5.そうして一年後
「待ちに待って、設定6ハイエナしたんだよ!そしたらレギュラー出たとこで閉店。しゃあないから流したよ!」
「レギュラー即止め換金とか。男らしいね~」
宗太は哲を小バカにした言い方だった。
場所はもちろん串丸。
「ほい!つくねチーズお待ちっ!」
「待ってました~」
春樹の大好物である。
いつもの場所で、いつもの面子。
いつものくだらない話に囲まれた、いつもの「食卓」
この時間が一番居心地がいい。誰しもがそう感じていた。
「だから!最低スケールくらい覚えろっつってんの!」
「必要ねえよ!ちゃんと出来てんじゃん!」
「ちゃんと出来てない時があるから言ってんだよ!お前は感覚に頼りすぎなんだよ!」
懐かしいような話し声が聞こえて来た。
昔、春樹もよく彰に言われた言葉だった。
今ではしっかりスケールもコードも覚えたが、学校の勉強みたいでつまらなかった記憶がある。
掘ごたつに座った金髪の二人のやり取りを、微笑みながら聞いていた。
「うれしそうだな?」
「何か熱いな~ってさ」
「お前にもあんな時期あったろ?」
「まあね~」
「もう熱冷めたのか?」
「まさか!時を待ってるだけ!その時が来たら誰にも邪魔させねえよ!」
「あれ?俺ら邪魔だった?」
別にそんなつもりで言ったわけじゃないが、気を悪くしたなら申し訳ない。
気を悪くする連中じゃないことは百も承知なのだが。
いつもの帰り道。いつもの三つの影。
これが俺達なりの青春。悪くない。
深夜の繁華街ではギターを手に歌う若者達と酔っ払い達で賑わっていた。
一年前は春樹も同じことをしていた。
こういう言い方は好きじゃないが、金銭感覚が麻痺した顔の赤いサラリーマンはいい金づるになる。
夜の繁華街の片隅で一人歌う少女が目に入り、三人は足を止めた。
ブルーハーツの「終わらない歌」
当たり前だが、ヒロトとは全くタイプが違う。
ストレートに歌詞が突き刺さる本家とは違い、優しい中にも鋭さのある歌声。
三人は心から拍手を送った。
人の歌をこんなにも素直に評価出来たのは、春樹には珍しいことだった。
「うまいね~」
「ありがとうございます…」
哲の言葉に、少女は下手な笑顔で答えた。
「マジ、春樹より上手いんじゃね?こいつさ、昔バンドで歌ってたんだよ」
春樹と少女の目があった。
「JHONNY Bでしたっけ?」
「マジ!?」
これには驚いた。東京で他人から顔を指されるとは思わなかった。
「何で?仙台の人?」
「京都出身です」
「何で知ってんの!?」
「先日はありがとうございました」
言っている意味がわからなかった。
「カラオケの客引きやってます」
合点がいった。先日カラオケに行った時の客引きの娘だった。
確か宗太あたりが春樹の話をしていた気がする。
酔っていた為、あまり覚えていないが。
「一緒にどうですか?」
「いや…」
一瞬躊躇した春樹を、哲と宗太が勧めた。
「久々に聴きてえな~!」
「カラオケじゃ調子出ないんだろ?」
「良かったらギターもどうぞ」
彼女が差し出したヤマハの青いアコギを手にした。
「ええ?…じゃあ。何にする?」
「何でも」
「ロクデナシとかは?」
「大好きです!」
春樹のギターに、彼女のハーモニカ。 そして歌声が、たった二人の観客を魅了した。
「何だろ?感想すら出てこないわ~」
哲の言葉が出来の良さを全て語っていた。
「即興にしては良かったかな?」
「ですね」
春樹の照れ笑いに、少女も照れ笑いで返した。
「二人でバンドやればいいじゃん!」
宗太の何気ない一言。
歌っている最中、同じことを思わなかったわけではないが、恋愛で言えばまだ「気になっている」程度。
まだ「好き」だとか「付き合う」までではない。
女の子相手にこの例えはいかがなものか。
心で笑い飛ばし、自分の中で消化した。
「バンドですか…。やりたくないわけじゃないんですけど、一人の方が気が楽だから…」
「はい!春樹フラれた~」
「ダメなとこ直すから!っておい!」
「下手!ノリツッコミ下手!」
「そこがダメなとこだ!」
四人で笑い合い、春樹とだけLINEを交換し、彼女は去った。
「バンド始めたら教えて下さい。ライブ見に行きますから!」
「わかった!お互い頑張ろう!」
「それじゃあ。一緒に歌ってる時楽しかったです!」
春樹のLINEのフレンドに『河合美奈』という名前がしっかりと登録された。