四話-友達を作れ-前編
朝、ユウの部屋にて。
「今日は月曜だから学校だ」
ユウが説明台詞を吐きながら。ベッドから起きながら。制服に着替えて登校準備をする。
「えッ?学校通ってんの?」
魔王が布団から飛び起きた。
ちなみにこの布団はユウが貸してるやつ。
なお同じ部屋で寝てたのは、魔王が気に入る感じの部屋が他に無かったからだ。
「一応通ってるんだよ、学校」
「じゃあ私様も行くぜ‼‼」
なぜか魔王はついてこようとするが
「来るな」
ユウは取り合わない。
「行かせてくれよォ~、私様にもよォ~」
魔王はテンションの高い子どもみたいにはしゃいで、飛び跳ねて、側転しながらユウに頼み込む。
「側転も飛び跳ねるのも止めろ!」
ユウの指示を聞いてぴたりと止まった、逆立ちで。
部屋の中で暴れるなと文句を言いたいところだったが、逆立ち程度ならまぁいいかと妥協する。
「……学校なんて行きたいか?そんなに面白いものないよ」
「学校を舐めるんじゃねェ」
お前は学校の何なんだといいたくなるような言葉遣いを魔王はした。
「お前の好きそうなものは何も無いぞ」
「私様って何が好きそうに見えてんの?」
改めて聞かれると、具体的な答えは考えて無かったとユウは気づく。
彼女のことにあんまり興味無かったから。
「……ギャンブルとか?」
「それを学び舎に求めるほど馬鹿じゃねェよ私様は」
しかしまぁ、魔王が学校に行きたいというのであればユウは考えてみる。
一応危険な相手だし、機嫌を取るに越したことはないだろうから。
「……見学したいなら学校に電話でもすれば?」
提案してみた。
本当に見学許可が降りるとは思えないが、ダメだよと学校側から言われれば魔王も納得してくれるだろう。
「たしかに」
魔王はスカートのポケットから、スマホを取り出した。
「しかし、魔界にもあるんだねスマホって」
「なんだ急に、昨日の試練でパソコンは見ただろ」
「正直魔界の人がそういうの持ってるって意外だったんだよね」
ユウは魔界がイメージと違うな、となんとなく思っていた。
魔界という字面は、そこにパソコンとかスマホがある場所だとは感じられなかった。
「そりゃァ魔界だって科学発展してんだぜ、土地にもよるがな」
「……ふーん」
「テメェまさか魔界を差別的な視線で見ちゃいねェか?」
「何が?」
いきなり差別してるかどうか聞かれてユウは驚く。
「魔界だからって魔法とかモンスターばっかりの土地しかねェとは限んねェからな」
「ごめん、魔界は写真すら見たない場所だから何言われてもピンとこない」
ユウはふと思った、こうやって駄弁っていると学校に遅刻する。
だから学生鞄を背負う、中身は必要最低限のしか入っていないので非常に軽い。
「おい待てテメェ」
外に向かおうとするユウを魔王は呼び止める。
「なにかあった?」
「見学許可出たぜ」
これにはかなり驚いた。
どうやら魔王がついてきてもよくなってしまったようだ。
「危機管理能力ない学校だなぁ、こんな変なのを入れるなんて」
「おかげで私様は助かったぜ」
「じゃあしょうがない、一緒に行こうか」
「いェーーー!」
魔王ははしゃぐ、さっき注意されたので控えめな動きで。
側転ではなく、寝転がってゴロゴロ転げ回った。
「やめろ!!」
それはそれとして、ホコリをまき散らすのでユウは怒鳴った。
二人は通学路を歩きながら話す。
ユウは話しかけないので、魔王がひたすら喋ってユウが適当に答えるという形だ。
「これは自慢だが、私様は若人のために動ける、魔界に学校を作るため人間界を視察するのさ」
聞いてないのに魔王は言った。
「お前も若人じゃないの?」
「私様は51だぜ」
