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いつの間にか第一歩。

私がエドを見たまま立ち止まってしまっていると、陛下の隣にいる女性が口を開いた。


「まあ、うちの息子に一目惚れしたのかしら?あら、フェリクスも満更でもないみたいよ?」


おっと…?何だか成り行きが怪しい気が…


森に居た時はボロボロのドレスを着ていた私が公爵令嬢だと知ってエドは驚いて固まっていたのだけど、そのことを知らない人には一目惚れしたように見えたのかしら。


「冗談でもそんなことは言わないでください、王妃様。アイシャは生まれて3年間誰にも頬を染めたことがないんですよ。アイシャ、王妃様の言葉を真に受けてはダメだよ。あの人はちょっと…いや、結構な乙女思考をお持ちなんだ」


まあお父様、国の王妃に対して結構な物言いね。


国王陛下も私と同じことを思ったらしく、「…クリストファー、聞こえているぞ」と口を挟んでいた。


そのみんなが会話をしている間に、私はそそくさとお父様の隣へ座った。


「公爵令嬢、いやアイシャーナと呼んでも良いだろうか?」


おや、これは私に回答を求めているわね。


「もちろんでございます」


「アイシャーナ、気楽に接してくれていいよ。それともう知っているかもしれないが、左が私の妻の王妃で右が息子の王太子だ。仲良くしてあげてくれ」


き、気楽…?気楽って、どのくらい?ああ、気楽の程度を測る道具はないのかしら…


「ふふっ、アイシャちゃんと呼んでも良いかしら?息子と婚約をしなかったとしても長い付き合いになると思うから、よろしくね」


「はい、よろしくおねがいします」


そう言って私は淑女の笑みを顔に貼り付けた。


頭は気楽の程度のことでいっぱいだったけれど。


「んまあ、本当に立派な子ね!私はこの縁談に大賛成だわ!あの子も姉ができることを知ったら喜ぶんじゃないかしら?」


『あの子』とはきっと、第一王女殿下の話ね。

王太子殿下の2歳下の妹で、体が弱くて外に出ることもままならないと聞いたことがある。


いや、でも王妃様、当の本人(私)はこの婚約に反対しているんですよ。一回逃げちゃってるんですよ。逃げた先で息子さんと会っちゃってるんですよ!


…なんて、言えたら良いのにね。


おこがましいかもしれないけれど、エドを助けたいという気持ちに変わりはない。だけど、婚約は嫌だ。


お、おお…我ながらなんて我儘なんだ…


いや、もしかしたら私の勘違いで、エドはただの王太子そっくりさんとか…うん、現実逃避はよくない。


すると、今まで固まっていたエドが口を開いた。


「父上、ウィステリア公爵令嬢を連れて庭を歩きに行ってもよろしいでしょうか」


そうニッコリと笑ってエドが言うと、国王陛下は優しい顔をして

「ああ、いいだろう。時間になったら使いを送る」

と言った。


ああ、声までエドと同じだわ…


待って、庭?2人きりになるの?気まずくならないかしら?これはエドなりの助け舟なの…?いや、これは多分私から話を聞き出したいだけね。少し楽しそうだわ。


ま、まあ、確かに公爵令嬢としていれば私の印象が変わって親近感を持ってくれるようになるかも…?

ああ…遠い道になりそうね…


そう思っていると、私はとあることに気づいた。


あれ?お父様、珍しく私の話なのに黙っているわ…さっきの様子を見るに、国王陛下達に気を使っているわけではないだろうけど…あっ。


私がじっとお父様を見ていると、流石に気づいたらしい。お父様は隣に座る私を見て、目で「本当にすまない」と訴えてきた。


あら、きっと大人だけで話したい事があるのね。エドもきっとそれを察して私を散歩に誘ったのかもしれない。


などと考えていると、エドはいつの間にか私の近くに立っていて、エスコートのために手を差し出してくれた。


「お手をどうぞ、ウィステリア公爵令嬢」


わあ、本物の王子様みたいね…って、本物なんだったわ。


私がエドの手を取ると、エドの完璧なエスコートと共に私達は部屋を出た。


あああ、なんで森に居たかのかを聞かれたらなんて答えよう…

でも、エドはさっきからずっと黙ってしまっているから、話す気はないのかも…


そうして一言も言葉を交わさずに静かな廊下を歩いていると、エドがプルプルと震えていることに気づいた。


えっ?たっ、大変!毒を盛られていたの!?だから今まで静かだったのかしら!?


…うん?ちょっと待って。エドの表情、苦しんでるといよりも、笑っているような…?


あっ! 最初から笑いをこらえていたのね!?


私がじとーっと見ていると、エドはその視線に気づいたらしい。


エドは笑いをこらえきれなかったのか、笑いながら私に謝った。


「ぷはっ、ご、ごめん…まさか、あの(・・)アイシャが公爵令嬢だったとは思ってなくて…っ」


何故だろう…なんだか謝罪された気がしない…


「…それって、わたしのドレスがボロボロだったから?」


「あははっ!自覚はしていたんだね?全く気にしてないように見えたから、てっきり気づいてないのかと‥っ」


む、笑い過ぎじゃない?って、…ん?待てよ?私、意図せずにエドの感情を引き出すことに成功してない…?

いつの間にか第一歩進んでる…?


うん、それは良いんだけど、やっぱりエドの私に対しての印象が「残念な子」というものになっている気がするわ…

前世も合わせて初めての同年代の友達なのに、それってどうなの…?

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