三話-配信を盛り上げろ-後編
さて、ユウの配信が物凄い荒らしに襲われてから
「荒らさないでくださいねー」
<うんちうんちうんちうんち>
ユウはひたすら荒らしとの対話を試みていた。
荒らしはぜんっぜん、いうことを聞いてくれない。
ユウは少し考えた。
この人に配信から出て行ってもらうためには何をすべき?
説得はたぶん無理。でも無視しても無駄。
だったらせめて、ひたすら対話を試みるしか出来る事を思いつかなかった。
なのでやるだけやってみることにした。
「……仕事ちゃんと出来るんですか?そんな事してて」
とりあえず仕事の事をつきつけて見る。
〈うんちうんち〉
「あのですね、もっとまともな事に時間使いましょうよ……」
<うんち!うんち!う!ん!ち!>
「あ、もしかして荒らしちゃいけないってわからないんですか?つまりあなたは子供かな?ダメなんですよそういうの」
恐らく成人しきっている相手をあえて子ども扱いしてみても反応は薄い。
「友達と遊ぶのって楽しいですよね?こんな荒らしするよりそれしてるほうがあなたの人生は楽しいはず」
<これでも楽しいさ、お前の垂れグソみたいな人生よりな>
「へー」
ビンゴ、ユウは心の中で呟く。
ずっとまともにしゃべらなかった奴が“友達”に言及した瞬間まともにしゃべり出した。
何かしら“友達”というものに重大な意味があるのだろう。
「僕は友達がいないからわかんないんですが、みんなと一緒に何して遊ぶんですあなたは?」
<普通にだよわかんねーのか馬鹿>
間違いなく”友達”がこの荒らしの重要なものなのだとユウは確信した。
「いやでも、魔界の遊びってどんなのがあるんです?」
<じゃんけんや鬼ごっこ、カルタ等>
「魔界にもあるんだ」
ユウはうんうんとうなずいた。
それから「じゃあフェチュアモンは?」とたずねる。
〈当たり前だ、やった〉
「え?魔界ってホントにそんな遊びあるんですか?適当に言ったですけどフェチュアモン、視聴者のみんなは知ってる?」
<草>
<なんそれ>
<ないよ>
<あー知ってる知ってる、フェチュアモン、あーあれねあれ>
<↑フェチュアモン検索結果0件なんだが>
チャットが大盛り上がりする。
「あれ?荒らしさん嘘ついたんですか?」
ユウは少しだけ相手を責めるようにしゃべる。
<草>
<相手が間抜けすぎるダウトやらせはい解散>
荒らしはもはや何も喋らなくなった。
「はいそれじゃ荒らしは止めましょうね、それと友達がいるって見栄を張るのもやめましょうね虚しいでしょ」
とりあえず言い負かして、荒らす気を失せさせる作戦にユウは出たのだり
これ以上の口げんかは止めておこう、無為だ。
はやくまともな配信を再開し盛り上げて行こうと頭を切り替える。
だが〈つのゆんにねそおみpg5ke・あゅ〉いきなり意味不明で気になるチャットが来た。
「なんだコレ、つのゆふぇあばrんにねそおゅみpg5ke・あゅってなんだろ、魔界のスラングか?」
ユウが綺麗に怪文を読みあげる高等技術を見せたその瞬間。
「ぐゥッ‼?」
ユウは声をもらした、中突然指に鋭い痛みが走ったからだ。
指を抱えて、うずくまる。
<どうした?>
<大丈夫?>
<なにがあった?!>
チャット欄も心配の声がたくさんだ。
〈俺の魔力を文字に込めて呪ったんだよwww俺の勝ちwww画面の向こう側だからって攻撃されないと思った?調子乗ってんじゃねぇ!〉
「ダブリューで笑いを表現するのってそっちの世界でもあるんだな……あーくそ」
どうにか痛みの中ユウは画面をにらむ。
そしてどうしようかと迷う、この程度の痛みは案外我慢出来る。
しかし我慢なんてしたくない。
配信なんか中止して治療するために、試練失敗を選ぶかそれとも続行か。
現在人間界はピンチに陥った。
もしも彼が失敗を選べば魔王はこの人間界を支配しまうかもしれない。
「うーん、世界がどうこうはあんま興味無いけど、うーん……」
だがユウは英雄にはなろうとしない性格だから、世界と自分を天秤にかけて迷いやがる。
彼が世界のために動く事なんてそうそうないのだ。
迷っている間に時間が経つとユウの痛みは引いた。
どうやら今喰らった魔法も、掃除の時の魔法と同じく時間制限があるようだ。
世界にとって幸運にも、ユウから配信中止の選択肢はなくなった。
指が完全に治ったのを確認してユウは冷静になる。とりあえずの脅威が消えたのに安心してその結果……
