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僕らが好きだった空  作者: 水上橋博士
12/15

シンガーソングライター 河合美奈

「本日は始まりの9.18においで頂き、また打ち上げまで参加して頂きありがとうございます!」

「固いぞー!」

三銃士のギタリスト、ヤストモの堅苦しい挨拶が始まった。


「皆さんのお陰で成功だったんじゃないでしょうか?」

「知るか!聞くな!」

罵声なのか合いの手なのか、三銃士のメンバーからはそんな声が飛んだ。


「バンドの皆さん!お疲れ様でした!そしてゲストの皆さんも、ライブ同様、打ち上げも楽しんで下さい!それではグラスを持って下さい!」


3バンド合同の打ち上げが始まった。


JUDE側のゲストは宗太と美奈の二人で、哲はいなかった。



ほとんど初対面通しだったが、ユキやBEAT69メンバーは、ヤストモと知り合いであった。

ヤストモは、サウンドマスターのスタッフである為、他のバンドとは交流が深かった。

飲み放題を延長し、宴は深くまで続いた。


三銃士、BEAT69、JUDEで全国をツアーしようと言う話までになった。

具体的なことはもちろん決めてはいないが、オープニングアクトは河合美奈の語り弾きで。とまで話は進んだ。


「何で美奈ちゃんバンドやんないの?」

BEAT69ベースの豊の素朴な疑問だった。


「一人の方が気が楽なんだもんな?俺がプロポーズ済みだよ!」

春樹が笑いながら美奈に顔を向けた。


「ちょっと前までやってたんですけど…」

「何でやめたの?」

「やめたって言うか、消滅したって言うか…」



一年と少し前の春。

春樹達より一つ年下の美奈は、彼らより一年遅く上京した。

京都から「The Brandnew Stars」というバンドで、メジャーデビューを目標に東京へ来た。

メンバーはドラムの悟、ベースの晋也、ギターの光輝、そしてボーカルの美奈だった。


光輝はスキルはあるものの、典型的なリードタイプの為、バックの音がどうしても寂しくなることが多々あった。

雑誌のオーディション企画に応募した時も、「音が薄い」と一蹴されてしまった。


「東京に出たら、一人増やして、音を厚くせな!」

集まる度にその話題は浮上した。


そして、東京にて。

悟の大学の友人の紹介で、キーボードが上手い女の子がいるとのことで、一度会ってみた。

美奈と同い年の学生。名前は絵里香。

もともとはギターを増やすつもりだったが、一度スタジオでの音合わせにて、彼女を正式メンバーに決定した。


東京では三度ライブをやった。

一度目、二度目と、動員は増えて行き、三度目にはトリを飾る程の人気バンドになっていた。

個々のレベルはもちろんのこと、美奈の歌声と併せ、ライブハウス側からも成長の速さは評価された。

夢に見たメジャーデビューも、夢ではないと確信したサードステージ。


誰もがテンション高めに、あえてメンバーだけで打ち上げを行った。

4件程はしごし、美奈の記憶はなくなりつつあった。


あの夜の出来事が起きてから、アルコールの量は一気に落とした。

見知らぬ部屋の、見知らぬベッドで目覚めた彼女は、生まれたままの姿になっていた。

横には同じく生まれたままの姿の晋也がいた。


酒のせいにするわけではないが、間違いなく男女の関係を持ったのだろう。


それから数日経ってはいたが、スタジオで顔を合わせても、やはりお互いにどこか気まずい。

こんな時、男の方が弱いのかもしれない。

次第に晋也はスタジオに来なくなっていた。

デビューを誓ったばかりの時だった。



晋也抜きでも、練習は続けていた。

そんなある日、バンド消滅の決定的なきっかけが起こった。


キーボードの絵里香の妊娠が発覚した。

相手は悟。彼らは人知れず、恋仲になっていたのだ。


こうなってしまっては、絵里香の休業、または脱退を考えなくてはならない。

しかし、やはりここでも弱いのは男である。

悟がスタジオに顔も出さず、音信不通になったのだ。

絵里香は子供を産むことを決意し、脱退した。

残された美奈と光輝だけではどうしようもなく、事実上の解散となった。



「まあ、私も大人として至らなかったとこはあったけど…。そんな感じです」

話を聞いていた春樹、ユキ、豊、BEAT69のボーカルのハジメ、三銃士のヤストモは言葉を失った。


「だから一人が気楽でいいんです。もしまたバンドやるなら、メンバー内の恋愛は禁止!もしくはガールズバンドやろうと思いました」


この沈黙を破る為、春樹が発した言葉。


「うちらもバンド内恋愛禁止だからな!」

「男だけじゃねえか!気持ちわりいよ!」

春樹とユキの掛け合いで、ようやくそのスペースに笑顔が生まれた。


ここにいるメンバーは、それぞれの過去がある。


デビューを信じて疑わなかった者。

直前で流れた者。

でもその経験を歌に出来る。

俺達には音楽がある。音楽がそれぞれの人生を奏でる。

何て面白いんだ。

春樹は不謹慎にもそう思った。

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