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お茶会1

ついにやって来た初めてのお茶会。エドに贈ってもらったドレスで着飾り、指定された場所へ着くと想像以上に賑やかだった。


 まあ、みんな緊張していると思っていたのだけど、そうでもないみたい。考えてみれば、エドと同じ年頃の子供しか招かれていないのだから賑やかなのも当然の話だったわ。


場を把握するために周りを見渡すと、いくつものスイーツが並んでいるのが目に入った。その中にシュランのケーキがあるのを確認した私の頭の中に、「交流を広げる」という考えはもうない。


最初に何を食べようか、と悩んでいると、場の雰囲気が少し変わった。不審に思って様子をうかがってみると、王妃様とエドが入場したからだったようだ。


他のお茶会ならば私はエドのパートナーとして一緒に入場しなければいけない。けれどこのお茶会は将来に役立つよう人脈作りをするために設けられている場で、婚約者の私が一緒に入場すれば交流の邪魔になるだけなのだ。


「みんな来てくれてありがとう。楽しんでいってくれると嬉しいわ」


王妃様がニッコリと笑って言えば、先程まで賑やかだったその場は完全に静まり返った。


 すごい…こんなに短い言葉でも場を制御出来るだなんて――と感心はするも、初対面の時と現在の印象が異なりすぎて戸惑ってしまう。


 お父様は…ああ確か、王妃様はかなりの乙女思考を持ち合わせていると言っていたわね…つまり、あの時ののほほんとした王妃様が本当の姿なのね。ここまで素の姿と印象を変えることが出来るなんて、エドもそうだけど、流石だとしか言いようがないわ。


もちろん王太子の婚約者として参加している私にそんな思考を表情に出すことは許されないから、あくまでも頭の中で思考しているだけで、表では令嬢モードに徹している。


そんな私を見て何を思ったのか、目の前にいるエドが感情を読ませない表情でこちらをじっと見詰めてきていた。何かあるならハッキリと言って欲しい、と王妃様が話している最中に言うことも出来ず、もどかしながらも沈黙を貫く。


すると丁度、王妃様の話に区切りがついた頃に慣れた様子のエドが口を開く。


「今日は僕の誕生日でもあるけれど、付き合いを広げるための場でもある。僕に囚われずに過ごしてほしい」


そう言ってエドが王子様スマイルを顔に貼り付ければ、その笑顔にやられた令嬢たちはうっとりと頬を染めている。あまり容姿の良し悪しはわからないけれど、大半の人がエドの容姿を高く評価しているから、きっとエドの顔立ちは綺麗という部類に入るのだろう。


公爵邸の全員は私のほうが断然美しい、と言うもので、未だに真偽は知らないが。


 …こんなに数多くの令嬢を魅了するなんて、人たらしのスキルでも兼ね備えているのかしらね。


そう思えるほど、エドと挨拶を交わすために並ぶ令嬢が多すぎるのだ。これは大変ねぇ、と他人事に考えていたけれど、私も振り向いてみれば大勢の令息が並んでいてそれどころではなくなる。


 ああやっぱり、王太子の婚約者になんてなるんじゃなかった!未来の王妃がそんなに魅力的なの!?あの状況下で婚約を断れていたら断っていたわよ…断れない状況にしたのはお父様だわ…いえ、こういう時こそ婚約者という立場を利用すべきよ。申し訳ないけどエドの名前を使わせてもらうわ。


「あの、令嬢!お名前を伺ってもいいですか?」


大勢の列の先頭に並んでいる令息が意を決したように声をかけてきて、どうやらその後ろに並んでいる令息達も同じことを聞こうとしていたようで、期待したように私の返答を待っている。


「…はい?」


 誰だか知っていて私に声をかけてきたのではないの?それともこれは『権力には興味ありませんアピール』なのかしら?ああ、ここで令嬢モードを崩さなかった私を褒めてほしいわ。


「…初めまして、ウィステリア家の娘、アイシャーナ・ウィステリアですわ」


「アイシャーナ・ウィステリア?どこかで聞いたような…って、ああ!?ウィステリア公爵令嬢!?」


そう言った令息は本気で驚いているようで、とても演技には見えない。


「?ええ、そうですわね。知っていて私に声をかけてくださったのでは?」


「と、ととととんでもない! し、失礼しましたー! 」


その令息を初めに、他の令息も皆そそくさと去って行ってしまった。


「…ええ? 一体何が起きたの?」


状況が把握できずに呆然と突っ立っていると、ぽんと後ろから肩を叩かれる。


「はい、アイシャ。シュランのケーキがもう無くなりそうだったから取ってきたよ」


「えっ、そうだったの?ありがとう」


振り向くとそこには片手にケーキのお皿を持ったエドがいた。


 ありがたいのは確かなのだけど、エドが持ってくる必要はあったのかしらね。これだと私が王太子に給仕のような真似をさせているなんて思われてしまうかもしれないじゃない。


などと考えていると、エドはそんな私を見て不思議そうに首を傾げた。


「いつもなら飛びついてきそうなのに今回は反応が薄いね? あの令息たちを気にしているのなら心配いらないよ? 」


あれ、何か知っているような言い方ね。


「さてはエドが原因なのね? 何をしたら私があんなふうに逃げられるのよ 」


私がジト目で見つめてみても、エドが動じる様子は全く無い。


「さあ?恐れ多くなったんじゃないかな?」


そう言ったエドは、今までに見たことのない程の黒い笑顔を浮かべていた。


…裏がありそうね。


何をしたのかはとても気になるけれど、今日はエドの誕生日で、感情を取り戻しているのも喜ばしいことだから、私はこれ以上言及をしないでおくことにした。

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