あの鐘を鳴らすのは僕だった
どれぐらい僕はこうして立っているのだろう。いつまでこうして立っていなければならないだろう。どちらにしても、もうすぐ終わりを迎えるのだろう。
私は満員電車の中で立っている。故障の為に駅と駅の間で立ち往生している電車の中、身動き1つ出来ない電車の中、車窓に目をやりもうすぐ来るであろう最期の時を過ごしている。
思えば短い人生であった。30代を迎える前にこのような事になるとは想像だにしなかった。否、事前に予兆はあった。私はその予兆から目を逸らしていただけなのだろう。きっと大丈夫だと思いたかっただけなのだ。
そしてその時が来たようだ。私も精一杯の努力はしたが、私の力でどうにか出来る状況では無くなっていた。
『ぶっ……ぶぶっ……ぶぶぶぶぶっ……ブッ!』
そんな音が私の尻から奏でられたと共に香ばしい臭気が密室、且つ身動き1つ出来ない車内の中で拡散する。
奏でられたその音は私に向けての福音では無く、私自らが地獄の扉を開けたという合図の鐘だった。
2020年01月06日 初版