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僕らが好きだった空  作者: 水上橋博士
15/15

15.目指すは天下の台所

「お前のお疲れ会だぞ!主役なんだから来いよ!」

冬を越え、4月に入った頃、宗太がクランクアップしたと聞いた。


「気持ちは嬉しいし、行きたいんだけどさ…」

「まだ何か撮影あんの?」

春樹も哲も最近宗太に会っていない。


「そうじゃないんだけど、昨日打ち上げあって、かなりグロッキー…」

「いつからそんな弱くなったんだよ!いいから来いよ!待ってるから!」

強制的に誘い電話を切った。

なかなか来ないので、春樹と哲で先に飲みはじめ、一時間半経った頃、主役がやって来た。


「お疲れ~!」

「マジだるい…」

「二日酔いなんか飲めば治る!」

春樹は自分勝手な持論を押し付け、無理矢理乾杯した。

…はいいものの、やはり宗太のペースは遅かった。


「いつ上映?」

「G.Wギリギリ間に合ったわ~」

「もうCMやってるもんな?」

「自分で見たことないんだよな~」

「マジで?結構宗太デカく映ってたぞ?ちょい役じゃないんだな!」

「結構重要よ?不良高校生の参謀って感じの役」

「初日見に行くわ~」

「俺ツアー中だな。終わったら見るよ!」


宗太のエンジンがかかるまで時間がかかったが、酔ってしまえば二日酔いなんて関係ない。


「春樹のツアー楽しみだな~」

「おう!The Big Waveってタイトルのツアー」

「でっかい波か~!ぴったりだな!」

「一応それぞれの地元回るツアーだから、結構動員も期待出来るし!でも美奈の地元大阪だと思ってたらさ~」

「京都だろ?でも大阪でもライブやってたって言ってから大丈夫だろ!」


春樹すら忘れていた。美奈が京都出身ということ。

何故こいつらは覚えているのだろう。



それから約一ヶ月。哲とも宗太とも会う機会はなかった。

スーパーの駐車場警備も休みをもらい、バンド練習に明け暮れた。

そしてツアー前日。


朝早く集合し、三バンドと河合美奈の総勢十一名は二台のバンに乗って移動した。

一台は三銃士のバン。これにBEAT69の豊以外六名が乗り込んだ。

運転手はヤストモ。


もう一台、ユキがバンド仲間から借りたバンをユキが運転し、JUDEと美奈と、BEAT69の豊が乗った。


「はい!アウェー!」

大阪に向けて発進した途端、豊が叫びだした。


「私だってメンバーじゃないですよ」

助手席の美奈が振り向いた。


「メンバーみたいなもんじゃん!」

「そんなこと言うならボクはもっとawayだよ?人種的に!」

「こら!ケビン!笑えないジョークはやめろ!」


「今回のツアーの順番でどうやって決めた?大阪、長崎、仙台、福岡、東京って、めちゃくちゃじゃねえ?」

春樹は後ろから運転席のユキに問い掛けた。


ツアーの企画は基本的にリーダー会議で決定される。


「言ってなかったっけ?クジだよ!」

「クジ!?適当だな。明らかに効率悪いし」

「ラストは東京って決めてたけどね。悪い。美奈ちゃん、火つけてくれる?」

美奈の仕草はキャバ嬢の「それ」に見えた。


「俺も知らなかった。てっきりライブハウスの都合だと思ってた」

「逆にリーダー会議参加してみたくなったわ~」

ユキと春樹と豊。交互に運転していたが、一番疲れる役目は助手席の美奈かもしれない。

常に運転手の話し相手を勤めていたからだ。

もう一人、無免ケビンは寝てばかりいた。


「到着!まずはタコ焼きだな!」

「バカ!リハあんだろ!後にしろ!」

調子ついた豊にユキが一喝した。


「よそのリーダーに怒られた…」

「友達のおかんに怒られた感じだな!」


安いホテルに荷物を起き、ライブハウス「ティーンズ」に向かった。


明日の一発目は、BEAT69、三銃士、JUDEの順である。

美奈はどのステージでも本編前に客席を温める役である。


ライヴハウスのPAと打ち合わせをしているうちに、すぐに日が暮れた。


「飯どこ行く?」

「お好み焼きがいいよな~」

「美奈ちゃんいいとこ知らない?」

「大阪はあんまり詳しくないけど、この辺ならまいど屋って店が美味しかった記憶あります」

「よし!そこ行こう!」


ツアーの初日を翌日に控えた彼らだが、名物の粉物を目の前にビールを頼まずにはいられなかった。


「ツアーの成功を祝して!」

「祝すのはまだ早いだろ!」

BEAT69のリーダー、平田健太。通称、ヒラっちの乾杯の音頭にちゃちゃを入れながらも、軽い飲み会が開催された。


流石にそれぞれセーブをかけたので、次の日には完全にアルコールは抜けていた。


洗顔後の春樹は顔を両手で叩き、「絶好調!」と呟いた。

ユキはケビンのイビキであまり寝れなかったらしいが、その顔に迷いはない。


バンドそれぞれで部屋を取り、流石に美奈だけは一人部屋を取っていた。

スマホには哲と宗太からLINEが来ていた。


宗太: 『頑張れよ!高宮春樹ここにあり!』

哲: 『全国で暴れて来い!ラストの東京で待ってるぜ!』


悪い気はしない。

後で聞いたが、美奈にも同じ様な内容のLINEが届いていたらしい。

と言うか、彼らはいつの間にLINE交換をしたのか。


そうして、初のツアー。初の企画ライブ。


「The Big Wave」がスタートした。

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