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入団試験

「あ、あはは、道を間違えていたみたいですね…じゃあ訓練場に―」


向かいましょう、と言おうとした言葉はフォード先生に遮られてしまった。


「部下にああ言われてしまったので今更行き先を変更することは出来ませんよ」


確かにあんなキラキラな笑顔で喜ばれてしまっては、裏切りづらいわね…


「うっ…で、ではこの先には何があるのですか…?」


私が勘違いをしていたとはいえ、あんなにも矢印があったのだから重要な場所のはず。


「ああ、それは―」


そして案の定、私のその予想は正しかった。


少し湿気のある外へ出ると、通っていてかつ力強い低い声が響く。


「これより魔術師団入団試験を開始する!!」


…なるほど、今日は入団試験がある日だったのね。矢印がたくさんあったのも納得がいくわ。

って、あら?入団試験?それって訓練場を見学するのとあまり大差ないのではないかしら。


むしろ色々な魔術師と出会えるのだから、こっちを見学するほうが得をするじゃない!やっぱり私は運が良いわ!


うふふふふと笑っていると、フォード先生に奇妙なものを見るような目で見詰められてしまったから、私は仕方なく令嬢モードに入ることにした。ああいや、今はフォード先生の親戚だという設定なのだから、普通の町娘になりきらなくては。


「とーっても素敵だわ!」


「……見ていて楽しいことは起こらないと思いますよ」


そう言ったフォード先生は、嫌な記憶を思い出したかのように顔をしかめていて、以前に面白くない出来事があったのだろうと予想できる。


「楽しくなるように頑張るのがおじさんの役目でしょう?」


私のその言葉に、フォード先生は驚いたように目を見張った。


「…!はい、そうですね。僕の出来る限りを尽くします」


よかった、それでこそフォード先生だわ。

いくら失敗しても諦めずに努力する。それが、今まで私が見てきたフォード先生なのだから。


先生のこの様子だと、今日も同じ出来事が起こる可能性があるのだろう。

今日の見学は楽しいだけでは終わらなさそうだ。私の勘がそう言っている。


運が良くても対価は必要、ってことね…


そう思っていると、先程フォード先生に話しかけていた先生の部下らしき人が立っているのが目に入った。


そういえばあの人、今年は人が多いから団長の手伝いがあると助かると言っていたわ…


「おじさん、行ってきていいですよ」


「えっ? しかしシアナが…」


ああやっぱり、先生は手伝いに行きたかったのね。だけど私が居るから気を使ってくれていたんだわ。


「私は大丈夫です。なんて言ったって私は先生の教え子なんですからね!」


心配させないように明るく言ったのだけど、先生は首を縦に振らない。


「それでも、今日の私はあなたの保護者として守っている必要がありますから」


流石フォード先生、責任感の強い人ですね。でも、少しは自分の意志も尊重するべきですよ。

この方法は使いたくなかったのけど、仕方ない…


「…セス・フォード、彼らを手伝いに行き、問題のない完璧な入団試験を私に見せなさい。これは命令です。否とは言わせません」


私の纏う雰囲気が変わったのがわかったのだろう。先生は顔を強張らせたけれど、すぐに私に対して最敬礼の態勢をとった。


「承知いたしました」


そう、私は今、ウィステリア公爵令嬢として、そして未来の王太子妃として命令した。その命令にフォード先生が断る術は無い。強引なのは理解しているけれど、頑なになった先生は説得しても無駄になることを私は知っている。


そうしてフォード先生が彼らと合流したのを確認すると、いつの間にか私が注目を浴びてしまっていることに気づいた。


あ、やってしまった。

魔術師団団長のフォード先生に最敬礼をさせた私が注目を浴びるのも無理はないわ…

どうしよう、このままだと正体がバレて、お父様との約束を破ってしまう。そうなったら今後、私の外出許可が出るのがまた難しくなる…


そう考えた私は、演技をすることにした。


「わあ! やっぱりこの『主人と魔術師のおままごと』は楽しいわ!」


私のその言葉に、一瞬で静かだったその場は騒がしくなった。


「だ、だよな! ままごとだよな! あのパッとしない子がフォード団長よりも身分が上なわけがなかった!」


「ああ! あの子が例の公爵令嬢なはずがないわな!」


ギクッ


あ、危なかった…やっぱり公爵令嬢かもしれないと思われていたのね…

でも()の公爵令嬢って何かしら?私に関して変な噂でも流れているの?


とりあえず、私に演技の実力があって助かったわ……今まではいらないものだと思っていたのにね。


すると、もう一度最初に聞こえた声が響いた。


「各自は伝えてある番号の札を持った試験監督の下に行くように!」


「なあなあ、あれドラゴンの英雄じゃないか!?」


「なっ、嘘だろ!?」


どうやらフォード先生は予想よりも人気が高いらしく、彼の姿を見た人はほぼ全員大喜びしている。


私の先生は本当に人気者ね! 人気者の教え子なんて、確かに変な噂が流れるのも納得だわ!



今年の入団試験は、まだまだ始まったばかりである。

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