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第四話 捨てられないように

 そしてついに入学式。

 高校デビューを狙ってなんかやたら派手な髪形をしている者。

 慣れない化粧をしているせいか能面みたいな顔になっている者。

 高校デビューをする気なんてなく自然体のままでいる者。

 ちょっと校門近くで待っているだけで様々な人間模様が見て取れる。


「お待たせ……将也くん」

 

 遠慮がちな声が響いてきた。

 声のした方を向けば涼音が小さく手を振って立っている。


「か……」

「えと、将也くん。どうかした……?」

「可愛すぎる……っ!」


 あっぶない。あまりの可愛さに思わず吐血してしまいそうになってしまった。

 涼音の制服姿……天使がこの世に舞い降りてきたんじゃないかと思った。

 

「あの……そんなに見られると、さすがに恥ずかしい、かも」

「っ……ごめん、見惚れてた」

「そんな……見惚れてたなんて」


 涼音は顔からしゅぽしゅぽと湯気を吹きだしながら恥じらっている。

 それがまた可愛いのなんの……。


──おい見ろよ、あの娘。超可愛くね?

──うっわマジじゃん。同じクラスになりてぇ……。


 目立つ場所に立っていたせいか、いつの間にか注目を集めていたらしい。

通りすがりの他の一年生たちの視線が涼音に集まっていく。

 高校の真新しい制服を着た涼音は清楚な中にも隠しきれない色香が溢れていて、どこか背徳的で妖艶な魅力を放っている。

 人目を引くのも当然と言えば当然だった。


 涼音も人目が増えてきて居心地が悪くなってきたのか、


「ねえ、クラス張り出されてるし見に行かない?」


 と提案してきた。

 

 クラス発表……緊張するな。

 慧含め中学からの知り合いは多いから完全にボッチになる心配はしていなかったが、問題はそこではない。

 涼音と同じクラスになれるか、それだけが気がかりだった。


 どこの誰かも分からない神に祈りながら名前が所狭しと刻まれた掲示板を確認する。


 一組……俺の名前も涼音の名前もない。

 二組……相羽将也、あった。

それに田代慧の名前もついでに見つけた。また同じクラスか……。

とするとあとは涼音だけ……樋本……樋本、あった!


「やった涼音、同じクラスだ!」

「本当だ! ……嬉しい」


 俺たちは同じクラスになったことをひたすら喜び合った。

 そして同時に気付いた。


「「あ……」」


 いつの間にか手を合わせてしまっていたことに。

 バッと互いに手が離れて、見つめ合っていた目が逸れる。


「その……ごめん」

「いや私の方こそ……」


 甘酸っぱい空気。

 周囲から殺意にも似た鋭い視線を感じる。

 主な標的は俺個人。


──なんだこんな冴えない奴が

──俺早速あの娘、狙ってたのに……


 とか怨嗟のこもった声が響いてくる。

 果たしてこの視線を向けるうちの何人が、涼音が中学時代は干物女なんて言われていたなんて想像できるだろうか。

 もし今でもそうだったら涼音には目もくれないに違いない。

 でも俺は見た目だけじゃなくて涼音の良いところをたくさん知ってますけど? と心の中でマウントを取ってみるのと同時に思うのだ。


──このまま冴えない俺で居続けたら、いつか涼音に捨てられてしまうんじゃないかと。


 きっと綺麗になった涼音はクラスでも色んな人に囲まれてクラスカーストのトップに仲間入りするに違いない。

 そしたら当然俺よりもカッコよくて、気の効いたことを言える男が涼音の周りには増えることだろう。

 その時、涼音は俺を捨てないでいてくれるのか……。

 もちろん涼音はそんなことをしないでくれると信じている。

 それでも拭えない不安が胸の内側にしがみついてくるのを俺は感じていた。


──もっと頑張って涼音の隣に立つのに相応しい人物にならないと。


 俺は改めて決意した。






 それからの俺は筋トレを続けると共に自分磨きにも力を入れ始めた。

 バイトを始めてお金を貯めて、オシャレな美容院で髪形を整えて、少しでも涼音と楽しく会話ができるようにコミュ力を更に鍛えて……。


 そんな忙しくも充実した日々を送っているとあっという間に夏休みが近づいてきた。


 俺の予想通り涼音はオシャレでイケてるグループと行動を共にするようになって、涼音の綺麗さは更に磨きがかかっていった。

それこそ学年一、いや学校一の美少女と呼ばれるくらいになるまでに。


俺も涼音の彼氏ということで同じグループに属してはいた。

皆いいやつだから俺とも普通に仲良くしてくれて……グループの一員として溶け込めてはいたはずだ。

それでもやっぱり心のどこかで劣等感は抱えたままで、それはずっと拭えなくて。


 その最大の原因は俺がチビなままだったことにある。

 背の順で並べば俺は前から三番目とかで、筋トレのおかげでデブではなくなったけどチビイジリが鉄板ネタになるくらいにはチビだった。


 それに対して涼音の身長は更に伸びて170cmも目前に迫っていた。

 すっかり大人の顔つき、体つきになった涼音と俺が並んで歩くとカップルというより仲のいい兄弟みたいで……。


 涼音は全然気にしてないよ、と言ってくれてはいるけど俺はどうにかして背が伸ばそうと毎日牛乳をがぶ飲みして小魚をバリボリ齧ったりしてしつこいくらいにカルシウムを摂取している。



 そして夏休みも目前に迫ったある日の夜中、骨が軋むような音がして俺は目を覚ました。


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こちらが【連載版】になります。大幅に改稿しているので是非こちらもよろしくお願いします。

【連載版】恋は女を女にする〜干物女と呼ばれていた樋本さんと付き合い始めたらどんどん綺麗になって学校一の美少女へと変身しました。
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