一話-出会い-前編
物事の始まりは唐突だった。
「そこのお前、世界を救いたくないか」
中学校から帰る途中の少年に、よくわからん少女が聞いた。
「嫌ですけど……」
少年は素直に返した、知らん奴から突然そんな話持ちかけられても嫌だと返す以外にない。
しかし、このやり取りは本当に世界の命運を賭けたものなのだ。だというのに少年はイマイチぴんと来ていないので、日常の延長のようにだらだら会話は進む。
こんなのが物語の始まりだった。
「私様は魔王、この人間界を支配しに来た魔界王だぜ」
少女は魔王と名乗る。
「すごいですねーそれは」
少年は適当に返答する、変なのに絡まれてめんどいから。
いきなり魔王とか言い出すヤツはどう考えてもアレだ、おかしい奴だ。
「信じてないだろ、ほらよく観察してみやがれ」
魔王と名乗る彼女に言われて観察するとたしかに普通の人間では無い。歯は鮫のように鋭くギザギザしているし、赤い瞳はよく見ればカラコンじゃなく元から赤い。おまけにミルククラウン状の王冠を首にかけている異常なファッション。
「貧相なピエロをAIで美少女イラストにしたみたい」
「馬鹿にしてんのか?」
「いえ、べつに」
煽るつもりは少年になく、本心からの言葉だった。
それが余計魔王を苛立たせた。
「私様が特別な証拠はもっとたくさんだろ?よく見ろ」
彼女の言うとおりだった。
しかし
「鮫のような歯はそういう遺伝で、赤い瞳も遺伝、変な服はファッションセンスが頭おかしいだけ、あなたが魔王である証拠は一つも無い」
少年はそうやすやすと、魔王だなんて非現実的モノを認めない。
「でもホントに魔王なんだぜ、しかもこの世界侵略する気あるぜ、ヤバイだろ?」
魔王は認めさせようと、ひたすら話す。
「……世界世服なんて勝手にすれば?僕に言わなくたっていいじゃん」
「いや止めろや」
「どうでもいいですよ」
ぶっきらぼうな態度を取りながらも、少年は警戒していた。
彼女が世界の侵略とか魔王だとかを信じたわけじゃないが、頭がおかしいとは思った。
改めて少年は魔王を観察する。
彼女の見た目から判断すると、自分と同年代。
来ている服の生地は明らかに高級なものだ、首にかけてある王冠も本物の金。
実際特別な存在であることは間違いないだろう。
「だいたい仮にあなたが魔王なら僕にどうにか出来るワケ無い」
しかし魔王であるとは思わずに会話を続ける。
「テメェは選ばれたんだよ、魔王を止める勇者になれよ“ユウ”」
少年は少し驚く。ユウという名前は間違いなく自分のものだから、個人情報が知らん人にもれているのが怖かった。
しかし冷静になる、気になる事が出来たから。
「聞きたいことがあります」
ユウは手をあげたずねる。
「ん?なんだ?」
「僕を勇者に選んだのはダジャレ?名前が"ユウ"だから?」
「何だくだらんその質問、もっとビビれ」
少女はゴキゴキと首を鳴らす。それは威嚇行動に見えた。
「首を鳴らすのは危険ですよ、健康上」
ユウの返事はちょっとズレていた。
「あまり舐めるな、私様にはテメェを一瞬で殺す力があるんだぜ」
「幼稚園児でもライフル持ってたら僕を一瞬で殺せますし……」
「なんだその理屈、どういうことだ」
「人が人を殺せるなんて当たり前、あなたも他の人と変わらない」
「ほぅ、これを見てもンナこたァいえるか?」
魔王はふんと鼻で笑い、近くの電柱に触れ、握った。
それをあまりにも簡単にするからユウは何が起きたか一瞬わからなかった。起きた事は単純だ魔王は砂山を抉るよう、あっけなく電柱を握り抉っただけ。
「ライフル無くてもいいんだ、私様はな」
彼女が握りこぶしを開くと、どろどろに溶けた電柱がぼたぼた零れ落ちていく。ありえないほどのパワーで握って溶かしたのだ。
ユウは手品を疑ったが、その痕跡やタネが一切無い。彼女はこの世界の人間ではない、その証明を十分すぎるほどにした。
ユウは信じた、たぶん彼女は魔王で魔界からやって来たのだ。
そして彼のしたのは……
「お前が壊した電柱一本に、税金いくらかかると思ってるんだ?」
「え?」
激昂だ。
声を荒らげないだけで怒りに満ち溢れていた。異常事態に直面した結果、誰にも理解できないレベルでテンションがおかしくなっていたのだ。
「電柱を作ったのは国民がわざわざ払った金だぞ……?」
「……そうなのか?」
「みんな生活に余裕が無いのに税金払ってんだぞ……」
ユウは、”キレる若者は大人になってどうなったんだろう”なんて今あんまり関係ない事考えながらキレていた。
「ってかテメェ、私様が電柱もぎ取ったのビビんねェのか?」
「ビビるよ、病院が停電したら死人が出るかもしんない、まぁそう簡単に停電しないとは思うけども」
「いやそのそういう事じゃなく……なんかすまん」
魔王は頭を下げる。
「あれ?謝れるんだあなた」
ユウの中で怒りが急激に薄れた、驚きのあまりに。
「そりゃ、悪ィ事したら基本謝んだろ」
……こいつ侵略とか言ってる奴のわりに、想像したよりまともだ。
多少は話がわかるようなので、ユウの気はだいぶ楽になった。
「僕もごめん、まともに向き合ったら発狂しかねない相手かと」
だから少しフランクに話す。
「私様をなんだと思ってんだよ……」
「不審者、子供に見せてはいけない者」
「殺すぞ」
フランクすぎた。
「とりあえず電柱壊してんだからごめんなさいして弁償してきなよ、交番近くにあるから」
良い感じにユウはごまかす。
「じゃあ後でお前ん家いくからな」
「わかった」
ユウは適当にうなずいた。
「おゥ」
魔王は素早く去っていった、警察に向かったのだろう。
ユウは再び帰路につく、魔王に絡まれてだいぶ時間を取られた。
数歩歩いて、ふと冷静になる。
「……なにしてんだ僕!?」
お前ん家いくからなと言われて「わかった」なんてうなずいてしまった。
反省してもしたりない、警戒が甘すぎる。
意思疎通ができるだけであいつは危険なことに変わりないのに。
「わかったって言っちゃったし、あいつ絶対に家に来るよな……僕の名前知ってたあたり住所もわかってるだろうし」
ユウは凄く嫌な予感がした。それはとてつもなく大きく、とんでもなく大きく、ユウ自身持てあます程の嫌な予感だった。




