表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らが好きだった空  作者: 水上橋博士
5/15

5.そうして一年後

「待ちに待って、設定6ハイエナしたんだよ!そしたらレギュラー出たとこで閉店。しゃあないから流したよ!」

「レギュラー即止め換金とか。男らしいね~」

宗太は哲を小バカにした言い方だった。

場所はもちろん串丸。


「ほい!つくねチーズお待ちっ!」

「待ってました~」

春樹の大好物である。


いつもの場所で、いつもの面子。

いつものくだらない話に囲まれた、いつもの「食卓」

この時間が一番居心地がいい。誰しもがそう感じていた。


「だから!最低スケールくらい覚えろっつってんの!」

「必要ねえよ!ちゃんと出来てんじゃん!」

「ちゃんと出来てない時があるから言ってんだよ!お前は感覚に頼りすぎなんだよ!」

懐かしいような話し声が聞こえて来た。

昔、春樹もよく彰に言われた言葉だった。


今ではしっかりスケールもコードも覚えたが、学校の勉強みたいでつまらなかった記憶がある。

掘ごたつに座った金髪の二人のやり取りを、微笑みながら聞いていた。


「うれしそうだな?」

「何か熱いな~ってさ」

「お前にもあんな時期あったろ?」

「まあね~」

「もう熱冷めたのか?」

「まさか!時を待ってるだけ!その時が来たら誰にも邪魔させねえよ!」

「あれ?俺ら邪魔だった?」

別にそんなつもりで言ったわけじゃないが、気を悪くしたなら申し訳ない。

気を悪くする連中じゃないことは百も承知なのだが。



いつもの帰り道。いつもの三つの影。

これが俺達なりの青春。悪くない。



深夜の繁華街ではギターを手に歌う若者達と酔っ払い達で賑わっていた。

一年前は春樹も同じことをしていた。


こういう言い方は好きじゃないが、金銭感覚が麻痺した顔の赤いサラリーマンはいい金づるになる。


夜の繁華街の片隅で一人歌う少女が目に入り、三人は足を止めた。


ブルーハーツの「終わらない歌」

当たり前だが、ヒロトとは全くタイプが違う。


ストレートに歌詞が突き刺さる本家とは違い、優しい中にも鋭さのある歌声。

三人は心から拍手を送った。

人の歌をこんなにも素直に評価出来たのは、春樹には珍しいことだった。


「うまいね~」

「ありがとうございます…」

哲の言葉に、少女は下手な笑顔で答えた。


「マジ、春樹より上手いんじゃね?こいつさ、昔バンドで歌ってたんだよ」

春樹と少女の目があった。


「JHONNY Bでしたっけ?」


「マジ!?」

これには驚いた。東京で他人から顔を指されるとは思わなかった。


「何で?仙台の人?」

「京都出身です」

「何で知ってんの!?」

「先日はありがとうございました」

言っている意味がわからなかった。


「カラオケの客引きやってます」

合点がいった。先日カラオケに行った時の客引きの娘だった。

確か宗太あたりが春樹の話をしていた気がする。

酔っていた為、あまり覚えていないが。


「一緒にどうですか?」

「いや…」

一瞬躊躇した春樹を、哲と宗太が勧めた。


「久々に聴きてえな~!」

「カラオケじゃ調子出ないんだろ?」

「良かったらギターもどうぞ」

彼女が差し出したヤマハの青いアコギを手にした。


「ええ?…じゃあ。何にする?」

「何でも」

「ロクデナシとかは?」

「大好きです!」


春樹のギターに、彼女のハーモニカ。 そして歌声が、たった二人の観客を魅了した。


「何だろ?感想すら出てこないわ~」

哲の言葉が出来の良さを全て語っていた。


「即興にしては良かったかな?」

「ですね」

春樹の照れ笑いに、少女も照れ笑いで返した。


「二人でバンドやればいいじゃん!」

宗太の何気ない一言。


歌っている最中、同じことを思わなかったわけではないが、恋愛で言えばまだ「気になっている」程度。

まだ「好き」だとか「付き合う」までではない。

女の子相手にこの例えはいかがなものか。

心で笑い飛ばし、自分の中で消化した。


「バンドですか…。やりたくないわけじゃないんですけど、一人の方が気が楽だから…」

「はい!春樹フラれた~」

「ダメなとこ直すから!っておい!」

「下手!ノリツッコミ下手!」

「そこがダメなとこだ!」

四人で笑い合い、春樹とだけLINEを交換し、彼女は去った。


「バンド始めたら教えて下さい。ライブ見に行きますから!」

「わかった!お互い頑張ろう!」

「それじゃあ。一緒に歌ってる時楽しかったです!」


春樹のLINEのフレンドに『河合美奈』という名前がしっかりと登録された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