表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の試練とユウの解  作者: ガギグゲガガギ25
二章「長い付き合いになったな、友達でもねェのにな」
15/41

『閃』 七話 陶芸覇王見参!

 ユウは学校の中、大好きな本に集中できないほどわくわくしていた。

 魔王が次の試練は魔界に行く……とか言っていたことについてではない。


 それもあるが、今は三時間目が楽しみなのだ。


「陶芸体験の時間、早く来ないかなあ」


 なんて独り言をいうくらい、超、超、超絶楽しみ。


 彼が言っている通り、ユウの通う中学校では三時間目から昼までの陶芸体験があるのだ。


 しかし……風邪が流行ってるわけでもないのに今日の出席率は悪く、クラスメイトのうち三分の一が欠席だ。

 幼馴染のヒイラギや、以前ちょろっと話した佐藤といったユウの知り合いも休んでいる。

 皆、親の都合らしい。


 ユウは彼らを憐れむ、陶芸なんてめっちゃ楽しそうなイベントに来れないだなんて可哀想。

 陶芸なんてものそうそう体験する機会はないのに。


「おいユウ、陶芸って何するんだ?」

 突然クラスメイトの一人がユウにたずねた、田中だ。

「陶芸ってのは要するにお皿とかを作ることだよ、上手い人の作品は高値がついたりもする」


 良く知らない相手からのいきなりの質問に戸惑いつつも答える。

 なんだかんだで同じクラスというだけで距離感が近い奴は結構いるから、こういう手合いは慣れてる。


 田中は満足して去った。

 だがユウは少し話したりない部分があった。 


 この学校には昔陶芸部があったらしい、色んなところで作品の賞を取ったりしたりとあちこちで好評を受けていたようである。

 なのに陶芸部は消えた。

 巷では何らかの隠ぺい工作があっただのと噂になっている。


 そして今日来る先生は、その消えた陶芸部の元顧問らしいためユウは滅茶苦茶気になっているのだ。

 ……さて、しばらくして……


「皆さん、陶芸の先生が来てくれました」

 とクラスの担任が笑顔を浮かべた。

 三時間目がやってきたのだ。


 陶芸の先生は白髪と無数のシワを持った高齢者で、温厚そう。

 柔らかい雰囲気を持っている。


「まず陶芸とはどのようなものか見てもらいましょう、その後で皆さんにろくろをくばりますよ」

 陶芸の先生は教卓にろくろを置いた、ちなみに電動。


「それでは一番手が使い込まれてる君、お手本としてやってみてください」

 陶芸の先生から一番前の席の男子が指名された。田中君だ。

 ユウは知らないが、彼は小さい頃から柔道をやっているのだ。

 教室の中で手を最も使い込んできた人だという見立ては大正解である。


「え――」

 まぁそれはそれとしてユウはがっかりした、陶芸体験なんてやる機会は少ないのに人にチャンスを取られた。

 別に駄々をこねる程ガキじゃないし、一応クラス全員が陶芸体験を出来るスケジュールなのであきらめてユウは見学タイムを楽しむ事にした。


 しかし。

「ギャアアアアアアアアアアア‼‼」

 ろくろで回る粘土に触った瞬間田中の手から血がブシャ――ッと勢いよく噴き出して教室中を赤く染めた。


「嫌ア―――――――――!!」

「うわぁぁああ‼‼」

「なんだッ!なにが起きたッ‼?」

 クラス中悲鳴があがる。

 ほがらかだった雰囲気の教室は一瞬で恐怖の空間に変わった。


 普通にろくろを使おうとしただけでこんなことになるのは異常だ、本来ありえないはずなのだ。

 なのにとてつもない惨劇が繰り広げられた。

 そんな教室中が恐怖の渦に落とされた。


「ろくろがおかしいッ!毎秒の回転速度が通常の数千億倍なんだ!だから粘土に触れた田中君の手がズタズタにされたんだ!」

 状況を理解したユウは何が起きたか解説する、むしろ教室であがる悲鳴の声量をアップさせた。


 ユウにはわりと馬鹿な部分もある。

 わざわざどんな恐ろしいが起きたのか具体的に説明された生徒たちによって、一瞬で教室は阿鼻叫喚の地獄と化した。

 悲鳴や泣き声、恐怖があちこちでこだまする。


 だが‼‼

「黙れガキ共ォッ‼‼」

 一喝ッ‼‼‼

 陶芸の先生が先程までとまるで違う雰囲気で一喝したッ‼‼‼

 その表情は、悪鬼と見まがうほどの迫力!


