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僕らが好きだった空  作者: 水上橋博士
14/15

14.雪の降らない街

春樹のツアーが来年のG.Wに決定し、明日から宗太がクランクイン。

そんな冬の日に哲は東京に帰って来た。

久々に三人が串丸に集まった。


「大阪、長崎、仙台、福岡。で、ラストに東京。大分ハードなスケジュールだわ~」


JUDEは哲が帰省している間にも週2回ペースでライブをやっていた。

その頃には、既に東京での人気はそこそこになっていた。

同じく三銃士、BEAT69の人気も跳ね上がり、兼ねてから話していたツアーが初めての企画ライブとなる。


「まだ先の話しだけど、体壊すなよ!」

大将がビール二つとウーロン茶を一つ持って来た。

明日朝から撮影の宗太は流石に飲めない。


久しぶりだとしても、三人揃って乾杯した後はいつも通りのくだらない話し。

やはりこの空間は居心地がいい。


「宗太も芸能人か~」

「まだ事務所とか劇団に所属してるわけじゃないから、そんなもんじゃないよ」

「いや、でも凄えだろ!」

「凄えのはマサさん。谷監督の次回作から助監督だってよ。正式に映画会社に就職してさ」

「おお~!あんま話したことないけど、やっぱあの人凄かったんだな?」

哲の言葉に春樹も頷いた。

「あんま話しに出てこないけど、人知れず凄いな!」


「ここで一つ朗報があります!」

全員が宗太に注目した。


「SURVIVAL IN THE CITYがネット動画で配信されます!」

「マジで!?」

「これがヒットすれば美奈ちゃんもデビューじゃね?」

「俺は?あの曲創ったの俺なんだけど?」

「歌ってんの美奈ちゃんだもん。実際、評判いいんだぞ?」

「何か面白くねえな~」

「お前はJUDEがあるだろ?美奈ちゃんはまだ一人で歌ってんだろ?」

「この前ゲストで歌ってもらったけど、たった一回のステージでかなり反響あったよ!」

「あれだけ可愛くて歌上手かったら人気出るよな~」

「何か面白くねえな~」

哲の言葉に春樹はまたふて腐れた。


宗太の朝は早いので、今日は早目に切り上げた。


「俺明日バイトもバンドも休みなんだ!行く?」

春樹は親指で停止ボタンを三回押すジェスチャーをしてみせた。

「俺パチ派になったもん!」

「変わったな~。哲は」

「それにバイト始めたし!」

「変わったな~」



早くに目覚めた春樹は、やることもないので、宗太のロケ現場に野次馬に行ってみた。

先客が多く、宗太の姿は見つけられなかったが、主演のヒロインを見ることが出来た。

周りはこっち目当てだろうが、名前が出てこない。

言われればピンとくるだろう。

その後は試しにパチンコを打ってみたが、イマイチ楽しさがわからず、結局家に帰りギターを掻き鳴らした。


せっかくの休みにすることがない。

そんな夕方過ぎに美奈から連絡があった。


「暇ならスタジオ付き合ってくれません?」


いつものスタジオに彼女はいた。


「どう調子は?」

「せっかくオープニングアクトやらせてもらうんで、気合い入れないと!」

「初日地元だっけ?」

「です!やっぱり一番楽しみですね」

チューニングを確認しながら彼女は微笑んだ。


「前から思ってたけどさ、何で敬語なの?」

「私年下ですよ?」

「あ~、そっか。普通そうだよな~。俺は音楽仲間は上も下も関係なくずっとタメ語だったからな~」

「いいと思いますよ」


JUDEで歌うのも気持ちいいが、彼女の歌に合わせてギターを弾くのも気持ちがいい。

彼女がカナリアならば、自分はさしずめ鳥かご。それでも気持ちがいい。



今年も雪は降らない。 東北の風も冷たいが、都会のビル風も負けてない。

厚手のジャケットにギターを背負い、美奈から報酬にもらった缶コーヒーの温もりに浸っていた。


一年前は音楽の楽しさを忘れていた。

いや、仲間達との快楽を目の前に、忘れたフリをしていたのだろう。


美奈との出逢い、ユキとの再会が思い出させてくれた。感謝している。


春樹と哲と宗太。

それぞれの歯車がくるくる周り、季節は四度目の春を迎える。


宗太の映画が上映され、JUDEのファーストアルバムが完成。

更にはSURVIVAL IN THE CITYがネット配信。

今年は激動の一年になりそうだ。誰もがそう思った。


哲もそう感じていた。

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