「こういう魔法もあるんですね、どこで学ぶんですか?凄い!」
……感動した。まさかこんな事が出来るヤツがいるなんて凄い、予想してなかった。
<我が一族だけが生まれつき使える秘術だからwww教えねーよ>
荒らしはちょっと気をよくしたらしく楽しそうだ。
「まさか他にもこういう魔法あるんですか?」
<コレ読め→;fどえふぉえじょえじゃj>
「;fどえふぉえじょえじゃj」
読んでみてすぐにユウの右ひじが痺れた。
スポーツで一日中酷使した時の感覚に似ている。
「いたッ……いが我慢できる‼けど痛いのは嫌」
<wしばらく治んねーからなそれ>
「治るんならいいか、ほっとこ」
<いいのかよばーか>
荒らしは褒められまくってそうとうに機嫌が良い。
失礼な発言はするものの先程までと決定的に違う。
まともにコミニュケーションがとれている。
話しかければちゃんと解答を返してくれる、もはや荒らしではない、単にちょっと失礼な視聴者になっていた。
<一族の中で俺が最弱なのにwwwwお前この程度も耐えらんないのかよwww>
「いや、あなたの一族のこととか知りません」
<草>
<俺も呪いの文章読んだらクソ痛いんだけど、でもこの魔法マジですごいな>
いつのまにかチャット欄も、荒れた雰囲気はなくなっている。
<これ習得するために俺は"友達"作る時間奪われて嫌だったけど、俺は今日初めてこの魔法習得してよかったと思えた、ありがとう>
「僕も配信やって良かったと僕は思う、ありがとう」
ユウの中指は痛い。だけど、魔法という存在がとんでもなく多様だと実感できた。
さて、なんだかんだいい雰囲気にはなったけど、そろそろ配信を終える時間だろう。
パソコン画面右下に、60という数字がでて1秒ごとに1ずつ小さい数になっていく。
おそらくは、配信終了のカウントダウンだ。
「皆さん、凄かったですね今日の魔法、タダで秘術見せてもらえたんですよ!?」
<痛み払ってるからタダじゃない>
「痛みだけで知識が得れるなら安いでしょ、知ったら殺されるような物事もあるでしょうし」
ユウは配信のまとめタイムに入った。
<わりと面白かったです‼>
<また配信しろ>
<面白かったぞ>
<おつかれー!>
チャットは滅茶苦茶盛り上がっていたがカウントがゼロになる。
するとパソコンは自動で画面を真っ暗にしてしまった。
そこには先ほどまでの盛況は感じられず、ただ静か。
ライブ配信は終わりだ。
なんとなくユウは自分の指を見た。
もう治っている。
不思議な感覚だ、文字を読むだけで痛むなんて。
なんというか、何もかも知らないモノだらけの土地に迷い込んだ感覚。
だが不安はあまり無い、むしろ恐れすら知らない幼児が抱くような興奮を覚えていた。
「笑ってんな、今日の試練をクリアできたからか?」
いつの間にやら戻って来ていた魔王に後ろから話しかけられた。
笑ってるのは無自覚だったが、ユウは確かに楽しそうにしていた。
だが、すぐ顔を無表情に戻す。
ここはたぶん真面目な場面の表情が適切なので、それに変える。
「なぁ魔王」
「著作権侵害については、連絡したらエラーとして対処してもらえたぜ」
「……今日はありがとうな」
ユウは魔王に頭を下げた。
「……はァ?」
下げられた魔王の反応は芳しくない、なんで感謝されるのかよくわかっていない。
「礼なんて言うもんじゃねェ、立場上敵同士なんだぜ私様らはよォ」
「でもうれしかったし……今日の試練は」
今日の試練は終わりだ、また、ユウの勝ち。
そして雰囲気をガラっと変えるように、ぐーと魔王が腹を鳴らす。
「そういやお腹減ってるんじゃないのお前?」
「ケケケそうだな、昨日忙しすぎて互いに飯食い忘れてたな」
「いや僕は冷蔵庫のパン食べたけど」
「テメェ……!」
「まぁまぁ怒らないでよ、一緒にパン屋行こう今から」
「いいのか?」
「うん、次からは居候代としてお前が買い出し行ってくれるならね」
2人は共に外へと出かけた、パンを買いに。
そんな中で、お互い相手の事をついて考えていた。
ユウからしてみれば、魔王はお前どういうやつなの?と言わざるを得ない。
世界支配しようとしてるわりには、わりと順法精神や親しみやすさがあって意味不明。
魔王からしてみれば、ユウはテメェどういうやつだよ?と言いたくなる。
一般人のくせに、なぜ命を賭けるほどの気力があるのか意味不明。
でも二人とも、お互いへのそんな疑問を声にすることは無かった。
別に友達ではないんだから。