戻ってきた愛菜テクニック
「お父さま、おねがい!」
「だっ、ダメだ!絶対に変な虫が寄り付くに決まっている!」
「虫?虫の嫌いなにおいなら知っているわ!」
「そっちの虫じゃないんだ!」
うん?虫と言ったら虫しかいないじゃない。お父様は何を言っているのかしら?
そういえば、エリーはよくエドのことを虫って呼んでいるわね。こちらの世界では気に入らない人を虫と呼ぶの?
だったら魔術師団にはお父様の気に入らない人が居るのかしらね?
「じゃあ、身分を明かなければ良いのね?」
「身分は隠してもその容姿じゃ意味ないんじゃ…?」
あ、そっか!私の容姿が酷すぎるから、みんなに除け者にされないか心配しているのね!
「だったらいい方法があるわ!」
「アイシャ、お前の良い方法というのは信用できない」
真顔でそう言うお父様は、冗談を言っているわけでは無いようだ。
まあお父様、なんてことを言うの?私ほどいい案を提案できる人はなかなか居ないはずよ?
でも、見せたほうが早いわね。
◇◇◇
「えっへん!どう?お父さま。久しぶりにやったけど、上手にできたわ!」
私はくるりと回り仕上げ終えた姿をお父様に見せた。
前世では毎日この格好をしていたのだから、私にとってはこのくらい朝飯前よ!
「…久しぶり?慣れた手付きだとは思っていたけど、もしかして今までその変装でこっそり抜け出していたとかではないよな?」
おっと、失言してしまったわ…
「ナ、ナンノコトデショウカネ?」
「…はぁ、嘘が下手なのは誰に似たんだか…」
もっ、もちろん今世でこの姿になるのは初めてなのよ?でも、前世ではいつもこの姿だったって、説明できるわけがないじゃない。
「…大人の事情があるのよ、お父さま」
「お前はいつの間に大人になったのかい」
あら、この見た目からじゃわからないかもしれないけど、もうすぐ精神年齢が20歳を超えるレディーになんて失礼なのかしら。
だけど私は大人だから、その失礼も許してあげるわ。
「それよりお父さま。行ってもいい?ね、いいでしょ??」
使いたくはなかったけど、こうなってしまえば必殺のうるうる攻撃だ。お父様は私のこの顔に弱い。
「さては私がその顔に弱いことを知っていてやっているね?正解だよ、確かに私はアイシャのその顔に弱い。わかったよ、行ってきなさい。だけど、フォード伯爵の側を離れてはいけないからね」
「やった!ありがとお父さま!大好き!」
嬉しくてお父様を勢いよく抱きしめると、抱きしめ返してくれた。
「ああ、私も愛してるよ。気をつけて行ってらっしゃい」
うふふ、やっぱり、家族とのハグは安心して心地良いわ。
「はーい!」
◇◇◇
少し早歩きで庭へ戻ると、そこには何事かを呟いているフォード先生がいた。
まあフォード先生、また新しい魔法を考えているのね。
「フォード先生!お父さまから許可をもらってきたました!」
「…さすがはアイシャーナ様、あの公爵様をも手玉に取っているのですね。失礼ですがその格好は?」
フォード先生は観察力が良いのね。私の変装を見破るなんて!
「かみは魔法で色を変えて、目は伊達メガネをかけているの。身分を伏せるのがお父さまとの条件だったのだけど、私の持っているかみと目の色は目立つでしょう?他にも色々とバレないように工夫しているのよ」
「ああ、確かに得策ですね。色々と群がってきそうですから」
「未来の王妃にきょうみのない人のほうが珍しいものね。私はフォード先生の親せきということでいいですか?」
「…相変わらず話が噛み合っていない気はしますが、アイシャーナ様の言う通り、僕の親戚として行けば公爵令嬢だとはバレないと思います。僕は元平民ですけど親戚は多いので疑われないでしょう」
…ん?何だか私、呆れられた気がするわ。呆れられるようなこと言ったかしら?
「それよりも、本当に良いんですか?団長の僕が言うのもなんですが、騎士団と比べても遜色ないほどむさ苦しい男ばかりですよ」
あら、確かに団長が言ってはいけない言葉だわ。
「もちろんです!色々な魔法をこの目で見てみたいし、何よりフォード先生が指揮している魔術師団の様子が知りたいの!」
それに、転移魔法の手がかりがあるかもしれない。
転生したのには理由がある気がして、色々調べてみたけれど何もわからなかった。だけど魔法に詳しい魔術師なら、転移魔法について知っている人がいるかも知れない。
魔術師に会える方法を考えていたら、真っ先に魔術師団長のフォード先生が思い浮かび、魔術師団を見学したいと頼み込んだ結果今に至る。
「分かりました。では行きましょうか」
おや、どうやらフォード先生は私を魔術師団の見学に連れ行くのは不本意らしい。浮かない表情だ。
「大丈夫です、訓練のじゃまはしません!」
「いえ、訓練の心配はしていません。むしろあなたのほうが心配ですよ、色々な意味で」
あれ?訓練に邪魔が入ることに不満を持っていたのだと思っていたのだけど、私の思い違いだったみたい。
「私のほうこそ大丈夫ですよ、舐められることはありません!なんて言ったって、私はフォード先生の教え子ですからね!」
「独学で持っている属性全ての魔法を扱えていたあなた様が何を言っているんですか…」
「それは公爵邸にたくさんの魔法に関しての本があったからですよ?」
フォード先生は深いため息をつくと、私を馬車へ促した。どうやら飛行魔法では行きたくないらしい。
それよりも、私には人にため息をつかせる才能があるのかしら。
だって、私が発言する度に聞いた人がため息をついている気がするわ。