 教室は静まり返る!


「ククク、ハーーーーーーーハッハッハ!」

 覇王の声だけが響く!


「なにがおかしいんですかッ田中は手がズタボロになったんですよ!?」

 担任が陶芸の先生に詰め寄ると一瞬で意識を失って倒れた。


 何が起きたかというと簡単なことだ、陶芸の先生が威圧した。ただそれだけ。

 陶芸の先生は虎ですら近づくのを恐れるほどの威圧感を持っていたのだ。


「ふん、雑魚には教える価値もないわい……」

 冷たく吐き捨てた彼に誰も文句の一つも言わない、いや言えない。

 なにかすれば彼に殺される、そんな雰囲気があった。

 彼は"覇王"というべきだろう。


「覇王の教えは雑魚にしてやらんのでな」

 実際自分でも覇王を名乗ってるし。


 さて、この状況下にてユウも周囲と同じように何もしない選択をする。

 下手に刺激して、激高させたらまずい。


「……ワシは昔この学校に在籍していたが不当な審判によって追放された、だからワシはここで正しい教育を行うッ‼‼」

 あ、覇王はなにもしなくても危害を加えて来る、滅茶苦茶な奴だこいつ。そう皆が気づいた途端ッ‼‼

 クラス中ヒートアップ‼‼


「頭がおかしいのかテメー!陶芸に謝れ!」

「そうよそうよッ!死ね!」

「陶芸をなんだと思ってるんだ?!お前のやっていることは陶芸業界に迷惑だろ!」

 クラス中から非難轟轟‼

 田中君みたいに教室を血で染めたくないから!


 しかしまた「黙れい!」覇王の一喝!クラスは黙った!

「よーしそれじゃあ授業じゃ!手を毎日洗う意味はなんだか言ってみいそこの苦労してなさそうなガキ‼」

 先生は指をさした、さされたのはユウだった。


 苦労して無さそうと言われるのがちょっとユウはうれしかった、普段の怪我とか悩みとかを表情に出さずにいれてるってことだし。

 ……というわけでヘラヘラ笑いながら立ち上がりユウは答える。


「手は清潔にしておかないと病気にかかるリスクがあるから」

「違う!‼皿を作るためじゃ‼」

「陶芸で人を傷つけた人が偉そうに言いますね」


 やめろやめろ、変に反論をするな下手に刺激するな。

 クラス中からユウに切実な祈りがなされた。

 もちろん届かない。 


「それではワシがあのガキになぜこんなに非道な事をしたかわかるか?」

 覇王は呻く田中を指差す。手をずたずたにされてしまった彼を。

「サディストだから」

 ユウは答えた。


「違うぞ馬鹿モン‼‼ぶっ殺されてぇかクソガキ‼」

「殺されるのは嫌ですよ」

 教室の温度が5度も、覇王の怒りにより上がった。


「いいか!世間では体罰は罪だと言われる、大人は当たり前のように優しさだの思いやりだのを教える……それは間違っている!体罰は合理的!」


 覇王はとんでもない事を言い出した。

 体罰が罪じゃないなんて、時代にそぐわない事を。


「世の中は暴力が全てだとでもいいたげですね」

「そうじゃッ‼‼世の理は暴‼どれほど賢くとも優しくとも無意味!なぜなら拉致され殺されたら終わりじゃから‼‼なのに世の中は暴力を教えない‼‼傷つけられないための力を子供につけさそうとせん‼‼それじゃあ駄目じゃ‼‼」

「……そうですか」


 覇王の言い分は力以外の何一つとしてを価値として認めようとしていない。

 ユウそういう価値観は嫌いだがわざわざ否定しない、人には色々な人生があり色々な考え方があるものだ。


「だからこうして鍛えるッ‼陶芸を通しッ暴力を教えるッ‼‼それがワシの教育じゃぁあクソガキどもォ‼‼この学校で陶芸部顧問をやっていたワシが直々に教えちゃる!感謝しろよガキ共‼‼」


 ふと、ユウはひどく納得した‼‼昔この学校からなぜ陶芸部が無くなったのかについてッ!

