9.風林祭にて
「秋なのに風鈴祭って…」
「字が違うぞ!春樹!風に林で風林祭だ!」
「極めてどうでもいい指摘だ!」
三人で大学の中央棟の通路を歩いていた。
春樹も哲も初めて来たが、なかなか大きな大学だ。
中央棟の周りには一号館から六号館まである。
「12時、15時、18時からの三回公演だから!場所は五号館の三階の講堂な!」
それだけ残して、宗太は去って行った。
「こんなとこに残されてもな~」
結局、高い割に味は普通のタコ焼きをつまみながら、ビール片手に校内を歩いていた。
遠くから聞こえるイカしたグルーブがだんだん大きくなっていった。
「ここじゃね?バンド演奏やってるの。行こうぜ!」
全く期待しないで行ったことは関係なく、単純に圧倒された。
ユキのドラムを聴いた時も使った言葉だが、衝撃はそれ以上だった。
「どう?」
耳元で哲が大きな声を出した。
「歌もギターもドラムも並。でもベース…」
「えっ?何だって?」
春樹は返事をせず、日本人離れしたベーシストを見つめていた。
それもそのはず。明らかに日本人ではなかった。
15時の公演の時には、スクリーンの前にいた。
大きな映像で見た映画は鳥肌物だった。
しかし、それ以上に鳥肌がたったのはその主題歌。
自分で創った曲に、今さっき聴いたあのベース音を頭の中で重ねると、印象が全く変わった。
あの音が欲しい。
「ああ!きっとケビンだよ!アメリカからの留学生」
「コンタクト取れる?てか日本語大丈夫?」
「普通に話せると思うよ。俺はあんま関わりないけど、共通の友達いるから頼んどく?」
春樹と哲は、やはり串丸にいたが、宗太は明日もある為、姿を見せなかった。
電話でケビンとのアポを頼んだ。
「学祭の打ち上げにでも来いよ!ケビンの軽音部との合同打ち上げだから!」
「頼むわ~」
次の日、春樹は一人スタジオに行き、新しい曲の歌を録音していた。
ユキのドラムと春樹のギターはすでに録音済みだが、ベースが入ってから歌を入れようと考えていた。
しかし、そうも言ってられない。
メンバーに勧誘するなら、自分たちの演奏を聴かせるのが一番だ。
ケビンと会うのは楽しみだが、違う人種の人と話すのは中学の英語の授業以来だ。
少しだけ不安はあった。
「我々二つのサークルの成功に!」
『乾杯!』
春樹は初めてマサさんを見た。
「で、何で俺がここにいる?関係なくね?」
「酒あるとこに金山有り!…いいじゃん。心細いんだよ!」
春樹はわざとらしく哲の肩を揉んだ。
「ほら、あそこにいるぞ!お目当ての外人さん!行け!」
「いや、もうちょい酒入れてから!」
「さっさと飲め!」
哲に無理矢理ビールを流し込まれ、口元を濡らしながらケビンに近づいた。
「ハイ!ナイストゥーミーチュー!」
「Nice to meet you,too!」
「あ…」
「How are you?」
「え?あ、アイムファイン」
反射的に答えた春樹を、ケビンは豪快に笑い飛ばした。
「英語のテキストみたいでしょ?だいじょうぶだよ!日本語しゃべれるから!」
イントネーションも問題なさそう。
大分ホっとした。
「ライブ見たよ!凄かった!」
「ありがと!」
彼は瓶ビールをラッパ飲みしていた。
「キミも音楽すきなの?」
「もちろん!」
「じゃあ仲間だね!」
握手、いや!ハンドシェイクをした。
なかなか気さくだ。
「いつからベースやってた?」
「ダディに教えてもらって、ちっちゃいころから」
「ホントに凄いと思った!あの音に合わせて演奏出来たらって!」
「楽器やってるの?」
「ギターと歌。うちのバンドさ、ベースいないんだ!」
チラッと反応を見た。
すると隣にいた男、確かケビンの横でギターの人を弾いていた男だった。
「ダメダメ!ケビンは俺らとプロ目指すんだよ!なあ?」
ケビンは返答せず、ニコニコしながら春樹に問い掛けた。
「どんな音楽?」
「聴いてみてよ!」
オーディオプレーヤーに入れた曲。昨日録ったばかりの曲を聴かせた。
ケビンが聴いている間、トイレに向かった。
これで、彼のおメガネにかなえば加入してくれるはず。
昔、省吾を誘った時も使った戦法。
ダメならダメで仕方ない。彼の音楽が俺の音楽に会わなかっただけのこと。
10分後くらいに戻った。ケビンはニコニコしながらプレーヤーを返してくれた。
「いい曲だね!ボクが弾いたら曲のカンジかわっちゃうよ?」
「変えて欲しいんだよ!一緒にやってくれないかな?」
「掛け持ちでいいなら!」
よし!と心でガッツポーズした。
「今度ドラムと三人で集まろう!」
「O.K!」