80sの虚像に思いを馳せて
https://www.youtube.com/watch?v=G7j_m7aZxUM
8月。多分日付はもう越えた頃。街路灯の麦色の光がカーテン越しに部屋のなかに迷んで、床に散らばった大学ノートやらさっき脱いだ服やらの輪郭を辛うじて映し出す。木製の焦げ茶色をしたローテーブルの上には8,9本の空き缶が転がっている。まるで時が止まってしまったかのように、さっきまでの僕たちの笑い声がただ宇宙にポツンと浮かんでいて、今やっと無重力に気づいたかのように、僕たち以外のあらゆる生命の気配はない。ベッドの上で僕は彼女の肌を指で優しくなぞる。少し冷たいような腕の、産毛の抵抗を感じる。気づくと彼女はすっかり身をゆだね、僕は半ば覆いかぶさるように前のめりになる。カーテンが揺れ、ぬるい風が吹き込み、汗ばんだ僕の背中を冷たく包む。ついでに忍び込んだオレンジの光が、彼女のなめらかな身体と柔らかな表情を、一瞬だけ映し出した。ベッドからは少し観にくいブラウン管から、妖しいシンセとゆったりとした四つ打ちの、ぼやけたような、にじんだようなリズムが、無機質にずっと流れている。もうずっと同じメロディ―を繰り返している。跳ねるように、なぞるように。ずっと繰り返す。彼女が僕の頭の後ろ手を回す。暗闇の中で僅かに光を蓄えた瞳が近づく。やがて光は消え、柔らかな感触に代わった。ずっとずっと繰り返す。なめらかさが僕を包む。きっと僕たちが無重力の中に消えてしまっても、このリズムは流れ続けるんだろう。宇宙はここにある、と、ふと気づく。僕と彼女、ここにある。