 覇王のせいッだ!こいつが顧問だったら何らかの問題を起こして消えるとしか思えない‼‼


 さらに!ユウは覇王が異常な事の伏線に気づく!

 クラスの出席率が悪かったのっってアレだ!こいつのせいだ!

 きっと親世代にはこいつがヤバいのが有名な話なのだ!だからそれを知る生徒の親は学校に子供を登校させなかった!

 親たちのその判断は大正解だとユウは思う!

 正直こんなことになると知ってたら自分も仮病で休んだ!


 覇王はこんな風に色々なところから嫌がられるような問題を起こしたのだろう!

 そうして顧問を辞めさせられたことを”不当な審判”とか言っているのだ!


「……こんな奴を陶芸体験の先生にするとかうちの中学は何考えてんだ?」

 ユウは呆れた。


「ククク!今日のろくろは安全基準を破って作ったワシオリジナルじゃ」

「最悪なことしてる!」

死屍累々血啜(ししるいるいちすすり)というろくろ!使いこなせるものならしてみろォガキども!」

 どうやら今回、田中の手がズタズタにされたのは覇王がわざわざ作った危険なろくろのせいなようだ。

 死屍累々血啜(ししるいるいちすすり)なんて大層な名前をろくろにつけて覇王は高笑い、ハ―ッハッハッハッ。


 しかし‼

「使いこなせるかもしれないガキはいるぜ!」

 それを止める者がいた!?


「あッ、お前ッなんでここにッ」

 ユウが叫ぶ!教室のドアが開いて魔王が入って来たのだ!

「強大な力を感じて来てみたぜ」

「……まじか」


 ユウはめんどくさい気持ちになった、魔王までやってきたら絶対にロクな事にならない。

 こいつはこいつで、覇王と違うタイプの迷惑な王だ。


「何者だ貴様!」

 覇王が問うた。

「私様は、魔王だ」

 魔王は返した。

「王なのか貴様も……ククク、ワシは覇王じゃ」

 覇王も返した。


「王様だって?私様にはテメェが先生っぽくも見えるぜ……」

「よくわかったな、ワシは覇王かつ陶芸の先生じゃ」

 覇王先生はニヤリと笑う。

「ケケケ、やっぱりな……教卓の傍にたってる高齢者はだいたい先生だって私様はこの世界で学んだんだ」

「ククク、そうか、ククククク」


「「ハ――ッハハハハ‼‼」」

 それから二人して高笑いをした!


