13.宗太の熱意と哲の決意
「やってらんねえよ!こんな学校、こっちから辞めてやるよ!」
「はい!ありがとうございました!じゃあ、次の方。同じセリフでお願いします」
「ありがとうございました!!」
宗太はあるスタジオで行われたオーディションに来ていた。
思い立った理由は、春樹のライブを見てから、負けてられないと感じたこと。
そして自作の映画、SURVIVAL IN THE CITYが思いのほか、大盛況だった為だ。
今ではネット上での再生数、コメントの書き込みがかなり増えていた。
映画が評価されることは嬉しいが、ほとんどは、イコール監督の評価に繋がる。
自分の演技が評価されないわけではないが、これが監督と演者の違いだろう。
「桜井さん。続いて面談どうぞ」
「はい!よろしくお願いします!」
小さな部屋に、映画「School Out」の監督、谷達郎と、その他スタッフが並んでいた。
「今まで演技の経験は?」
「自分達のサークルで映画を撮って、主演やりました!」
「どんな映画?」
「学生がキャンプに行き、トラブルの中、食料もない状況で助け合い、仲間の大切さを知るという内容です!SURVIVAL IN THE CITYって言います!」
「あ~、ネットで噂になってるやつでしょ?見たよ~」
「ホントですか?ありがとうございます!」
助監督と思われる人物が見てくれた。素直に嬉しかった。
「有名なの?」
流石に谷監督までは見てなかったらしい。
「今若者の間で人気ありますよ。見たことある顔だと思ってましたが、彼の演技も良かった」
「ありがとうございます!」
「何故この映画に?」
「監督の作品には沢山影響を受けまして、今後役者をやる上で学ぶことが多くあると思い、身近で勉強させて頂きたいと思ったからです」
「さっきの演技テストも悪くなかったから。ネットで見れるんでしょ?サバイバルなんとか。それ見てから合否の連絡するから」
「是非お願いします!」
「超緊張した~」
「誰?」
「知らねえの?谷だよ!星降る夜って映画有名じゃん?その監督だよ!」
「あ~、あれ面白かったな~」
串丸で春樹と二人飲んでいた。
「受かればいいな~。そしたらプロか?」
大将は随分嬉しそうだ。
「事務所との契約なんてないけど、上手くいけば、いずれどっかから声かかるはず!」
春樹から見ても、眩しいくらいキラキラした目をしていた。
「最近哲と会ってるか?」
「連絡つかない。今日だって」
「何か避けられてる感じするよな?春樹のライヴの打ち上げも体調悪いって来なかったし」
「悪く思うなよ?あいつも色々悩んでんだろうから」
「何にさ?」
「お前らだけ夢に向かって頑張ってることだよ。今までずっと一緒だったんだ。素直に喜べないんだろ?」
「よし!春樹!バンドに入れてやれ!」
「何のパートでだよ!」
「何かあんだろ?ギロとか!」
「チョイスはいいな!」
笑いの後に訪れた沈黙。
「確かに、俺らも最近付き合い悪かったよな?」
「しょうがないけどな…」
「お前ら!だからってここで止まるなよ!」
「当たり前だよ!」
その二日後のスタジオ帰り、春樹は一人串丸に寄った時に大将から聞いた。
宗太が見事オーディションに合格したこと。
そして哲が実家に帰ったこと。
「おう!久しぶり!」
「お前何で言わないんだよ!」
「何が?」
「実家帰ったって聞いたぞ!」
春樹の声は若干怒りが混じっていた。
「一時帰省だよ!親父が倒れたもんでさ」
「またこっち戻ってくんだろ?」
「の予定」
春樹の気も知らずに、哲は何か食べているのか、口をモグモグさせていた。
「だいたいライブ来たくせに打ち上げ来ねえし!」
「何か腹痛かったんだよ」
「串丸にも顔出さねえし」
「いやいや!間違いなくお前らよりは行ってるよ!たまたまだろ?」
春樹は何も言い返せなかった。
「宗太、オーディション受かったらしいぞ」
「マジか~。よかったな!」
素っ気ない返事を聞いた時、哲は煎餅の様な物を食べていることに気づいた。
「最近あんま会ってないし、せっかくだから言わせてもらうわ」
「何だよ?」
「ライブ超良かった!絶対プロになれる!」
無言の春樹に続けた。
「正直羨ましかったんだよ。お前も宗太も。自分の場所で頑張って。俺だけ口だけでさ」
「何かあるって!お前が世に名前残せることが!」
「何かいつか言ってたろ?歴史に名を残すパン屋になれって。あれ本気で考えるかな~」
「継ぐの?」
「まだ決めてないけど。どっちにしてもすぐには無理だし。一回東京には帰るよ!」
「帰って来たら連絡くれよ!三人で飲み行こうぜ!」
電話を切った後、哲の会話をそのまま宗太に伝えた。