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心配事

更新が遅れてしまい申し訳ありません!

公爵邸を出発してしばらく経ち、それまで揺れていた馬車が止まった。どうやら到着したらしい。


エドが先に降り、私もそれに続いて手を借りながら降りると、近くに立っていた男性の神官らしき人が待機場所まで案内してくれた。


鑑定式は神殿で行われる。侯爵家以上の身分を持つ子供は、誰でも結果が見られるよう公の場で鑑定しなければならない。


そして、今年に公の場で鑑定する子供は私を含めて3人。その中でも私の身分が一番高いことから、私が一番初めに鑑定を受けることになっている。


「うぅ、少し心配になってきたわ…」


「え、今更?」


エドが今更かと聞くのも無理はない。なぜなら、出番まで5分を切っているから。けれども、私は別に鑑定の結果のことで心配になっているわけではないのだ。図太い私は、これくらいで怖じけるような人間じゃない。


「ええ、今更なのよ。だって今、とっても重要なことを思い出してしまったの」


「…」


極めて重要な内容だと思わせるために、深刻な顔を浮かべる。思えば、この顔をするのは今日で2回目だ。


「…さっきは深刻すぎることだったから、今度はどうでもいいことな気がしてきたのだけど、僕の予想は合ってる?」


むむむ、とても重要なことだと言っているのに、どうして私はこんなに信用がないのかしら? うーん、でも、私の問題は王家の問題とほぼ同等だから、王太子のエドにとってどうでもいいことではないはずよ。


「えっと、残念ながら間違っているわね。これは私の自由に関することだもの!」


勢いよく叫ぶと、エドは怪訝そうに顔を歪める。


「…自由? どんな結果であってもアイシャは僕の婚約者なのだし、今とそれ程変わらないと思うと思うけど?」 


「違うわエド、肝心なことを忘れてる。知ってるとは思うけど、私は公の場に出たことがないの。だから、そういうことなのよ」


「……そういうことって? まさか、大勢の前に出るのは初めてだから緊張するってこと?」


「えっ? そんなわけないじゃない」


どうしてそんな話になるのかしらね? まあいいわ、きっと私の説明が足りなかったのよ。


「私は今まで公の場に出たことがない…つまり、今まで私の顔を知っている人は少なかったの。それなのに! 今日は大勢の人が私の顔を知ることになるわ!」


「…そうだね? でもどうしてそれで君が心配になるのか……えっ、そういうこと?」


ようやく私の言いたいことが理解できたのか、エドは驚いたように声を上げた。


「そう! お忍びで外に出るのが難しくなってしまうのよ! 例え変装したとしても、メイエド団長のように洞察力の高い人に気づかれてしまうわ!」


「いやアイシャ、心配するところがズレてる。まあそれが君なのだけど…というか、メイエド伯爵の洞察力が高いだって? 嘘だろう?」


「まさか! 嘘なわけがないじゃない。あの人、私の変装を見抜いたのよ」


魔術師団を見学しに行った時、メイエド団長は私の素顔が酷いってことを言い当てたんだもの。洞察力が高いからと説明する以外、何があるというの?


「…確か、魔術師団の入団試験に身分を隠して見学に行ったのだったね。ついでに決闘をしてきたと聞いたけど…その原因の一つは確か、君が公爵令嬢だと気づけなかったからじゃなかった? 洞察力が高いのなら気づくんじゃないかな?」


「うーん? でも、メイエド団長は会ってすぐに私の素顔が醜いことに気づいたわ」


「…どういうこと? あいつが君のことを醜いって言ったの? ちょっと待ってて、今すぐ消してくるから」


随分と大袈裟ね? 事実を言われただけなのに。


私を慰めるための冗談かと思ったものの、今にでもメイエド団長の所へ向かいそうなエドの勢いを見て、冗談だとは思えなくなった。


んまあ、エドが私のお父様から悪い影響を受けてしまっているわよ。どうしてくれるのかしら、お父様。


「エド、私は全く気にしていないわ! だから何も――」


「お話の最中申し訳ありません。ウィステリア公爵令嬢、時間になりましたので祭壇の上へ」


「あっ、えっ、ええ。わかったわ」


突然神官に話しかけられ、私は動揺しながらも返事をすると、ちらりとエドを見やる。


まずい。何もしないよう釘を刺しておこうとしたのに、時間が来てしまった。


「…王太子殿下、わかっておられますわよね?」

(絶対に何もしないでね!)


「ああもちろん。任せておいてよ」


ああああ、笑顔が黒いわ! エドの黒い笑顔は絶対に気をつけたほうが良いのに!

…うぅ、ごめんなさい、メイエド団長。今の私ではエドを止められないわ。確かにあなたは悪かったけれど、私も少しやりすぎたと反省していたのよ。


エドが私に同行したのは、同じ年頃の友達がいれば私が安心できるだろうという配慮からだったのだが、結局彼は私の心配事を増やしただけだった。


ああ、今日も平穏には終わらないかもしれないわ…

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