天使?天才?何言ってるんですか、平凡ですよ!
「とってもお似合いでございます、お嬢様!まさに天使そのものですよ!この世のどの美少女よりも可愛くて美しいに違いありません!」
まあエリーったら、お世辞がとても上手なのね。
「そう?なら、みんながたくさんがんばってくれたおかげね!みんな、わたしのわがままにつきあってくれてありがと!」
私がそう言うと、ここにいるみんなが感激したといわんばかりの顔をした。
「「「「ああ、やっぱり天使だ(わ)!!」」」」
そしてみんながみんな声を揃えてそう言った。また、これが日常の一環となってしまっているのも事実。
むむむ、またもや天使と呼ばれてしまったわ。うーん、天使と言われる条件がいまいち掴めていないのよね…
この世界の女の子は、全員天使と呼ばれているのではないかしら?
だったら納得ね!それなら、この世界では子供を「天才」と呼んで育てる習慣もあるのね。なるほど、生まれた時から天才と呼ばれていたわけだわ。
もう、誰か教えてくれれば良かったのに。危うく、自分が本当に天才なのかと勘違いするところだったじゃない。ああ、人のせいにするのはよくないわね。気づけなかった私が悪いわ。
今、私はようやく王城へ行く準備が整った。みんなが頑張ってくれたおかげで、短い時間でも先程とは比べ物にならないくらいに私は綺麗になった。
薄いピンク色がベースで銀の刺繍が施されているふわっとした可愛いドレス。今着ているこのドレスは、お父様が私のためにオーダーメイドしてくれたドレスだ。といっても、デザインを決めたのはお母様なのだけど。
今の私の髪色はお母様と同じ桜色だから、髪色に合わせたドレスにしたらしい。
ちなみに、私の瞳の色は少し変わっている。上の角度から見ると藤の色をしているのだけど、下の角度から見れば銀色に見えるのだ。正面から見ると、2つの色が混ぜ合わさった色に見える。
藤の色はお母様の瞳の色で銀色はお父様の瞳の色なのだけど、私のように瞳の色が混ざるケースはこの世界で初めてだそう。だから、公爵夫人の座を狙っている女性達がお母様の不貞を噂しているみたい…もちろん、この話を本気で信じている人はいないんだけどね。
…おっと、ゆっくりしている暇はないのだった。
「あっ、はやくいかなきゃおくれてしまうわ!みんな、いってくるね!」
と言って、私は大慌てでお父様が待っている外に出た。
使用人達は、そんな私を微笑ましげに見送ってくれた。
「おとーさまー!わたし、もうしゅっぱつできます!」
「おお、アイシャ!なんて可愛いんだ!やっぱり私の子は天使だったんだな!ああでも、お父様は寂しいよ。いつの間にこんなにも大きく…」
「おとーさま!はやくしゅっぱつしましょ!」
んもうお父様ったら、私が新しい格好をする度に話が長くなるんだから…
「あ、アイシャ。少しは私に慰めの言葉をくれてもいいんだぞ…?」
「はやくいきましょ、おとーさま!」
私のその言葉で、お父様はガックリと項垂れた。
お父様には悪いけど、遅れたら大変だもの!
「…クリス、思い出して。アイシャは時々、本当に容赦のない子だということを。こんなことで項垂れていては、この先あなたが持たないわ」
「そうですよ、父上。アイシャが「天使」と呼ばれているのは事実ですが、その容赦なさから『天使の皮を被った小悪魔』と度々呼ばれていることをお忘れですか」
いつの間にかお母様とレイ兄様が、見送りのために出てきてくれていた。
「…なんだか、慰められているように聞こえないのだが」
「気のせいじゃないかしら?」
「へ?わたし、そんなあだながついていたの!?しらなかったわ!」
あら、よくよく考えてみればこれも、この世界の習慣なのではないかしら?確かに、甘やかしすぎるのは教育に良くないものね。
そう思い至り、私はこれ以上この話には触れず、お父様をぐいぐい引っ張って用意してあった馬車に向かうことにした。途中までお父様が何かしらを嘆いていた気がするけれど、私の気のせいだということにしておく。
「おかーさま、れいにーさま、いってきます!」
無事に私とお父様は馬車に乗り、私は窓からお母様とレイ兄様に声をかけた。
「ええ、いってらっしゃい」
「気をつけて行ってくるんだよ、アイシャ。特に男には警戒してほしいな」
「ん?わかったわ。でもそれは、おとーさまもなの?」
「…もちろんだよ」
私はレイ兄様の意図が理解できずにそう聞くと、私はお父様も警戒しなければいけないらしい。
「え?ねえ、酷くないかい?レイ、お前は実の妹に実の父親を警戒しろと!?」
「だってそうでしょう。父上が王城で、親バカを発揮することはわかりきっていますから」
「確かに否定できないが、それはお前も同じなんじゃ…」
「まあまあ、事実ですものね。それよりも、遅れてしまいますよ」
「…ベル、アイシャが容赦ないのは君譲りなんじゃないか!?」
「おとーさま!いきますよ!」
このままでは本当に遅れてしまうと思った私は、お父様を急かすことにした。
「私の味方は誰もいないのか!?」と、お父様が言っていたけれど、知らないのである。
そうして、私達はようやく王城へ向かったのだった。




