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魔王の試練とユウの解  作者: ガギグゲガガギ25
1章 「お前どういうやつなの?テメェどういうやつだよ?」
12/41

新たな幕が開く前-これからの話をしよう

 ユウは自室で大人しくベッドに寝転んでいた。

 その体は包帯やガーゼまみれ、ボロボロ。


 流石に昨日ドラゴンにボコられて怪我しまくったので安静にするのは当然だ。

 本当なら病院行った方がいい怪我なのだけど、金が結構かかるし、入院という事になりかねない。


 それはユウが望まなかった、あれ程の怪我を大人に見られて大事になるのも面倒だし。

 というわけで怪我人たるユウ本人が応急処置をした。


 正直なところ、まともなやつのすることではない。

 大怪我したら素直に病院に行ったほうが得だ。

 金をケチったり、入院による拘束を嫌がった結果死ぬよりは、命があった方が普通は良い。


 だが、時折ユウは普通じゃない節があってしまったから今こうなってる。


「ユウ、起きろ」

「怪我してるのわかんないわけ?」

 さて、魔王は怪我なんかお構いなしにパチペチとユウの頬を叩く。

「今後についての話をするぜ」


 ユウは飛び起きる、それは気になってたことだから怪我くらいは我慢しようと思えた。本気で全身が痛いけど、絶叫しそうな程痛いけど。


「まず前回までのは、チュートリアルだったからポイントも無かったが今後はポイントがつく」

「……ポイントって?」

「“ステータスオープン”といってみろ」


 ユウが説明してほしかったポイントとやらの説明は無かった。そのうち説明してくれるかと思って一旦流しておく。


「……ステータスオープン?急に何なの?」

「"転生系"と一緒だ」

「あんま読んだ事ないものに例えられてもわかんないよ……」

「マジで?じゃあ説明してやると」

「ステータスオープン!」

「説明聞いてから叫べ!」

「お前の説明は長くなりそうだから」


 風が吹くような音がなり、ユウの目の前に半透明に青い板が出た。


 板はタブレット端末程度のサイズで、こんな白文字が書いてあった。

 ーーー

 NAME ユウ 

 RANK 1   

 現在ポイントは0 

 次ランクまでポイント100

 ーーー


「なにこれ、ゲームみたいだ」

「そこにはテメェの"ランク"が書いてある」

「ランクってなに?」

「クリアした試練の難易度に応じポイントがたまる、そんでランクが上がる、その度にテメェの勝ちに近づく」


 ユウはなるほどと思った。

 つまり、試練をどのくらいクリアすればいいのかという指標が"ポイント"と"ランク"なのだ。


「ところでなんで僕の能力とか書いて無いのに""ステータスオープンっていったらこの画面開くの?」

「ステータス表示とかはまだ作ってないだけだぜ、そのうち入れる予定」

「これ作る感じのヤツなの?!」

「当たり前じゃねェか」


 魔王は呆れたように言う。

 しかしユウにとっては衝撃だったのだ。


「どうやって作るんだよ?!」

「プログラマー系の魔法使い雇うのが基本だが、私様は個人でやったせいで未完成になった?」

「なんで出来もしないことをした?」 

「まともな依頼先は料金かかるから……」

「魔王なのに金無いのか」

「収入の大半が税金だ、無駄遣いできねェ」

「無駄ならやらなくていいだろ……」


 少しの間お互い沈黙した。

 なんというかこのままだと、ユウがそのうちものすごい失礼なこと言いそうだったから。


 ……しばらくしてから、いくつか質問を思いついたユウが喋りだす。


「それで、どこまでランクを上げたらいいんだ?」

「4までだ、ちなみに100ポイント溜める事にランクアップ」

「試練がクリアできなかった場合ポイントはどうなる?」

「ポイントは大量没収だぜ、現状のランクを維持できないレベルまでポイントが無くなったらゲームオーバー」


 あくまでもランク維持できればゲームオーバーにはならないということらしい。

 つまりこれからは多少なら試練に失敗しても許される場合があるということだった。


 ユウは少々気が楽になった、それならば嫌すぎる試練はギブアップできる。


「あとさ、試練をクリアしてもらえるポイント量はどういう基準で決まるの?」

 ユウは一応聞く。

「わからん、これから決めようとしている」

 衝撃的な解答がなされた。

「……ま、ポイントは気にしなくていいや、試練があれば受けるだけだから」

