この普通な世界で
【通常世界・『君は無忘』主要登場人物】
《私立信誠高校の生徒》
加賀暁・二年生。
赤城燐・二年生。
翔鶴健・二年生。
瑞鶴杏・二年生。
叢雲翔・三年生。
子日蘭・三年生。
《私立信誠高校の教師》
火国大和・国語担当。
火国長門・数学担当。
陸奥奏汰・物理担当。
伊勢絃希・体育担当。
信濃徹也・主任。
土佐透也・副担当。
ビスマルク=エンゲル・英語担当。
この普通な世界で
■ ■
高校生の日常とは、どんなものであるのか。そんな、考えても考えても答えらしい答えが出てこない事を、「加賀暁」という青年はよく考えている。
勉強をする事? 確かに、高校生というのは大人になる為の時間とよく聞く。大人になる為の勉強をする事こそが、高校生にとって日常と言えるのも確かだ。
遊びまくる事? 確かに、高校生の時が最も楽しかったと言う人も多い。友達と馬鹿をする時間を高校生の日常と言えるのも、また確か。
夢を追い掛ける事? 確かに、高校生というのは自分のやりたい事が出来る高校に入ってなるものだ。だから夢を追い掛ける為に努力する事も、高校生の日常だと言えるのも確か。
だが、やはり定まらない。高校生の日常という、不確定な議題にはどうやっても結論がつけられない。
いや、そもそもとして『日常』という概念そのものへの思考が定まっていない。
高校生の日常よりもスケールが大きくなってしまいはするけれど、それこそ近所の公園と学校のグラウンド程の、広大さならぬ広大差が出来てしまうけれども。
しかし、高校生の日常というものが何であるかを定める為には、やはり日常というものが何であるのかを知らなければ、理解しなければ、どうにもならないのではないだろうか。
では、その日常というものを知る為に、まずは日常について深く考え込む学生の生活を見てみる事としよう。
「―――」
日常、もとい、学生の生活。それはどうやら、まず授業中に堂々と居眠りをする事から始まるらしい。
熊本県の何処かに在る私立高校『私立信誠高等学校』に在学する高校二年生の男子生徒である加賀暁は、国語の授業中に一番前の席であるにも関わらず堂々と居眠りをしていた。
だが、彼が堂々と居眠りをしているのには確かな理由があるのだ。その居眠りを邪魔される事のない、強力な理由があるのだ。
至って簡単。ただ単に、彼は黒板に書かれた勉強の内容を、全てノートに書き終えているのだ。ただ、それだけの事なのだ。
汚くもなければ綺麗とも言えない字で板書を写し終え、彼は、よし、仕事終わったし寝るかーの気分でがっつりと眠っているのだ。
だが、
「加賀、次に進むから起きろ。」
勉強とは進むもの。一つを書き終えた所で、また次の内容が待っている。全く、勉強とは斯くも面倒なものである。
勿論、勉強が大切である事は、彼とて十分に理解している(現在は眠っているけれど)。普通の脳ではあるが、勉強が出来るか出来ないかが社会にどう影響するのかも想像してはいる。
塵も積もれば山となる、どんなに馬鹿であれ細かな勉強をしていけば、成長して結果を出す事が出来るのだろう。
けれど、けれども、小さな塵が積もりに積もって山になるまでの期間に、その本人が耐えられるかどうかはまた別の話しである。
まぁ、閑話休題として。
居眠りをこけていた彼だが、遂に国語の担当である男性教師「火国大和」からデコピンを喰らい、その覚ます事となった。
「うい…おはようございます…」
「おはよう。書き終えたのは良いがな、寝るな。減点になるぞ。」
「あー…すいません。」
「ったく…悪い癖だ。出来る限り治しとけよ。」
呆れた様に頭を掻きながら、火国担任は授業を進める。どうやら、彼が授業中に眠るのは癖の様なもので、他の授業でもやらかしているらしい。
癖は癖でも、悪癖だが。学校においては大変凶悪な癖である。
「一番前の席なのに、よくあんなにぐっすり眠れるよねー、暁は。」
「眠気の前には、恐怖なんて無いも同然なんだよ。」
「ドヤ顔で言われてもなぁ…」
コソコソと小さい声で話し合うは、隣の席に着く女子生徒にして加賀暁の幼馴染「赤城燐」。
成績優秀―――ではなく、かなりのお馬鹿。だが、運動に関しては天才的な能力を持った動けるお馬鹿さんだ。部活は兎に角体を動かしまくる「運動部」所属、その主戦力である。
「まぁ、暁はこんなんでも頭良い方だもんね。」
「こんなんって何だよ、失礼な物言いだな。それに、頭良い訳じゃないよ。ただ無駄に知識詰め込んでるってだけだ。」
「まーたそうやって謙遜するー。もっと誇らしくすれば良いのに。」
などと、コソコソと話している二人ではあるのだけれど。
二人は忘れているが、しかし我らは決して忘れてはならない。
この二人が―――一番前の席であるという事を。
「そうだなー、さっさと授業に戻ろうなー問題児二人組。」
二人揃って鉄拳制裁を受けたのは、言うまでもない。
こんな感じで、今日も今日とて日常というものを理解する為に、加賀暁は学園生活を満喫するのだ。