矢印の導き
章「出会い」を「初めての場所」に変更致しました。
とある部屋へ着くと、そこには妙に派手な格好をした20代くらいの男性がいた。
「なんだあ? このブサイクなガキは」
ブサイク…?この人今、私にブサイクって言ったの?
「な…な…!」
「はっ、さては正論過ぎて言い返せないか。ま、この天下のヘインツ様にお前みたいな底辺中の底辺が言い返せるわけ―」
「なんでわかったんですか!?」
「…は?」
変装してるのに私の素顔が醜いってことを見抜くなんて!
「今まで私の素顔を見抜ける人は居なかったのに!」
この人の洞察力はずば抜けて高いわ!
「……今までのシアナの周りには無礼な者が居なかったのですね。というか、子供にまでそんな態度は流石にどうかと思うぞ、ヘインツ・メイエド」
シアナとは、ここに来るまでにフォード先生と考えて決めた私の偽名である。私がアイシャーナと呼ばれているところを誰かに聞かれたら、公爵令嬢だとバレかねないからだ。
ヘインツ・メイエド…?あ!もう一人の魔術師団長か!団長なら洞察力が高いのも納得ね!
「なっ、お前ら、この俺様を馬鹿にしているのか!?」
まあ、私が魔術師団長様を?そんな事あるわけがないじゃないですか。
おっと、挨拶がまだだったから馬鹿にされたのかと思ったのかもしれないわね。
「ごあいさつが遅れて申し訳ありません、メイエド魔術師団長様。セス・フォード様の遠い親せきのシアナと申します」
「誰も平民風情のお前のことなんか聞いていないぞ! 臭い平民等とこれ以上関わったらその臭い匂いが俺様まで移っちまう。さっさと出ていけ!」
と言われて私達は部屋を追い出されてしまった。
…えっ? ここってフォード先生の部屋じゃなかったっけ?
「猫かぶりと猫かぶり…いや、片方は猫をかぶっていないな…」
助けを求めてフォード先生を見やると、なんだかねこねこと言っていて頼りにならなさそうだった。
む、どうすればいいのだろうか…うん?
よくよく見れば、矢印が所々にあるではないか。
魔術師は方向音痴の人が多いのかな?だからきっと迷わないために矢印があるのね。
じゃあ矢印をたどれば魔術師達に会えるかもしれないわ!
よーし、行ってみるか!
「おじさん、行きますよ!」
フォード先生の服を掴んで精一杯引っ張ってみると、ようやく今いる場所が部屋の中ではないことに気づいたらしい。周りをキョロキョロと見渡している。
フォード先生の教え子は私しかいないから、先生って呼んだら公爵令嬢だとバレてしまうかも入れないもの。
だからおじさんって呼んでも許してくださいね、フォード先生。
「はいっ? あい…シアナ、一体どこへ向かっているのでしょうか!?」
「矢印の方向です!」
「え!?そっちは訓練場では―」
「あっ、団長! 手伝ってくれるんですか?助かります!今年は予想よりも多くて!」
「はっ? あ、いや違っ―」
「団長が居たらすぐに終わること間違いなしです!僕たちのことを考えてくださってありがとうございます!」
「‥………えぇ」
同じ方向へ向かっていた小柄な男性がフォード先生に話しかけていた。どうやら部下のようだ。
やっぱり魔術師さん達はこっちの方向にいるのね?矢印の導きってすごいわ!
「えっと、こちらの方は…?」
「こんにちは! 親せきのシアナです!今日は見学に来たのでよろしくお願いします!」
「団長の親戚の子だったんですね! って、すみません!遅れそうなので先に行っていますね!」
そうしてそのフォード先生の部下らしき人は走り去って行ってしまった。
わあ、一瞬で静かになったわ。
「私たちも早く行きましょう!」
私がそう言って歩を早めると、フォード先生も大人しく付いてきてくれた。
「はあ、こっちに行く予定は無かったんですが…仕方ないですね」
うん?フォード先生は何を言っているのかしら?こっちに行かなきゃどこに行くのよ…
まさか私が公爵令嬢だから、訓練場は危ないと言って見せないつもりだった…?
まあっ、危うく訓練が見れなくなるところだったわ!ありがとう矢印さん!あなたは私の恩人よ!
「おじさん、元々私に魔術師団の人達が訓練しているところを見せる気は無かったんですね!?」
「いえ、あなたが見たいと言うなら見せるつもりでしたよ」
え? ならフォード先生は私に何を見せないつもりだったのかしら?
フォード先生は私の言いたいことがわかったようで、こう続けた。
「確かに魔術師団の訓練を見学するのは危険ですが…あなたほどの実力を持っていれば心配はいらないと考えていたんです」
でも確かにフォード先生は「こっちに行く予定は無かった」と言っていたわよね?
今私達が向かっている所も訓練場なのだから、矛盾していないかしら?
「何やら勘違いをしておられるようですが、今私達が向かっているのは訓練場ではありませんよ」
「…へ?」
どうやら私は、そもそも最初から間違っていたらしい。矢印の導きを信じるべきではなかったみたいだ。