「よっ、よくわからない連中二人に通じるモノがあるみたいだ!!」

 クラスメイトからそんな声があがる、魔王と覇王のご対面でなんか状況に謎の納得をした‼

 彼らは今一つの発狂状態にあった。

 覇王の威圧感に圧倒されたうえ、魔王なんて不審者がやってきた結果、目の前の事を夢のようにしか見えていないのだ。


 これはユウにとってはありがたい。

 魔王なんて不審者と話している姿を他人に見られたくないが、この状況ならユウと魔王が会話してた事はクラスメイトの記憶の中で朧気になってくれるだろう。たぶん。


 ふと、魔王がユウの顔を真っすぐ見る。

「ユウ……覇王のろくろで陶器を作れ」

 それから田中の手をずたずたにしたろくろを指さした。


「え?それ試練?でも次の試練は魔界に行く事じゃなかったっけ?!」

「勘違いすんな、コレは試練じゃねェ」

「えっ?じゃあやんなくていいの?」

 魔王はうなずいた。


「だがこの程度こなせるヤツじゃねェと魔界に行ってもゴミみてェに死んで終わりだろうがな」

 ぽつんと言った、魔王の言葉には一理あった。


 ユウはこれまでの試練をクリアしてきたが、それらの殆ど運が良かったからできた事。

 ドラゴンを倒せたのも運、才媛を救えたのも運、配信を盛り上げられたのも運、運じゃないと言えるのはせいぜい佐藤と仲良く話したくらい。

 そんなユウが魔界に行って通用するのか?ユウ自身が一番自分の実力を疑っていたのだ。


「……でもあんなイカれたろくろを素手で触ったら手がぶっ壊れるんじゃないのか?」

 ユウは一見、尻込みしてるようなことを言った。

 だがこれはひたすら前向きな発言だった。

 ”何をすれば失敗に終わってしまうか?”というアプローチで今回の解法を求めているのだ。

 もはや覇王に言われた通り、異常なあのろくろを使って皿を作るつもりではあった。


 魔界に行くつもりなのだ、この程度はこなしたい。


「ユウ、”アレ”を見ろ」

「アレ……って?」

 ユウは魔王に促され視線を動かす。


 そこには衝撃。

 覇王が素手で陶器を作っている!あの田中が手をずたずたにされたような危険ろくろでだ!


「ワシだけは、このろくろ……死屍累々血啜(ししるいるいちすすり)"を使いこなせるのだッ!」

 あのろくろでいともたやすく‼当然のように!素早く茶碗の型を作ってのけたッ!

「ワシの手はコンクリートよりも硬いッ!毎日500回剣山の上で逆立ち腕たてふせをやって鍛えた皮膚だッ‼‼」

 あぁ、なるほど。ユウは理解した。

 彼の掌はあまりに硬いのだ、人間の限界(リミット)などゆうに超えている。

 だから彼は自分を覇王と呼ぶのだ。


 一方、魔王はニヤニヤとしていた。

「おいユウ、次はてめぇの番だぜ!」

 なんて言いやがった。


「くそ……」

 ユウはろくろを見た。田中の血がこべりついていて、ぞっとする。

 もしも失敗すれば、ここにユウ自身の血も追加することになるのだ。


「ケケケ楽しみだぜ、どんな結果になろうとお前はぼろぼろになっているだろうからな」

 魔王の瞳には、明らかに純粋な悪意があった。子供が虫の羽をむしるような。

 虫とむしるでダジャレになったがわざとではない。


「……クソッ、わかった、やるよ、やりますよッ!やってやるよッ‼‼」


 ユウは魔王と覇王に宣言する、彼の汗が床に落ち跳ねた。

 緊張していた、

 だが、ユウの中でたしかに鋭く研ぎ澄まされる思いがあった。

 諦めたくないという、意地だ。


 暑苦しい覇王の空気は不愉快だったが、ユウの中にある熱いモノを無理矢理引きずり出す効果もあった。


「何かしら手を保護する道具が欲しいところだけど、無い……だからそれは一旦あきらめよう」

 ユウは静かに語りだす。


「作る皿は茶碗……陶芸なんか未経験だからせめてよく形を知ってるものを作る」


 それから堂々と「僕は今から皿を作る、その明らかにヤバいろくろで」と宣言した。


「よし、ならばろくろを起動するぞッ」

 覇王の手によって高速回転しだすロクロッ‼電動!スイッチ入れたら勝手に動くタイプ!

 セットされた粘土も回る‼ユウは一旦ろくろを手にとった、粘土にはノータッチ!そして床に置いた!


「なにをするつもりだテメェ?」

 魔王に聞かれても答えず両肘を粘土を挟むにようあてたッ‼‼

「肘ッ!?肘だとッ‼‼たしかに人体の中でも肘は硬いッ‼‼手のひらよりは防御力があるな!」

 覇王は驚く‼予想だにしなかった方法にッ‼‼

 しかし!魔王は不敵に笑んだ!


