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僕らが好きだった空  作者: 水上橋博士
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6.SURVIVAL IN THE CITY

7月。

梅雨が明け、溶けそうな都会の夏。

まだ二年目ではこの気候には慣れない。


宗太は最後のレポートを提出し、夏休みに入ったばかりだった。

サークルで海に遊びに行く計画を立てていたが、最近部費が貯まり、念願のハイビジョンカメラを購入したことで、遊びから撮影に変わった。

部室では十名の部員が勢揃いしていた。


「今までのショボいカメラじゃそれなりの映像しか撮れなかったけど、今回はマジでやろう!出来次第で学祭に出せるし!」


珍しく部長のマサさんがやる気になっていた。


「てことで配役決めるよ!俺とヨシで監督と助監督やるから、後はとりあえず脚本だな~」

「宗太どう?」

「俺すか?俺演者がいいっす!」

「どっちもやればいいじゃん!」

「あ~、そうすか…?」



「という感じで半ば押し付けられた感はあるけど、一応書いたから見てみて」

串丸で原稿を渡された春樹と哲は、酒の肴にちょうどいいと目を通した。


内容は、大学生が海でキャンプをし、釣りや焚火などをし、もの凄く若干のロマンス要素があるものだった。


「何だよ!結局遊びに行くだけじゃねえか!」

哲が笑い飛ばした。

「しょうがねえだろ!いきなり脚本って言われても。色々凝ると編集上技術も費用もいるし…」

「何を伝えたいかわかんねえさ。これじゃただ楽しそうでしょ?俺ら仲いいでしょ?ってだけじゃん!モノ創るなら何かを訴えかけないと!春樹の曲だってそうだろ?聴いてて何か感じるものあるだろ?」

「そうだけどさ…」


「哲のくせに説得力あるな!」

「クソ春樹!くせにはいらねえだろ!」

「なあ、クソ春樹?どういうストーリーならいいと思う?」

深刻な顔の宗太はおかしな尋ね方をしてきた。


「そこは乗らなくていいよ!つーか、俺よくわかんねえや。物語なんて考えたことねえから。金山先生に聞いたら?まさかダメ出しだけで終わるわけないだろうし」


「そうだな…」

タバコに火をつけ、金山先生は語り出した。


「例えばだ。大学の仲間で海に遊びに行く。到着したのはいいけど、後から車で食料とか持ってくる役割のやつが急遽来れなくなったんだ!」

「それで?」

「しょうがないから中止にして帰ろうとしたけど、何らかの理由で交通機関が動かなくなってしまった」

「何らかの理由って?」

「何でもいいんだよ!そこは重要じゃない!あ、大将おかわり!」


ジョッキを空け、哲は続けた。


「で、食料もなく、途方に暮れた彼らは、自分達で魚や木の実を調達して餓えを凌ぐ。少ない食料から途中、争いはあるが、みんなで協力して、帰りの交通機関が復旧するまで過ごす」

「おー!それで?」

「ようやく家に帰ったら待っているのは現実社会。争いながらも共に生きて来た仲間と、今度は就職内定について争うんだよ」

哲はタバコを消し、大将からビールを受け取った。


「でもそこでもあの時と同じように助け合う。そこで彼らは気づくんだ!」

「何に?」

「生きているって自体がサバイバル。そして仲間の大切さに」


「お前…。それ今考えたの?テチすげえ!」

「テチって誰だよ!?誉める時は噛むな!」

「マジ、すげえ!それで行こう!」


「つきましては、高宮先生。タイトルお願いします!」

「う~ん。SURVIVAL IN THE CITYとかは?」

「いい!ついでに曲も甘えていい?」

「映像撮り終わったらな!見てから曲考えるよ!」

「脚本書き直してくる!悪いけど帰るわ~」

宗太は一目散に店を出て行った。


「何だよ、あいつ。こんなにビール残して」

「もったいないから大将飲めば?」

「そうだな。客も少ないし」

「かんぱ~い!」



それから一ヶ月後、春樹と哲は宗太の家に呼ばれた。


「久しぶりだな~」

「ずっと海にこもってたからな!」

「焼けたな!で、撮影終わったのか?」

「見てくれよ!」


小さな部屋で行われた試写会。

演出も良かったが、何より。


「宗太演技上手いな」

「最初何か見てる方が恥ずかしかったけど、普通にな」

「哲のおかげだよ!後は春樹に更なる深みを出してもらえば!」

「ヤベ。ここまで完成度高いとプレッシャーかかるな…」

「大丈夫!春樹なら安心だ!」

「二週間くれ!」

「頼んだ!完成が楽しみだ~」


きっちり二週間後。

宗太に渡した一枚のCD。

要所要所のBGMとメインテーマが入ったCD。

宗太は一通り聴いてから、後は監督のマサさんに頼み、串丸にやって来た。


「どうだった?」

「想像以上!でも歌なんだけど…」

「あ~、あれね。創ったはいいけど、どうしても俺が歌うとイメージと違うから…」

「あれ、美奈ちゃん?」

「うん。完成したら見せてくれってさ!」

「お前も凄いけど、やっぱあの娘も凄いわ!マサさんヨシさんも大絶賛してたよ!」

「完成いつ頃?」

「今週中には!」

「出来たらDVDくれよな!店で流すからよ!」

「マジか!大将!」

「俺は頑張ってるお前らが好きだからな!」



完成後、まだ開店前の串丸にて、大将、春樹、哲、そして河合美奈だけの為の試写会が行われた。




監督:中村 雅志

助監督:吉田 博光

主演、脚本:桜井 宗太



『SURVIVAL IN THE CITY』

作詞、作曲:高宮 春樹

歌:河合 美奈

原案:金山 哲




「原案?」

「哲の案がなきゃ、創れなかったからさ!」

「別に大したことしてないけどな~」

哲は恥ずかしそうに背中を掻いていた。


「凄い良かったです!曲の使い方も上手いし!」

「マサさんに言っておくよ!きっと喜ぶ!」

「皆、ホントありがとう!初めてきちんとした作品が創れた!自信になったよ!」

「やめろよ。そういうの」

嬉しそうに春樹が呟いた。


「さあ、店開けるぞ!宗太手伝え!これを店の外に貼ってくれ!」



桜井宗太初主演!

SURVIVAL IN THE CITY

店内上映中!



大将の手書きのポスターだった。

これを見て、映画を見たいとは決して思わないが、大将の気持ちが嬉しかった。


「仲間の大切さ」をテーマにした映画。

その撮影で、「仲間の大切さ」を身に浸みて感じた。


ちょっとだけ、そんな上手いこと思ったが、色んな意味で恥ずかしいので、口には出さなかった。



東京に来て二年目の夏。

外の暑さは終わりかけていたが、目頭は熱くなっていた。

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