8.JUDE
今から約一ヶ月前。
名もなきあの曲を歌った帰り道。
この曲の良さを最大限に生かせる人を思い浮かべた。
先日会ったばかりかもしれないが、ユキの顔、そしてドラムが頭から離れなかった。
少し迷いはしたが、「歩き出す」と決めた以上引き下がれなかった。
「もしもし?春樹?」
「おう!」
「おう!じゃねえよ!この前ライブ来たのか?」
「行ったよ!後ろで腕組んで見てた!」
「何様だよ!全然気づかなかった。で、どうだった?」
「圧倒された」
「嬉しい言葉だね~」
その後沈黙が訪れた。
「何か用事あった?」
ユキの問いには、タバコに火をつけてから答えた。
「哲と宗太っていたじゃん?」
「あ~、お前の友達の?」
「一緒に上京して、今毎日バカやって過ごしてる」
それで?というような間だった。
「正直、デカイ口ばっか叩いて、ろくにギターも弾いてなかった。でも、この前ユキのライブ見て、このままじゃダメだって思った」
タバコの火を消して、黙って聞いていたユキに問いかけた。
「よかったら、また一緒にやんねえ?一緒にJOHNNYを越えよう!」
「お前が言うと変な説得力があるんだよな~」
少し笑いながらユキが答えた。
「今までサポート含めてやってきたバンドの中でも、JOHNNY以上のバンドはなかった。目標は高いぞ?」
「わかってる」
「バンド名は?」
「まだそこまでは」
「そういや、JOHNNYは俺らがつけたんだよな。たまたま二人してチャック・ベリーにハマってさ~。やるならバンド名も越えないと!」
「だな!そうだな~。じゃあ、JUDEとか?」
吹き出したユキはタバコでも吸っていたのか、むせていた。
「ビートルズか!大きく出たな~」
「それだけ本気だって解釈してくれよ!」
「やろうぜ!」
「JOHNNYを越える!」
カーテンを明けると、見事な満月が闇を照らしていた。
上京を、JOHNNYを越えると決めたあの日と全く同じ満月。
狼男さえ、変身を忘れて見とれてしまう程だろう。
「じゃあ、まだメンバー二人?」
「とりあえずベース探してるよ。それで形にはなるから」
串丸では哲、宗太、時折大将が春樹の話に聞きいっていた。
「目星はついてんのか?」
「ユキのサポートミュージシャン仲間も当たってみたけど、イマイチだったんだよな~」
「サポートミュージシャンつったらプロだろ!?それでイマイチか!」
哲は驚き混じりの呆れ顔だった。
「プロだからもちろん上手いよ!でも上手いだけだった。何かさ、上手いより凄いを求めてんだ!」
「難しいな~」
「来週うちの学祭あんだけどさ、結構音楽サークルのレベル高いみたいだから、来てみたら?」
「所詮大学のバンドだろ?」
「まあ、試しにさ!ついでにうちの映画見に来いよ!」
「宣伝かよ!それが目的だろ!」
「一回見ても、デカいスクリーンで見ると違うぞ!」
来週。
ベーシスト発掘に期待はしてないので、ユキには声をかけない。
久々に宗太の映画も見たい。
ただそれだけ。