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02 お嬢様
ニーデルベルゲン公爵の娘、スフェルネルジェンは焦っていた。
「(まずいまずいまずい!)」
なにしろ、気がついて見れば中世だか近世だかよく分からない、石造りの世界にいるのだからその心中はお察しである。
なぜかお父様と雷雨を見ていたのよね……
そこで白い光がドカーン!
ピギィ! と叫んで昏倒したらしい。
それはいい。
問題は、スフェルネルジェンが、件の落雷により、『前世の記憶』を思い出してしまったことだ。
そして一番の悩みの種は、落雷から二月……、甘えん坊の柴犬のように、みえない尻尾をばっさばっさ振って、「命令下さい! きっと上手にこなしてみせるよ!」とでも言いたげな侍女の、クリステンセン伯爵が第三女、オーヴィリアであった。
「あっ! おはようございます! スフェルネルジェンさま!!!!!!!!」
「うるさい。もう疲れた。寝る。」
「そんなああああああああ!!!!!!!!」
こうして、スフェルネルジェンは異世界転生のあれこれとか前世への未練よりも、このやかましい侍女を黙らせるためだけに、今日も起床するのであった。