 彼女は知っていた!いくら肘であろうと覇王ほど強靭ではない体が超絶高速回転に耐えられるわけが無い‼‼

 だから!ユウのやり方には不備があったッ。


「ぬオオオオオオッ‼‼少年‼‼‼浅いッ!浅いぞ少年‼‼もっと力を込めねばウツワにはならぬ‼‼」


 先生が叫ぶ‼‼

 そう!ユウはダメージをできうる限り抑えるために肘を粘土を軽くしかあててないッ!

 強く体を当てなければ確かにユウに耐えられる程度にダメージは減る‼

 ちょっとずつ切り傷が増えてはいくけれど耐えられる程度に!でもそれじゃあ粘土の成形に力が足りないッ‼‼


 あまりにも高速回転するろくろを使いこなすためには、ささやかな力じゃあだめなのだ!

 覇王のようにがっつり握れないとダメなのだ!


「まだだ‼」

 しかしユウはッ‼‼肘だけでなくさらに両足で粘土を挟んだッ‼‼

 その姿はまるで木にしがみつくコアラ!


「!?何をしているッ!?」

「ケケッケケケ!靴履いてんだから確かに足で挟めばァダメージも少なくなるッ、そのうえ肘だけでは足りない力をカバーできるってワケか!」

「そんなやり方がッ‼‼?使えるのかッ生かせるのかッ!ただの奇策は愚策じゃぞォ!?」

「ケケケ!面白いじゃねェか!」

 魔王と覇王が二人ともユウの作戦に驚いた!


「先生ッ!あなたの言ってる事は一理ある!確かに理不尽な暴力ってものはこの世界にたくさんある!だから身の守り方を教えるべきってのは間違ってないと僕は思う‼」

 ユウが叫ぶ。肘と足で茶碗をつくるため難儀しながら。


「でも、あなたは“雑魚には教えても無駄”って田中君に言ったんだ!平気で‼」

 ユウは叫ぶ!覇王に言いたい事があった!この空間の熱が彼の中の熱き魂を呼び寄せていた!


「それの何が悪い!」

「悪いに決まってるさ!あんたは自分の信念を裏切ってる!あんたは"雑魚"にこそちゃんと教えなきゃいけないんだろうが!」

「何を言っているッ!?」

「あんたは"弱い子供"を見捨てて教育を放棄したんだ!理不尽な暴力に負けてしまう子どもに身の守り方を教えなかったんだ!そうして自分の信念を裏切ったことにすら気づかないような奴に負けるもんかああ!」


 ユウの靴は一瞬でボロボロになりッ、肘からも出血していたッ!だが粘土はもう少し成形しないと皿に出来ない!!

 もう少し!あと少し!もう少しなのに!


「ぐッ……き、貴様、お前、ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼」

 恐るべき咆哮に教室が揺れる‼‼覇王先生のそれには明らかに混じっている……殺意が‼‼

 だがユウはひるまない!覇王先生を睨み付けた!


「おっと、僕を殺しますか?!」

「言っとれクソガキィッ‼‼貴様の力は足りぬわぁッ‼‼ただひたすらな暴力と‼‼それから爆発的に生まれる根性こそ人にとっては大事重要最適解ッ‼‼暴力を大して受けたことのないクソガキにワシのろくろが使いこなせるものかあッ‼‼‼もう限界じゃろがッ!貴様ごときがワシを見定めるなぁ!」

 覇王先生が叫ぶッ‼‼それと共にッ、ユウの肘も足も粘土からッ……弾かれたあああああああああ‼‼‼ギリギリッ!後一瞬力をこめてられていればッ‼‼茶碗が完成したっていうのに‼‼


 いや、ここで終わらない、ユウはここで終わるつもりなんて毛頭ないッ!

「うおおおおお‼‼」

 ユウは額を粘土にぶつけた‼‼‼

「そんなッ!額だとォオォオォオオオオオオ‼‼‼?」


 額は硬いッ‼‼拳より硬い‼手のひらより硬い‼だから使えるッ‼‼

 ユウの額から鮮血が教室中に飛び散る!