 だが、それでもいいと思えた。


 そもそもユウが試練を受ける理由は、世界を支配されないためではなく自分のため。

 だからチョットくらい変なとこがあっても寛大になれる。


「ケケケ、そうしてくれると助かる」

「助かるって何が?」

「なんというかテメェがドラゴン倒しやがる想定は無くて、今焦ってるんだよ」

「ん?予定に一切ない状況になってるから諸々が用意できてないって事?」

 こくりと魔王は頷いた。スゴイしょぼくれてる。


「編集に引き伸ばしを強要される漫画家の気持ちぜ今」

「かわいそー」

「棒読みだなテメェ」

「わかった、それじゃあ芝居がかったようにやるよ」

「今からされるとムカつくのわかんねェ?」


「……ところで、今後どんな試練がある予定?」

「じゃ、ノートとペンを貸せ、それで説明してやるぜ」


 ユウは言われた通りにアイテムを貸す。

 魔王はそこに色々書こうとしたようだったが、ペンのインクが付かなかった。


「しゃあねェなホワイトボードに……」

「無いようちに」

 魔王はホワイトボードを求めたが、そんなもの持っている一般住居のほうが少ない。

 ユウの家もそれらに違わず。


「私様は火で文字を書けるんだざ、家全焼の可能性あるがやっていいか?」

「許可が出るとなぜ一瞬でも思った?」

「ドラゴンに殴りかかるような奴だから……」

「死にたいわけじゃない、やめろ」


 魔王は悩みだした、説明をどうやってするのか思いつかない。

 ウンウンと考え続けて

「もうよぉ、口頭説明でいいか?」

 結局普通のやり方にしようとか言いだした。


「もうべつに説明しなくてもいいけど」

 すでにユウは色々聞くのは面倒になってしまっていた。



「ダメだ、さっき説明するといったのに」

「べつに無理してしなくてもいいよ」


「……そういやユウ、テメェ死を受け入れたろ?」

「唐突だな?」

 唐突に話が切りかわった。

 先程まで試練がどうこうの説明だったのに、死を受け入れたかどうかについての話に。


「……テメェは、ドラゴンを殺そうとしたなら殺されても仕方がないって思っただろ」

「ホンっと急激に脱線したな……」

「それを偉いと思うんだ、私様はな」

「何が?偉いって?」


 魔王の言葉はユウにとって意味不明、殺されて仕方ないと思うのが偉いなんて、わけわからん。


「自分が酷い事をしてきたのに、他人からされたら喚いて悪態をついて当たり散らす、そんな奴ごまんといるだろ」

「ごまんといる、なんて断定できる程人付き合いが無い」

「いるんだよ」


「でもテメェは自分のした行動の結果を自分で受け止めようとした、それは好きだぜ」

「うッ‼」

 ユウは口をおさえ、すばやくあたりを見回す。

 近場にあったビニール袋を握りしめて、その中にゲロを吐いた。


「……私様に好かれんのってそこまで嫌か?」

「ごめん、気分が唐突に悪くなった」

「私様に好かれんのが嫌だから?」

「身近な奴に好かれるのは嫌だ」


 ユウにとって好かれるとは他者に期待を抱かれるということ。

 人の心の奥底に入り込むこと。

 そして意図的でも無意図でも、奥底から傷つけてしまえばそれは深い怪我になってしまう。


 怖い、深く関わることで誰かをひどく傷つけるのが、そんな若干臆病すぎる思考をユウはしていた。


「こっわ、なにそのネガティブ」

 理解されずに終わった。

 とはいえ、理解されたとしても気持悪がられるのは変わらないだろう。


「それはそうと説明がまとまったぜ、ユウ」

「急激に話行ったり来たりすんな、困惑する」

「見な」


 ユウが開きっぱなしにしていたステータスオープンの表示が何やら変わっていた。

 そこにはでかでかと“これからの試練について”というデカ文字が書かれたスライドになっていて、プレゼンか何かかと思わせる。


「ステータス表ってこんなのできんの?」

「見ればわかるだろ」

「いやそれはそうなんだけども……」

 ステータス表というものに、プレゼン資料が流せるとは思いもしなかった。


「なぁユウ、テメェには色々な世界を見せてやる」

 魔王の言葉に呼応するようにスライドは“様々な体験が出来る!”という文字に変わった。


「残酷な世界も」

 スライドが病人の手術写真に切り替わる。本物なので嫌がらせかとユウは思った。

「優しい世界も」

 今度は食卓を囲む幸せそうな家族写真。

「汚い世界も」

 今度はトイレ。たしかに汚いが、汚い世界とはそういう意味じゃあないとユウは思う。

 こういうのは汚いのでなく下品と呼ぶのではないのか?

