーさま!わたしね、せんせーに『すでに立派な淑女ですね』ってほめられたのよ!
だからしんぱいしないで。わたしのできがわるいわけでも、せんせーのおしえがわるいわけでもないわ!
わたしがこころからえがおでわらうのは、こーしゃく家のひとにだけなのよ」
私はレイ兄様の不安を取ってあげようとしたのだけど、どうやら失敗したみたいだ。
今のレイ兄様は、さっきよりも不安そうな顔をしている。
「…そういうとこだよ、アイシャ。はぁ…信者が倍以上に増える未来しか見えないよ」
「?」
私は頑張ってその言葉の意味を考えたのだけど、どうやら私の知らない言葉の使い方をしているらしい。
たくさんの本を読んだ私にもわからない言葉の使い方を知っているなんて、レイ兄様は一体どれだけ本を読んだの?
やっぱりレイ兄様はすごいのね!
そう感心していると、レイ兄様はいつの間にか私の顔をのぞいていて、顔が近くにあった。
「で、アイシャ。今朝からアイシャがごきげんな理由を聞いても良い?」
「あっ!そうだわ!聞いてレイにーさま!じつはね、きょうはわたしにまほうをおしえてくれるひとが、おうちにくるのよ!…あっ、そういえばこのおはなしはレイにーさまにはひみつなんだったわ。…ごめんなさい、レイにーさま。
わたしがうかつで、はなしてしまったわ。ほんとうにごめんなさい…」
私に魔法の教師がつくことが決まったとき、お父様は私に
「いいかい、アイシャ。レイモンドにこのことは秘密だからね。あの子にはまだ魔法の先生をつけていないから、アイシャを羨ましがったり、傷ついたりするかもしれないからね。」と、話してくれていたのに、私は約束を破ってレイ兄様を傷つけてしまったわ…
と、私がしょんぼりしていると、レイ兄様は私の頭をぽんぽんと撫でた。
「どうしてそんなにしょんぼりているのかはわからないけど、大丈夫だよ、アイシャ。謝るのも大切なことだけど、今回の件で謝るべきなのは父上のほうだ」
レイ兄様はそう言って、にっこり笑ってくれた。
うぅっ、内心傷ついているはずなのに、逆に私を慰めてくれるなんて…優しすぎるわ、レイ兄様。
「…ありがとう、レイにーさま。だけど、おとーさまはわるくないのよ?おとーさまはレイにーさまがきずつかないようにしただけだもの」
私がそう言うとレイ兄様が黙り込んでしまったので、どうしたの?と、聞くと
「…いいや、幼い子供を騙す悪い大人をどうやって懲らしめようかと考えていたんだ」
と、満面な笑みの裏に怒りを混ぜて笑うので、私は、
まあ、その大人は優しいレイ兄様を怒らせるほどの悪いことをしたのね、と呑気に思っていた。
実は、レイ兄様は幼い子供の私に魔法を習わせることに反対していて、
レイ兄様は、私のお願いに負けて魔法を習うことを許可した挙げ句、私に嘘をついたお父様に内心怒っていたのだけれど、私がこの先このことを知ることはない。
今の私は3歳で、言葉は前よりかはハッキリ話せるようになっていた。
もうこの暮らしには完全に慣れて、家族で楽しく毎日を過ごしているし、
公爵令嬢としての私への教育は少し前から始まっていて量は多いけれど、内容はあまり難しくはないから充実した日々を送っている。
ここ三年で私が一番ビックリしたことは、家族以外のみんなも私のことを天使と呼ぶようになったことだ。
私は、容姿がひどすぎて7歳の頃に二回も誘拐されたことがある。
そんな私に佐藤さんは「誘拐されたくなければ、自分の容姿を隠しなさい」と言い、その後私は前髪や化粧で自分の顔を毎日隠していた。女将に素顔を見せた時は、何故隠しているのかと聞かれたが、私に自信をつけさせようとでもしてくれていたのだろうか。
まあそんなことで、私の容姿はひどいはずなのだけど、公爵家の皆は私を「可愛い」やら「天使」などと言ってくれる。最初は気を使ってくれているだけだと思っていたのだけど、そんな様子が全くないから、三歳の私の容姿は酷くはないのかもしれない。
たった4歳の差でも、年の若さを舐めてはいけないのだと、私は初めて学んだのだった。