 もはや教室中から悲鳴が上がる事は無い!大半の連中はもう目の前の状況を悪夢として処理してる!意味わからんから!

 そしてユウは完成させたッ‼‼茶碗型粘土ッ‼‼


 血が練り込まれたそれはところどころ不格好で殺伐とした柄だが、ちゃんと茶碗の形だッ!

 後は焼けば完成するッ‼‼


「これでどうですかッ‼?」

 ユウは立ち上がろうとして、こけた!

 だって痛いんだ!靴の底も靴下もはげて、足は血まみれ!

 だけどちゃんと皿は出来ている!


「そんな、嘘だろう、貴様などが……こんなもので皿を作ったなんて……」

 覇王はたじろいだ。

「……は、はは……なんだ、ワシはこれまで何をしていたんだ?」

 静かに覇王先生は笑い出した。

「そうか、出来たのか、貴様に……不格好だし素人仕事だが……ワシには出来ない発想で……」

 最初にこの教室にやって来た時のように、覇王先生は穏やかな雰囲気を身にまとう。


 ユウに皿を作られてしまうという、彼にとっての敗北はむしろ彼の中にあった良くない何かをぶち壊す事となった。


「ワシは驕っていたのか……暴力だけを世界の全てだと思って……だから君のような暴力以外を知る者に負けて……なぜワシはずっと狭い考えしかできていなかったのか……?」

 覇王は崩れ落ちた、もはやそこに恐ろしい様子は微塵もない。


 己の全てを覆された絶望、そしてひっかかってた骨が取れたような爽やかさがあった。


「魔王よ」

 そして、彼は魔王を呼び掛けた。

「なんだ?」

 魔王は耳を寄せる、覇王があり得ないほど小声だったから。


「……貴様の目も曇っている、ワシと同じで少々価値観が凝り固まってしまっているのじゃ」

「んだとコラ」

「怒るな……ワシと同じような後悔はするなと言いたいだけだ」

「あァ、肝に銘じておくぜ」

 覇王と魔王の2人の会話はそれで終わり。

 王同士仲間意識があるがゆえの、ちょっとしたお話。


「二人でなにを話してるんですか?」

 小声故近くにいたユウにも何を話しているのかわからなかった。


 だがこれは王の素質を持つ同士だけの秘密の会話、王ではない者に立ち入らせるつもりはない。

「おおっと、少し貸してくれんかソレを」

 聞かれた事を誤魔化すように、覇王先生はユウの手にある茶碗型の粘土を取る。


「……フンッ‼‼‼」

 そして覇王先生から噴き出す蒸気ッ‼‼‼

 周囲の温度が一気に上がった‼‼

 コレは驚きィィッ!彼はまさしく覇王‼

 ユウの作った茶碗はッ‼‼‼この蒸気で焼き上がって……大‼‼大‼‼‼‼大大大大大大大大大ッッッッ完成‼‼‼‼


 ユウが試しにコツコツ殴っても壊れないほど頑強‼屈強‼‼

「それではなッワシのようになるなよ子どもたち‼‼」

 覇王先生は窓の外に飛び出して帰った!


「……いっちゃった」

「だが私様達の中には確かに残ったものもあるぜ」

 魔王が言った。

 それは本当のことであった。

 覇王が立ち去り残された空気の中にはいまだ(はおう)(こころ)がこもっていたッ‼‼


 そういえば最初に手をずたずたにされた田中君は、一週間部活の柔道を出来なかった。

 でもちゃんと怪我は治った。


 ちなみに覇王先生は逮捕された。

 生徒に危険なろくろを使わせたことが罪に問われたのである。まぁユウとかがめっちゃ出血するレベルのヤツ使わせたし、無罪とはいかなかった。


「本当にすいませんでした、法律よりも自分が強い気がしていたんです」

 と新聞の記事に動機調査が載った。


 なお手をずたずたにされた被害者生徒の田中は軽症ですんだため覇王を許しているし、ユウもなんとなく彼を許している。


 罪を犯してしまった覇王が、しっかりと償って人生をやり直せるかはこれからの本人次第だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