「美しい世界も」

 今度は何も映っていなかった。


 ユウは魔王の感性的に虚無が美しいのかと考察する。

 ――まぁ、確かに無ってのにも美しさはあるけどけどさ。

「ヤべ、花畑の写真いれんの忘れてたぜ」

 ユウの考察は的外れだった。


「とにかく、いろんな世界を見せてやるからお楽しみに」

 スライドが消えた、これで終わりなようだ。


「めちゃくちゃじゃないかお前のプレゼン……!」

「とにかくテメェは今後すげェ沢山の、まともに生きてたら関わる事もねェ世界を見れるってわけだ」

 ケケケ、と誤魔化すよう魔王は笑った。


「……そんでさ、その世界って具体的には?」

 ユウにとっては不十分な説明だった、問い詰める。

「え?」

「いや、良いカンジにまとめようとしてるけれども、僕が聞きたいのはもっと具体的な話だったんだけど」

「黙れやかましい」

「わかった‼‼」

 ユウは清々しいくらいに大きな声で返事した。


「うるせェ‼」

「………………」

「魔界の国に行ってもらうとかはあるぜ?」


 魔王がぼそっと漏らした言葉にユウは喜ぶ。

 きっと自分の知らない世界が見れるから、好奇心がガンガン刺激される。

 まぁ、ユウはその喜びを一切表に出さず、死人と見間違うようにしか見えない顔をしていたが。


「べつにそんな黙んなくていいぜ」

「………………」

「ん?魔界にゃドラゴンの時に行ったって?ちげェちげェ、また別の場所に行くんだよ、今度は“国”で魔界の住人と出会えるぜ」

「………………」

「魔界一平和な国でな」

「………………」


 魔王は黙り続ける相手に対して話し続けるのがつらくなってきた。


「もう話してもいいぜ」

「それ以外の試練は?」

 許可が出てようやくユウは声を出した。


「さぁ?正直まだ決めてねェ」

「行き当たりばったり過ぎるだろ」

「いやなら止めてもいいぜ」


 魔王はユウに、止まれと薦める。


「やめないけど」

「もし死んでも文句言うなよ」

「死んだら文句言えないじゃん」

「まぁな」

「死ぬ直前に文句言うね」

「意味あるのかその行い?」


「あと……いや、やっぱいいや」

 ユウは言いたい事があったが、わざわざ自分が言うような事ではないと思い直した。


「なんだ、言ってみろよ」

 しかし、そんな言い方をすれば目の前の相手に興味をもたれてしまっても仕方がない。

「怒りそうだしやだ」

 本当に嫌だった。怒られるのは損だ。


「私様は怒りにくい、安心しろ」

「計画性もっと持て」

 ユウは安心せず、淡々と告げた。

 たぶんこういうテンションが1番相手を怒らせないと感じた。


「あぁそう、指摘ありがとよ」

 魔王の声色は一聴だと冷静だが、よく聞けばいつもより微妙に荒れた音だ。

 ちょっと怒ってる。



「……だがテメェに人の計画性を指摘する権利があるかよ、試練を続けようとするテメェに」

「そんな僕は駄目な人かな?」

「困難に立ち向かうだけの人生はいずれ破綻するぜ、引き際を見極めるのも大事なんだ」


 魔王が今教えてくれたことはユウにとってもうわかりきったことだった。


「正直、死ぬ可能性が高いのは自分でもわかってるよ」

 これまですら殺されたかもしれないタイミングは何度もある。

 試練に挑めば怪我ですまない危険があるのはユウ自身が最も強く納得していた。


「いいや、わかってねェな、死ぬなんてまだ生易しい、それより辛い目にあう可能性だってあんだぜ」

「……」


 魔王の言いたいことはわかった。

 それは忠告だ、この先は苦しむから進むべきではないという忠告。

 優しさでもある。


「そうだね、多分そのうち試練に僕は負けるかもしれない、そのときに酷く悔やむかもしれない」

「……ならよォギブアップしろ、早い方が得だぜ」


 ユウは首を横に振った。つまり、否定。

 ギブアップはしない。


「なぜだ?」

「……僕は後悔に二種類あると思う、まず一つは”やらなければよかった”」

「へェ?そんでもう一つは?」


「“もっと上手くやればよかった"」

「で、試練に対するテメェの解はなんなんだ」

「きっと僕はひどい目にあって思うのは、"上手くやればよかった"なんだ、だから進むよ」

 ユウは心の底から言葉を発した。

 魔王はあざけるように、ハッと息を吐き出し笑う。


「じゃあもう止めねェよ、その幸運が途切れてヒデェ目見る時楽しみにしてるぜ」

「うん、僕はその時まで試練頑張るよ」


 ユウはそうやって、自分の命を明日からも賭ける。

 そこに何か、自分にとって大切なものが見つかる気がしたから。

 あと、なんとなくノリで”やるだけやるか~”と思ったのも動機の一つだ。


 とっくに覚悟は決まってる、

 だからとりあえず……


「もう寝ていい?体の節々が痛い」

「あ、まァそうだな」


 ……ユウは早くドラゴンにボコボコにされた体を癒やすことにした。

 正直なところ、痛みが今も結構キツかった。


 ベッドに戻り、ユウは寝た。

 未来にどんな困難が待ち受けているかわからないが、それでも立ち向かっていく勇気とともに。


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