親バカ vs 親バカ
あの後、私達は当たり障りのない会話をしていたのだけど、途中で使いの人が呼びに来た。
そして応接室に戻ってきたら、この有様だ。
「どうせ結婚させるのなら、身内とのほうが良いだろう!?それともどこぞの馬の骨と結婚させる気か!?」
どうやら国王陛下は興奮状態のようで、周りの目も気にせずお父様に向かって喚いていた。
「アイシャが結婚するなんて、許すわけがないでしょう」
そんな国王に対し、バッサリと切り捨てるお父様である。
「家族が関わると本当に頑固だな!?昔はそんな性格ではなかったはずであろう!?」
…あー、なんとなく状況が掴めてきた。つまりお父様は、国王陛下からエドと私との婚約の打診をされたのだけど、頑なに首を縦に振らないのね。
…お父様が居る限り、自分の結婚の心配はしなくて良さそうだわ。
「フェリクスは幼いながらに優秀で完璧、さらに容姿もこの儂の美貌を受け継いでおる!まさにキラキラ王子だ!どこに婚約を断る要素がある!?」
「アイシャは天才の中の天才で、天使でもあります。断る要素しかないでしょう」
「だからどこにだ!?それこそ婚約するのに釣り合うだろう!」
「まあっ、女の子のために争うだなんて、なんてロマンチックなのかしら!」
「我が妻よ、違う、そこじゃない!」」
ああ、カオス…私達が呼ばれたのは、この状況を抑えるためだったのね…
でも私もこの婚約は望んでいないのだし、止める理由が見当たらない。
よしっ、静観していよう。
そう思ったのも束の間、即時にお父様が私の存在に気づいてしまった。
「アイシャ!戻ってきていたんだね!何もされていないかい?」
「…はい」
空気を読んでほしかった…
「ん?どうして答えが曖昧なんだい!?もしや本当に何かされたのかい!?」
「えっ、ちがうわ!めんどーだったからせいかんしようとしていたのに、おとーさまがわたしにこえをかけるから!」
「正直だね!?」
まあお父様、私は生まれたときから正直なのですよ。でも、褒められて悪い気はしないし…
「…アイシャ、それは褒められていないからね」
あれっ、またもやエドに思考を読まれてしまったわ。それに、正直なのは良いことなのに、どうして褒めの部類に入らないのかしら?
ああ、エドは4歳だから言葉の理を知らないのね。
「おうたいしでんか、しょーじきなのはいいことなのですよ」
私がそう言うと何故かエドは曖昧な顔をし、国王陛下は何かがつっかえたようで、咳き込んでいる。
うん?あ、そっか。確かに年下の女の子にこんな事言われたら、そんな表情にもなるわ。
国王陛下は…風邪でもひいたのかしらね?
「ごほんっ、アイシャーナよ、息子は気に入ったかい?」
国王陛下は一度咳払いをすると、そう私に問いかけてきた。
そういえば、気楽に接してと言われていたのだったわ。
「はい、おうたいしでんかにはこういんしょうをいだいております。ですが、おうひにはなりたくありません」
最初の言葉に陛下はお父様へ向けて「ほら見ろ」というような視線を送っていたけれど、私の「王妃にはなりたくない」という発言を聞いて「うっ」という、うめき声のようなものを漏らしていた。
そんな国王を横目で見たお父様は、勝ち誇った顔で口を開いた。
「ということで、婚約の話はお断りさせていただきます。話は終わりましたし、私達はこれで―」
「公爵、少し話を聞いてくれないかい?」
お父様は「これで失礼します」と言おうとしていたのだろうけど、エドに引き止められてしまった。
「…なんでしょう?」
ああお父様、早く帰りたいというオーラが滲み出ているわ…
「公爵が公爵令嬢を結婚させたくないと思っていても、現実はうまくいかないんじゃないかな?」
「…どういうことでしょうか」
「令嬢は3歳でこの容姿だ。大量の縁談はもちろん、誘拐されてしまうかもしれないよ。僕と婚約しておけば、さすがに王太子の婚約者を誘拐しようとは思わないんじゃないかな。何より男たちの牽制になる。」
お父様はどうやら、誘拐という言葉に心を動かされたらしい。
長い時間をかけて考え込んでしまい、ようやく覚悟が決まったのか、不機嫌そうに下げていた口を開いた。
「……分かりました。婚約までは許します。ですが!娘が17になるまでに本人からの了承を得られなかった場合は、直ちに婚約を解消しますからね!」
「えええ!?かたぶつのおとーさまをいっしゅんでおとしてしまったわ!」
「ははっ!やはり我が息子は有能だな!儂では時間をかけても応を貰えなかったというのに!」
「いえ、アイシャの可愛さが敗因です」
お、お父様…?そこは否定しなくても良いのでは…
「何を言っておる!その弱点をついたフェリクスが有能なのであろう!」
「アイシャという天使に勝てるわけがないでしょう!」
なんだか雲行きが怪しい気が…
「確かにアイシャーナは天使のような見目をしておるが、我が息子も負けぬ美貌だ!」
こうして、地獄の親バカバトルは始まった。
後半は何故かそれぞれの妻との思い出を語り合っており、王妃様は時々頬を染めていた。
もちろん、私とエドは蚊帳の外であり、会話が終わるのを静かに待ち続けていたのだった…