「その年齢でその振る舞いかー」
「おゥそうだ」
魔界ではケケケという変な笑い方や、妙な口の悪さは大人になってもアリなんだなー、とユウが感心していると
「まァ魔界じゃ未成年だから、この振る舞いも許されるぜェ」
どうやらあまり、喜ばしくない振る舞いらしかった。
「若者"だから"許される振る舞いは、若者期間が終わる前にやめたほうが良い、つまり恥なんだぞ?」
「ケケケケケケケ、いや、それは、まァ、そうだがな」
魔王はバツが悪そうに、笑って誤魔化した。
そうしてなんやかんやあって二人は教室についた。
1年4組がユウのクラスだ。
それから朝礼があったり授業があったりした。
魔王はその間教室の後ろで授業を見て、頷いたり、なるほどと漏らしたりずっとしていた。
見学許可が出てはいるが、事情をよく知らない生徒にとっては首に王冠巻いてるようなファッションの奴――魔王――は滅茶苦茶怪しい不審者だと思われた。
といっても特にトラブルは何も起きることなく、そして昼休みに入る。
魔王だとか世界侵略だとか大真面目に話してるのを聞かれたら頭おかしい奴扱いされかねないので、ユウ達は人気の無い廊下に場所を移して話し合う。
「なぁユウ、朝礼が終わってからこの昼休みまで一言も誰とも話さなかったな?」
「普通じゃない」
「皆平和で楽しそうなのに、なぜテメェはずっと1人でいる?」
「人の勝手だよ、悪いか?」
「わるくねェけど、楽しい方が良いだろォ」
「授業は楽しい」
「もっと楽しくしろ、今日は試練として友達を作ってもらうぜ!」
それを聞いた瞬間ユウは「やだ!」
声を荒げる。すぐさま口を閉じ周囲を確認する、魔王のような不審者と話している姿を他人に見られたくない。
……平気そうだ、周りは誰もいない。
「……なぜだテメェ?」
「そんな試練簡単すぎるだろ?簡単すぎて試練にならないね」
ユウは極めて感情的に、"やりたくない"という気持ちを全力でぶちまけていく。
「いいか、テメェ自身にとって困難な事は、試練だって言えるんだ」
「友達は作らないと決めてるんだよ!」
「その変な決意を覆すのは難しいだろうな、なおさらやれ」
ユウは迷う、今日の試練は嫌だ。嫌な理由がある。とにかく嫌だ。どうにかして避けられないだろうか。
「ギブアップしていい?」
「……命の危険すらないここでか?!」
魔王はとんでもないほど驚愕していた。
「本気で嫌なんだよ」
「べつにいいが、試練失敗になっちまうぜ?」
ユウはそれを聞き冷静になる。
そうだ、一応試練はつづけるつもりなのだ。
これは困った。
「……失敗って何度でゲームオーバー?」
とりあえず、きいてみる。
「今のとこ一回」
"今のとこ”という部分が気になる。将来的には多少の失敗が許されるようになるのかもしれない。
だが今は一度でも失敗したら駄目、そうすれば魔王は人間界の侵略を開始する。ということらしい。
ユウにとって一番困るのは、この先あるかもしれない楽しい試練が受けられなくなることだ。
世界がどうなろうと知ったこっちゃないが、それは困る。
「……わかったやるよ、やればいいんだろ、誰かと笑い合って話せればいいんだろ?」
「まぁそうだな」
ユウの足取りは重かった。
目には涙も浮かぶ。
昨日は楽しい試練だったのに、今日はサイアクだ。
一方魔王の足取りは軽い、目を輝かせて学校中を舐めるよう観察する。
彼女の生まれ故郷には存在しないもの……例えば消火器や火災報知器にワクワクしていたからだ。
「日付が変わるまでがタイムリミットだぜ」
ユウの苦しみなど意にも介さず魔王はユウを先導する。
そうして2人は再び教室の前にやって来た。